差し入れと鬼騎士団長 2
騎士団長様は、お忙しいらしい。
しばらく、騎士団長様が出て行った入り口を眺めていたけれど、お客様が次々来店してバタバタと過ごすうちに、あっという間に昼を過ぎていた。
「在庫は問題なかったわ……。あとは、焼き菓子を作って帰ろう」
星の光に惹かれたのか、次々とお客様がいらして、ずっと満席だったけれど、今は空席が目立つ。
ティータイムまでは、ひととき店内も落ち着くだろう。
私は、バックヤードに入り、お菓子を作り始めた。
***
でも、それから三日間、騎士団長様は、お店にいらっしゃらなかった。
「どうしたのかしら」
私は、ただの店員で、騎士団長様はお客様。
来る、来ないは、もちろんお客様の自由だ。
だけど……。
たったあれだけの時間で、うたた寝してしまうほど疲れていたのに。
魔女様の家に行ってしまったあとも、夜中働いて、そのあとも仕事だなんて。
仕事が終わっても、帰る気になれず、今度こそ実現した、初恋をイメージしたハートとフリルがデザインされた制服のまま座り込む。
すると後ろから急に肩を叩かれた。
「ひゃ!?」
その気配に気がついていなかった私は、驚きのあまり椅子から飛び上がる。
「……ダリア?」
振り返ると、そこには心配そうな表情を浮かべたダリアがいた。
「あっ、ごめんなさい。何かあった?」
「それはこちらの台詞よ。……ここ三日間、心ここにあらずよね」
「……心配かけて、ごめんね」
「謝ることじゃないわ。……騎士団長様が来ないから?」
「……っ、ダリア」
認めるしかない。最近、私が仕事中まで上の空になってしまっているのは、間違いなく騎士団長様が来て下さらないからだ。
そんな私の反応に、ダリアは微笑むと、一枚の細長い紙を差し出した。
「……御前試合?」
「隣国から、姫君がいらっしゃるらしいわ。それを記念して、御前試合が開催されるの」
「明日……」
「手に入れるの大変だったんだから。明日は店休日だから、差し入れを持って行ってきなさい」
「えっ、迷惑では」
ふふっ、とダリアが笑う。
金の髪をハーフアップにして、ピンクのワンピースを着こなしたダリアは、今日も可愛らしい。
「毎日来ていたのだもの。向こうも気にしているわ。それに、クマのぬいぐるみのお礼を口実にすればいいの。もし、渡せなくてもいいじゃない。……会いたくないの?」
……会いたいです。
それしか答えがなかった私は、あとでダリアにたくさん新作のお菓子を贈ろうと心に決めて、入手困難らしい貴重なチケットを受け取ったのだった。
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