魔女の家と妖精 2
「オーナー! 大丈夫ですか?」
「もちろん、問題ない」
質問を間違えたのだろう。
オーナーが、私を前にダメだと言うはずない。
その証拠に、オーナーは青ざめた顔色のまま、それを隠すように微笑んだ。
「……あの、私」
「リティリアには、もっと自分を大切にしてほしい」
ポンポンッとのせられた手は、大きくて、この手がとても頼りになることを私は知っている。
「……それから、ヴィランド卿にも」
バサリ、と音がして、顔を上げる。
すでに、魔術師団の制服を着たオーナーは、私に背を向けていた
「オーナー!」
「君たちは、人の領域に容易に侵入しすぎだ。そうは思わないか? こんなにも簡単に、魔女様の甘言に惑わされてはいけない」
「……」
金色の瞳が、こちらを振り返ることはない。
それは、明確な拒絶のようにも思える。
「あの日、君に助けられなければ、俺はとっくにこの場所にいない。そのあとも幾度となく助けられたな」
「……それは」
始まりはそうだったかもしれない。
けれど、オーナーは、そのあとずっと私を何度も助けてくれた。
「だから、これは俺の運命だ」
振り返ったオーナーは、そんな言葉とは裏腹に、鮮やかな微笑みを見せる。
そして、私の前から消えてしまった。
「……オーナー」
「あらあら。ヴィランド卿に、合流してしまうのね。それはそれで、素材さえ手に入れば私は構わないけれど。でも、それだと手に入ったものへの対価を払えないわ」
頬に手を当ててつぶやいた魔女様。
「……魔女様は、オーナーを助ける方法をご存じなのですよね?」
「そうよ。でも、運命をねじ曲げるのは大変なの。ただでさえ、シルヴァは、もうここにはいないはずの人間なのだから」
「……」
「そう、あなたが中心になっているのよ?」
魔女様の言っていることは、よく分からない。
けれど、もしも私と出会ったことで、オーナーの運命が変わったのだというなら。
「もう一度、運命は変えられるということですか?」
「出来るわよ。ただし、対価は必要だわ」
「それは、何ですか?」
「妖精に愛される、その力」
その言葉を魔女様が発したとたん、妖精たちが群がるように目の前に現れて、私を取り囲んだ。
「きゃ!?」
「あら、一匹紛れ込んでいるな、とは思っていたけれど、こんなにたくさん仲間を呼び寄せるなんて」
体が急に浮き上がったように思える。
そして、急速に奪われる私の魔力。
「……えっ、何が起こっているの!?」
「はあ。いってらっしゃいとしか、言えないわ」
「ま、魔女様!?」
「これでも、あなたのことは気に入っているの。無事で戻ってきなさい」
そのアメジストのような瞳をなぜか愉快そうに細めた魔女様が、小さく手を振る。
その直後、妖精の住む森に入り込むときのように、周囲が雲の中にいるような景色に様変わりする。
「……本当に愛されているわね。残念」
魔女様の小さなつぶやきが、聞こえたような気がした。
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