魔女の家と妖精 1
「よく来たわね?」
「……魔女様、お久しぶりです」
「願いを叶えてあげるわ」
「……それは」
クルリと私に背中を向けてしまった魔女様。
魔女との取引には、必ずそれ相応の対価が必要だ。
けれど、必ずその願いは叶う。どんな結末を迎えるとしても。
私は慌てて魔女様を追いかけた。
魔女様が提案するなら、そのとき必ず選ばなくてはならない。
そのとき人は、もう戻ることが出来ない運命の分かれ道にいるのだから。
「お願いします!」
「……まだ、取引内容を提示していないわ」
「でも、恩を返さなくては、私は……」
そう、きっと私が今この場にいるのは、返しきれない恩を返すためだ。
「そう。まあ、予想はしていたけれど、ヴィランド卿のことはいいの?」
「……アーサー様のこと、誰よりも大好きで、愛しています。でも、恩知らずになってしまったら、正面から向き合うことが、もう出来ないから」
「……そうね。あなたは、そんな子だわ」
魔女様は、私に歩み寄ると、フワフワした髪を数本掴んで引き抜いた。
プチプチッいう音と、軽い痛み。
「さ、こっちへ来なさい」
「はい」
赤い屋根の家。乾いた薬草の香りに満たされたいつものテーブルを通り抜け、入ったことがない部屋に案内される。
「拾ったんだけど、寝場所を占領されて困っているの。何とかしてくれる?」
「……オーナー!」
白いシーツが掛けられたベッドに横たわっているのは、夜空のような紺色の髪、今は隠された金の瞳をした人だ。
「さ、その宝石をこちらに貸して」
「……」
なぜなのだろう。騎士団長様が、「リティリアの望むように」とつぶやいて魔女様の前で笑った場面を見た気がした。
「……」
「さあ、どうしたの?」
「……この宝石を騎士団長に渡したのは、魔女様ですか?」
「あら、気がついてしまったの? でも、もう対価はいただいているの」
「……騎士団長様が、差し出したのは」
魔女様に宝石を渡そうと、伸ばしかけた腕をそれ以上差し出すことは出来なかった。
私が、魔女様の元で選択を迫られたら、何を選ぶかなんてきっと騎士団長様には、お見通しだったのだろう。
「知ってどうするの?」
「お願いします! 教えて下さい!」
「……素材をお願いしただけよ」
「……」
実際に魔女様が求める対価は、ほとんどの場合物ではないこと、オーナーに聞いたことがある。
素材を頼んだ、その結末に起きるのは。
「……私」
「さあ、早く決めなさい」
そのとき、強い風が吹いた。
魔法で作られた、空気の流れを感じられないこの場所に。
「……当事者の意見も聞かずに、勝手なことをする」
こちらを見つめるその瞳は、まるで砂漠の太陽みたいにギラギラと金色に輝いていた。
「オーナー……」
「本当に困った人たちだね、君とヴィランド卿は。それから、魔女様。助けていただき感謝していますが、二人を巻き込むことを望んでいません」
「あら……」
それだけ告げると、何もかも知っているかのように、オーナーの瞳は、まっすぐに私を見つめたまま弧を描いたのだった。
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