それはお揃い 3
眠ってしまった私の頬をためらいがちに触れるのは無骨な指先。そして、いつもより少し冷え冷えと鋭い声。
「眠っているリティリアに、何の用だ?」
薄く目を開ければ、私の周りには、王都では珍しい妖精がひらひら飛び回っている。
少し開いていた窓から、入り込んできたのだろうか。
「妖精は、時に愛するものに力を貸し、時に愛したものの魔力を根こそぎ奪う……。そうだな、リティリアにとってよいものであれば、そばを飛び回るがいい」
妖精は、人の言葉に返答しない。
通常であれば……。
『……っ!!』
「ん?」
寝起きの目元をゴシゴシこすりながら起き上がった視線の先には、騎士団長様の頭の上で怒ったように飛び回る妖精。
キラキラとこぼれ落ちる金色の粉は、惚れ薬や空を飛ぶための薬の原料になる。
魔女様が見たら夢中になって魔法の小瓶に詰めるに違いない。
その粉が、騎士団長様の頭に降り積もり、しばらくすると淡雪のように消えていく。
「……何故か、妖精が怒っている気がするのは気のせい? その割に仲がよさそうにも見えるし」
騎士団長様が、何故か魔力を与えようとして、弾かれている。
騎士団長様の銀色の魔力。
私だったら、私の魔力よりもよほど欲しいけれど、妖精にとっては違うようだ。
「ん、起きたのか」
「アーサー様……」
抱きしめたままだったクマのぬいぐるみが、騎士団長様に掴まれて脇に置かれる。
「はぁ。クマのぬいぐるみにすら嫉妬するなんて重症だ」
「……騎士団長様も冗談を言うことがあるのですね」
「残念ながら本気だ」
「……え?」
横目に見れば、夢だったのではないかと思っていたプレゼントの山は、まだそこにある。
妖精が、騎士団長様の頭から離れて、興味深そうに大きな箱の上で羽を休めた。
「開けていなかったのか」
そこで肩を落とされても困ります。
騎士団長様は、限度というものを知らないのですか?
少しだけそんなことを言いたくなってしまう。
「……こんなにたくさん、困ります」
「え? 控えめにしたのだが」
「…………はぁ」
貧乏男爵家に生まれた私と、王国の剣、騎士団長であり裕福な伯爵家生まれの騎士団長様は、金銭感覚にずれがあるのだろうか。
「そんなはずない。……幼い頃から戦場で苦労していたはずだもの」
「リティリア……。気に入らなかったのか」
「そ、そんなわけでは」
「そうだな。金とは貯まるばかりで、使い道のないものだと思っていた。贈る相手が出来て、つい羽目を外してしまったのかもな」
シュンとしてしまった騎士団長様は、雨に濡れた子犬みたいだ。
困ったな、と思いながらも私はそんな姿にめっぽう弱い。
「……今回は、受け取ります。でも、これからは、こんなにたくさん贈らないでください。もったいないです」
「……そうだな。これからは、リティリアがこの屋敷の全てを管理するんだ。ちゃんと相談しよう」
「……ん?」
「それはそうだろう。リティリアの仕事だ」
ニッコリと笑う騎士団長様は、眩しいことこの上ない。
結婚した夫人の仕事は、確かに屋敷内の管理だろう。けれど、管理する金額を想像するだけで恐ろしい。
「早速開けてくれるか?」
「はい。……あの」
「なんだ、リティリア?」
「……ありがとうございます。お礼が遅くなってしまってごめんなさい」
「ああ。喜んでもらえるといいのだが」
妖精がまとわりついていた箱の中身は、森のクマさんの新キャラクター。
大きなリボンがついた女の子のクマさんだった。
「……っ!!」
私は思わずそのクマを抱きしめる。
妖精も気に入ったのか、嬉しそうにその頭の上にとまる。
もしかして、箱の数は多いけれど、こんな可愛らしいプレゼントなのかしら。
そんな期待をしつつ、持ち上げた小さな箱は、その大きさに見合わず妙に重い。
嫌な予感を感じながら開ければ、拳ほどの大きさの淡い紫色の宝石と淡いグリーンの宝石が一つずつ、どこか無造作に入っていた。
「……これは」
「うん、お揃いがいいと言っていただろう?」
「……確かに言いましたが」
残りの箱を開ける元気はない。
開けるのは、取りあえず、お揃いというものを騎士団長様に理解してもらってからだと私は、心に決めた。
二つの宝石は、あの日もらった銀の薔薇が入っている宝箱に大切にしまい込む。
「このあとのご予定は?」
「いや、今日は仕事は終えてきたが」
「出掛けましょう!」
「ん?」
贈り物の山を残して、騎士団長様の手を引く。
お揃いとは何かを知ってもらうために。
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