王宮への招待 4
一緒にいると、否が応でも注目を浴びる。
だって人外の美貌なのだ、オーナーは。
「警備はよろしいのですか?」
「うん、俺の部下たちは優秀だからね」
魔術師たちの姿は、会場のどこにも見当たらない。魔法で気配を消しているのだろうか。
オーナーが使う魔法は、カフェフローラを彩る美しいものだ。
その他の時には、たいてい魔力のコントロールを失って、子ども姿だったり、周囲の時間を歪めてしまっているから、オーナーが魔術師団長だという実感が私にはあまり湧かない。
「それに、あまり魔法を使わないように、部下たちに止められているから丁度いい」
「シルヴァ様……」
時空魔術を使う人間は、短命なことが多い。
魔力は実は有限だ。もちろん人によって、一生に使える量に違いはあるけれど……。
時空魔法の使い手は少なくて、有用すぎるその力を利用され魔力を使い切った人もいれば、大きすぎるその力に飲まれてしまった人もいるという。
「ほら、めでたい君たちの婚約をお披露目する夜に、そんな顔をしないで?」
「……シルヴァ様は」
妖精の力を使えば、オーナーの魔力をコントロールすることも、枯渇する前に渡すことも出来る。
でも、それは根本的な解決にはならない。
魔法を使わない以外に、本当の解決法はない。
「踊ろうか」
「え?」
「婚約を発表したら、さすがに俺と踊る機会なんてないだろう。そうだな、今まで助けたことも、助けられたこともそれで全て終わりだ」
私の答えを聞かないままに、オーナーは私の手を引いて会場の真ん中に歩み出てしまった。
一瞬だけ国王陛下と談笑していた騎士団長様と目が合う。
騎士団長様は、少し口の端を歪め一つだけうなずいた。
「ほら、ヴィランド卿のお許しも出た」
「……シルヴァ様」
力強い騎士団長様のリードと比べて、優しくどこか遠慮がちなオーナーとのダンス。
迷っているうちに、音楽は流れダンスが始まってしまう。
「今夜が、最初で最後だから、許して。それに、俺がリティリアを大切にしていることを安全のためにも知らしめたほうがいい」
「そんなこと……」
まるでお別れのような言葉、何を考えているかが読みにくい神秘的な微笑。
美しい紺色の髪が揺れる、私を見つめる金の瞳が、まるで夜空の流れ星のようだ。
「夜を楽しもう」
「……分かりました」
会場の注目は、もう浴びてしまった。
それなら、楽しく踊るほうがいいのだろう。
ずっとお世話になってきた、兄のようなオーナーは、微笑みを浮かべたまま私を見下ろしている。
一曲踊ると、オーナーは手を引いて、国王陛下との会話を終えた騎士団長様に私を引き渡した。
「そろそろ休憩時間は終わりだ。楽しかったよ、リティリア」
「私も、楽しかったです」
パチリと片目を瞑り、ウインクしたオーナーは、いつもどおりだ。
去っていくその背中を見送る。
「さあ、リティリア。もちろん俺とも踊ってくれるのだろう?」
「アーサー様?」
引き寄せられた腕の力は強く、私たちの距離はこの上なく近い。
オーナーは、とても素敵だけれど、一緒にいてこんなにも頬が上気してしまうのは、騎士団長様だけだ。
「……俺は心が狭いんだ。ファーストダンスは譲ったのだから、俺の唯一だと知らしめるためにも、二曲は踊ってもらう」
「えっ」
淡いグリーンの瞳は弧を描いているけれど、どこかメラメラと燃えているようだ。
そのまま、どこか情熱的で距離の近い私たちのダンスは、やはり会場中の視線を集めてしまったのだった。
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