王宮への招待 2
***
その日は朝から大変だった。
私だけではない。王都にいる貴族令嬢や夫人は、皆同じ思いをしているに違いない。
「リティリア様は、お肌がすべすべですね!」
「あ、あのっ」
高価な香油が落とされたお風呂で、磨き抜かれ、そのあとは温められたオイルを全身くまなく塗り込まれた。
ぐったりしているまもなく、久しぶりのコルセットを締められて、忘れかけていた苦しさを嫌でも思い出したあと、淡い紫のドレスを身にまとった。
パタパタとお粉をはたかれて、塗られていくお化粧品。普段も薄いピンク色の口紅は塗るけれど、今日は本格的だ。
「さあ、出来ましたよ!」
侍女の声に、ぱちりと目を開けると、見違えるほどに可愛らしくなった自分がいた。
本当に、ヴィランド伯爵家の侍女たちは素晴らしい。
「…………えっと」
騎士団長様に、早くこの姿を見せたいけれど、やっぱり恥ずかしくてモジモジしていると、しびれを切らした侍女たちが扉を開け放ってしまった。
目の前には、白い正装に紫色の飾り紐をつけた騎士団長様がいた。
髪の毛を上げた姿は、あまりにカッコよすぎて、可愛くなったと思っていた自分のことが恥ずかしくなってしまうほど麗しかった。
「……リティリア、美しいな」
「騎士団長様こそ、物語の中から抜け出てきたみたいに眩しいです」
「はは、光栄だ。リティリアこそ、まるで絵本の中の妖精みたいだ」
妖精だなんて、騎士団長は私のことを喜ばせてしまうのが本当に上手だ。
そして、幼いころ夢中になって読んだ騎士物語の主人公みたいに完璧な騎士様が目の前にいる。
「本当に素敵です」
「そうか? リティリアにそう言ってもらえるとうれしいな。しかし本当に、誰にも見せずに隠しておきたい」
「大げさです」
「……そんなところもリティリアの美徳だが、本当に可愛らしいから、今夜は俺のそばを離れないで」
「……はい」
差し出される白い手袋を身につけた大きな手。
そっとのせた私の手が、まるで子どもの手みたいだ。
「今夜、君のことを婚約者として公示する。だから、ひとつだけ守って欲しいことがある……」
それは何かしら? 次期伯爵夫人として、毅然とした態度、それとも優雅に騎士団長の婚約者として……。
真剣に考える私の唇に、掠めるように触れた唇。
きっと、口紅が落ちてしまわないように配慮してくれたのだろう。
でも、少しだけ物足りない。
「アーサーと」
「騎士団長様?」
「会場でも、アーサーと呼んで」
「えっ」
「……何を驚く? リティリアは、俺の婚約者だ。騎士団長では、おかしいだろう?」
そう言って私を見つめていた淡いグリーンの瞳を細めた騎士団長様は、はにかんだように笑った。
「……アーサー様」
「リティリア、君を守る準備は整った。婚約者だと公示したなら、次は……」
手を引かれれば、上品に輝く淡い紫のドレスが空気を含んでフワリ広がる。
私を見つめる騎士団長様は、今までに見たことがないほど幸せそうだ。
頬を染めて頷いた私も、今までで一番幸せな気持ちでいっぱいだった。
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