一緒に過ごす夜 1
今日も久しぶりの来客に色めき立つ、騎士団長様のお屋敷に勤める使用人たちは浮き足立っていた。
以前よりも華やかに飾られたエントランス。
前回、普段着のワンピースで訪れてしまったことに気を使われたに違いない。
着いた途端に連れ去られるようにお風呂に連れていかれ、磨きに磨き抜かれてドレスに着替えさせられた。
「あれ……。でも、このドレスはいったい」
「ああ、採寸したときに頼んでおいた」
「え!?」
すでにクローゼットには色とりどりのドレスが収められている。
もちろん、以前採寸してもらっているため、サイズぴったりだ。
「騎士団長様……」
「屋敷の中でくらい、名前で呼んでくれないか」
「アーサー様……」
「ああ、リティリア。思った以上に可愛いな」
淡いグリーンのリボンがあしらわれた、クリーム色のドレス。
着心地がものすごくいいそれは、上等な生地で出来ているのだろう。
いきなりこんなに贈られたら困ります、と言おうと思ったのに、あまりに満足げに騎士団長様が笑うものだから言いそびれてしまった。
「――――こんなの、私には過分です」
「俺としては、これでも足りないくらいだ」
「いったい、いくら使ったんですか」
「ちゃんと、余剰資金から出している」
そういう問題なのだろうか。
まだ、結婚したわけでもなく、婚約者としてのお披露目すらしていないのに……。
「10日後には、婚約者として公表するんだ。その後は、すぐにでも結婚したいな?」
「え。そ、それは……」
「――――嫌か」
騎士団長様がわかりやすく肩を落とす。
困ってしまう。私はもちろん嬉しいけれど、まだ解決できていないことがたくさんある。
このままでは、騎士団長様に迷惑を掛けてしまう。
「……レトリック男爵領への支援を止めていたのは、王弟だった」
「……予想以上に大物ですね。巻き込まれてしまいますよ」
「喜んで……。だが、実際問題、騎士団長としても見過ごすわけにいかない。おそらく、王弟の目的は、魔鉱石を使って隣国と手を組み……」
その時、食事が出来たという知らせがあった。
言葉の続きは途切れてしまったけれど、魔鉱石を使って隣国と王弟殿下が手を組むだなんて、大変なのではないだろうか……。
「アーサー様」
「リティリア……。そんな顔をさせたいわけではないが、王国の平和を守るためにも見過ごすことが出来ないんだ」
「……でも、危険ですよね」
その質問への返答はなかった。
代わりに額に軽い口づけが落ちてくる。
「心配するな……。俺は強いから」
「――――心配くらいさせてください」
「俺がいない間は、シルヴァ殿のそばにいる方がいいな」
「……それでいいんですか?」
今の言葉は失言だと、声に出してしまってから後悔したけれど、一度出してしまったものは取り返しがつかない。
それなのに、騎士団長様は、予想外にも微笑んだ。
「そうだな。シルヴァ殿にリティリアを奪われないか不安だ。……今夜は一緒に寝ようか」
「えっ、ええ!?」
「……冗談だ」
冗談だったのだろうか。
一瞬本気にしてしまった。
でも、その割に私を見つめる騎士団長様の瞳は熱を帯びている気が……。
「本当に、冗談だ」
「わ、分かってます!」
赤くなってしまった頬は、どうしようもない。
微笑んだ騎士団長様に手を引かれて、私は食堂へと向かったのだった。
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