二人と乙女系カフェ 2
真剣に仕事に取り組んでいると、時間が過ぎるのは早いものだ。
特にものすごく忙しい日であればなおさら。
「ふ、ふう……。何とかお客様全てにご満足頂けたようだわ」
額の汗を拭う仕草をしながらも、ダリアは一分の隙もなく可愛らしい。
久しぶりに一推し店員に会えて、私は幸せだ。
「ところで、どうして今日はお店に? まだ、故郷にいるはずだったんじゃないの?」
「あ、それはね…………。あっ、あー!!」
私は、バックヤードに飛び込む。
全くお客様が途切れない上に、二人しかいなかったから、思い出す間もなかった。
「騎士団長様、申し訳ありません! ……え?」
磨き上げられて輝く床。
完璧に整えられた在庫。
帳票には、不足分が正確に記載されている。
「こ、これは?」
「リティリアが働いているのに、何もしないわけにいかないだろう」
「え、でも、完璧すぎませんか?」
「騎士団の備品、食糧管理が出来なければ飢えるからな」
「な、なるほど……?」
最後にお皿を洗って帰らなくてはいけないと思っていたのに、すでに洗い上がって磨き上げられた上にしまわれている。
「え? 伯爵家のお方のはずでは……」
「……リティリアも貴族令嬢だ。それに、騎士団にいるんだ。身の回りのことくらいは出来るに決まっているだろう? まあ……。子ども時代は、料理くらいは自分で」
「あ、あの」
「ん?」
そうだ、騎士団長様は、お父様であるヴィランド伯爵が政略結婚前に付き合っていた恋人の間に生まれたと言っていた。
色々と事情があるのかもしれない……。
「私でよかったら、毎日料理します。……あ、でもそれは料理長さんのお仕事ですね」
「はは。可愛いな。リティアの作ってくれた食事は、きっと料理長にとっても新鮮だろう。ぜひ作って欲しいな。そして、一緒に食べよう」
「は、はい!」
手を引かれ、チラリと振り返ると小さくダリアが手を振って、軽くウインクした。
視線を下げれば、大きいけれど少し冷たい手にすっぽりと包まれてしまった私の手が見える。
「……泊まっていくだろう?」
「え?」
「料理長には連絡しておいた。リティリアに会えると、小躍りしていたよ」
「い、いつの間に?」
「まあ、合間にな」
騎士団長まで上り詰めるお方というのは、何でも出来るのだろうか。
一人感心しながら手を引かれ歩いて行く。
「あと、一週間程度の休みがある。明日は一緒に、ドレスに合う装飾品でも揃えに行こうか」
「え?」
「面倒かもしれないが、ヴィランド伯爵家の婚約者として、ある程度の体裁を整えてもらわなくてはいけない。そうだ、それから魔鉱石を加工してもらおう」
そう言って、騎士団長様はポケットから魔鉱石の原石を一つ取り出した。
「あ、いつの間に……」
「うん、魔女の家に飛ばされる直前、足元に転がってきたんだ。割ってみようか」
「え? でも、ハンマーもノミもないですよ」
「問題ない」
騎士団長様が魔力を流すと、原石は銀色に輝いた後、パカリと真っ二つに割れた。
「す、すごい……。それに、なんて綺麗な石」
「ああ、これは当たりだな。妖精からの贈り物かな?」
騎士団長様の手には、少し小ぶりだけれど、高品質な魔鉱石が乗っている。
「ちょうど、指輪に加工するのに良さそうだ。今日中に魔力を込めておくよ」
「えっ……」
そう言って笑った騎士団長様のご尊顔は、あまりにもまぶしい。
まるで、南の海に日が当たって反射したみたいにキラキラしている。
少しだけ強面な印象がある騎士団長様は、笑うと急に可愛くなるのだ。
その笑顔に胸をときめかせた私は、騎士団長様のお屋敷に泊まるという事実をすっかり忘れ、手を引かれていったのだった。
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