二人と乙女系カフェ 1
「とりあえず、こんなにたくさん七色のサクランボがあっても……。届けていいですか?」
「あ、ああ……。予想外に早く帰ってくることになったな」
「そうですね。あと一週間くらいは最低でも帰れないと思ったのですが」
顔を見合わせた私たちは、従業員用の裏口からお店に入り込んだ。
今日のお店はどこか薄暗い。
店内をそっと覗けば、星屑がきらめく満天の夜空だった。
「ま、まさかオーナーは、また調子が悪いのでしょうか」
「先日の様子を見れば、魔力のコントロールに難儀しているのかもしれないな」
「…………」
「とりあえず、サクランボをしまうか?」
「そ、そうです……ね。あわわわ」
私は衝撃を受ける。
なんということだろう。長期休暇をいただく前に、在庫に関しては指示をして問題ないようにしていたはずだ。けれど、すでに棚の中は空になっているものが多く、並び順もぐちゃぐちゃになってしまっている。
「あわわわ!」
「……なるほど。つまりこの店は、リティリアの手によってまわっていたと言うことか」
「そ、それは言い過ぎですけれども!!」
けれど、確かにこのお店のお菓子は半分私が作っていたし、在庫管理も最近は一手に引き受けていた。
でも、ちゃんと仕入れられるだけ仕入れて、次の仕入れについても手はずを整えていたはず……。
「き、騎士団長様」
「このまま働く気か?」
「だ、だって、これはまずいですよ」
「そうだな。俺もそう思うが」
騎士団長様は、裏口からバックヤードに入り込み、水道で手を洗った。
「ふむ、サクランボを置くのはここか。これは、種類ごとに分けているんだな? ずいぶん乱れてしまっているようだ」
ささっと品物を並べ替えていく騎士団長様の手際はものすごくよい。
驚くまもなく、あっという間に戸棚が整理され、足りない在庫がハッキリとしていく。
「す、すごい……」
「入団したばかりの頃に、備蓄倉庫の管理を任されていたからな。似たようなものだろう。さ、リティリアは、足りない在庫を仕入れる手はずを……」
その手は止まることなく、むしろ以前よりも整然と完璧に整えられていく。
何でも出来る人というのは存在するのだと感動しながら眺めていると、後ろから華やかで興奮した声が聞こえてきた。
「り、リティリア!!」
「ダリア……? わ、可愛い!」
今日も、この店ナンバーワンの人気店員ダリアは、可愛らしい。
今日の衣装は、水色のワンピース。
妖精の羽が生えているワンピースの各所に輝いているのは本物の星屑に違いない。
金色の髪の毛は、ツインテールにまとめられ、可愛らしさを増している。
「うぅ! 助けて!! みんな体調を崩してしまって、私一人なの!」
「え、えぇ!? それは大変!!」
用意されていた衣装に身を包み、私は騎士団長様のことをすっかり忘れて仕事を開始してしまったのだった。
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