魔鉱石の色を染めて 2
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胸に輝く魔鉱石は、たぶん値段がつけられないに違いない。
拾った魔鉱石に、それぞれの魔力を込めてもらっただけだから、元手はかからないにしても……。
市場に出回らない高品質の魔鉱石が3個に、王国の五本の指に入る3人の魔力……。
けれど、胸に輝く宝石は、三人の気持ちが込められているようで、見るたびに頬が緩んでしまう。
「嬉しそうだな?」
「はい! とても嬉しいです」
「そうか、ところで……」
騎士団長様が差し出したのは、大きな箱だった。
促されるままに開けてみれば、中には薄い紫色のドレスが入っていた。
「あ、もしかして、あの時のドレスが出来上がったのですか?」
「そうだ。……リティリア嬢に、さぞや似合うだろうな」
微笑んだ騎士団長様。
こんなに素敵な人から、ドレスを贈られて、よろこばない女性なんてきっといない。
「騎士団長様、ありがとうございます。でも、お礼をしてもしても、返されてしまって困ります」
照れ隠しがほんの少し紛れているにしても、間違いなくそれは私の本音だ。
「いや、本当にそのドレスについては……」
騎士団長様が、わかりやすく眉間のしわを深くする。
何かあったのかと首をかしげると、騎士団長様が、一通の手紙を取り出した。
王国の誰もが知っている、ワシと国旗の紋章が描かれた封蝋。
「…………え、まさか」
「その、まさかだ。王家から夜会の招待が来ている。リティリア嬢にも……」
「わ、私もですか!?」
社交経験がほとんどない私にまで……。
確かに、騎士団長様と一緒にいると決めたとき、避けて通れない道だと覚悟はしたけれど、こんなに早く。
「……領地での魔鉱石に関する問題が片づいたら、一緒に参加してもらえるだろうか」
「……私で役に立てるでしょうか」
「そんなこと考えなくていい。そもそも、俺にはリティリア嬢以外にはパートナーがいない。頼むのはこちらのほうだ」
騎士団長様のパートナーになりたい人は、星の数ほどいるに違いない。
それでも、私がいいと言ってくださるのなら。
「私、がんばります。その夜会は、いつですか?」
「二ヶ月後だ……」
「そうですか。それでは、早く魔鉱石の採掘をしてくれる人たちと一緒に採掘場へ行かないと……」
「まだ、二ヶ月もある」
「いいえ! 二ヶ月しかない、です。特訓しなくては」
その言葉を私が告げると、騎士団長様は、美しく儚いほど淡いグリーンの瞳を瞬いた。
「……特訓?」
「はい! 騎士団長様の隣に立つための特訓です!!」
礼儀作法については、母が亡くなるまで厳しくしつけられたし、ギリアム様の婚約者として培った貴族令嬢としての振る舞いも、きっと役に立つ。
でも、もっと、がんばらなくては!
騎士団長様のお役に立ちたいもの!
「……そうか、そのネックレスはとても似合うが、その日までに俺の魔力だけを込めた指輪を用意したら、つけてくれるのかな?」
「え?」
「……俺の婚約者として、参加して欲しいから」
その瞬間、こぼれてしまった涙。
わかりやすく慌てた、涙でぼやけた騎士団長様。
「こっ、これは、嬉し涙ですから!」
騎士団長様に、誤解されては大変と、必死で涙を拭っていると、そっと頬に大きな手が触れて、口づけされた。
「……は、知っている、と言えるくらい、自信が持てたらいいのにな」
「騎士団長様」
「リティリアのことだけは、あきらめることも出来ず、自信を持つことも苦手だ」
「そうですか……。でも、私も自信がないんです。だからもっと、自信をもたせて下さい」
そっと、騎士団長様の胸元を指先で引っ張って、目をつむる。
落ちてきた優しい口づけは、まるでお互いが好きだと告げる、告白みたいだった。
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