魔鉱石の色を染めて 1
さっきまでなら、気負うことなく入れただろう室内。
でも、真相に気がついてしまった今となっては、ドアを叩くのにも深呼吸が必要だ。
……でも、オーナーは、私に命を救われた恩を返してくださったのよね?
あまりに大きすぎたお返しに驚いてしまったけれど、今までだって、いつもオーナーに助けてもらってきた。
私は、私のやり方で、お礼をしていけばいい。
ふぅっ、と強く息を吐いて、ドアをノックする。
そして、そっと開けて部屋を覗くと、淡いグリーンの瞳と、金色の瞳が同時にこちらを向いた。
向かい合った二人は、あまりに絵になる。
そういえば、カフェフローラのダリアも、オーナーと騎士団長様は、熱狂的なファンクラブがあるほど人気だと言っていたわ。
二人ともどこか深刻な表情をしているから、なにか大事な話をしていたのだと予想する。
「あの、お邪魔でしたか?」
「リティリア嬢が、邪魔なはずないだろう」
立ち上がった騎士団長様は微笑むと、私のそばに来て、手を取った。
そのまま、当然のようにエスコートされた私は、先ほどまで騎士団長様が座っていた場所に座らされる。
そして、隣に座った騎士団長様。
なぜか、いつもより少し距離が近いような……。
用意されていた紅茶を一口飲んで、オーナーが顔を上げる。
「手に持っているのは、魔鉱石の原石かな?」
私がかごに入れて抱えてきたのは、オーナーの言う通り魔鉱石だ。
ぱっと見ただけなら、ゴツゴツした白い石にしか見えないけれど、割ってみれば分かる。
そもそも、魔鉱石の原石は、当たりを引くのが難しい。
何千個も割って、ようやくまともに使えるサイズの魔鉱石が出るのが一般的だ。
……でも、これは妖精が教えてくれたものだから。
「リティリア、俺は見るのが怖い」
「オーナーも、騎士団長様も見ていて下さい。今から恩返しします!!」
「恩返し、とは?」
かごに入ったトンカチとノミ。
注意深く原石を割れば、中から透明な石がコロリと飛び出した。
……ふふっ、初めから大当たり。
「そのサイズ……」
「予想の上を行きそうだ」
騎士団長様とオーナーの、驚いたようなあきれたような声。
でも、まだまだこれからです。
それから小一時間、私は黙々と原石を割った。
戦果は思った以上。市場に出回る数倍の大きさの魔鉱石も、三個ほど紛れていた。
「どうですか!?」
「……どうですかと言われても」
「恩返しになりますか!?」
少し戸惑ったように見えた騎士団長様は、小さいけれど一番質がいい魔鉱石を手に取った。
……お目が高いです!!
「そうか、俺にくれるのか?」
「はい! それ、この中で一番質がいいものですよ! 小さいけれど、市場には出回らないでしょうね」
「そうだろうな……」
大きな手が、小さな魔鉱石を包み込む。
その瞬間、太い節くれ立った指の隙間から、銀色の光があふれ出した。
騎士団長様の魔力は、美しい色だ。
でも、色が見えるほど強い魔力を出すなんて、いったい何をしているのだろう。
「騎士団長様?」
「少し黙っていて?」
「は、はい」
数分の沈黙。徐々に小さくなった光が消えて、騎士団長様が微笑みながら顔を上げた。
「両手を出してくれないか?」
「えっ、こうですか?」
そろえた両手の上に転がってきたのは、先ほどまで透明無色だった魔鉱石。
今は、銀色の光を宿して、時々七色に反射しながらキラキラ輝いている。
「へぇ、楽しそうだな。俺もやろう」
オーナーが手にしたのは、もう一つあった小さいけれど、高品質な魔鉱石。
王宮魔術師のオーナーは、さすが数十秒で手のひらを開いた。
「えっ、あの?」
「うんうん。俺たちの魔力に耐えられるほど、質のよい魔鉱石は、珍しいからね」
私の手のひらには、まるで金と銀の星みたいな、魔鉱石。
二つの石は、最高の宝石でも叶わないくらい、キラキラ輝いていた。
「あっ、なにか楽しそうなことしている!」
途中から来た弟は、部屋に戻ると、自分も小さな魔鉱石を片手に戻ってきた。
結果、私の手のひらには、淡い紫、そして金と銀の魔鉱石が残された。
「えっと、これはものすごく価値が高いのでは?」
「そうだね。姉さんのネックレスに仕立ててもらえばいい。……ヴィランド卿に」
「お、お礼にならないのでは!?」
「残りの魔鉱石でも、十分王都に屋敷が建つだろ?」
「……残りを二人で分けるよ。リティリア嬢、ありがとう」
「はっ、はい……」
数日後、地元の職人の手により超特急でカットされた三つの魔鉱石は、縦に並び、私の胸元で輝いていた。
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