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逃避行と夢を集めたお店 2


 ***


 レトリック男爵家は、どちらかといえば田舎貴族の部類に入る。

 私なんて、子どもの頃何回か王都に来たことがあるだけだ。


「たしか、このあたりのはずだけれど」


 大きなリュックを背負って、周囲を見渡す。

 次の瞬間、ひらりと1枚の木の葉が私の前を横切った。

 その木の葉は、まるで意思でもあるみたいに、クルクルと私の前で回ると、通りの向こうへと飛んでいく。


 ……シルヴァ様の魔法?


 私は、そんなに魔力に敏感ではないけれど、木の葉からは確かにシルヴァ様の気配がする。

 慌ててリュックを背負いなおすと、私は木の葉を追いかけた。


 どんどん、木の葉はメインストリートへと近づいていく。

 そして、急に目の前に、そのお店は現れた。


「カフェ、フローラ?」


 淡いピンク色のレンガに、白い扉。

 確かに聞いていたお店の名前た。

 予想以上に可愛らしいけれど。


「よく来たね」


 その時、聞き慣れた声がした。

 先ほどまで自由に飛んでいた木の葉は、魔法が解けたのかひらりと道路に落ちる。


 ヒョイッと私の背負っていたリュックを取り上げたその人は、久しぶりに会うけれど、やっぱり目が開けられないほど眩しい美貌だった。


「お久しぶりです。シルヴァ様!」

「よく来たね、リティリア。ただ、今後俺のことはオーナーと呼ぶように」

「オーナー?」

「そう、いい子だ」


 頭にポンッと置かれた手。

 シルヴァ様、いいえ、これからはオーナーと呼ぶのよね。オーナーにしては、近い距離。

 一人で来た私を心配してくれてのことだろう。


「……今日からここで働くんですね! 面接とか」

「……働かなくてもいいけれど、リティリアがそれを望むなら、今から面接をしようか」

「はい!! こんな素敵なお店で働けるなんて夢みたいです!!」

「そう、気に入ってくれたのなら、作った甲斐もある」


 いつものように、ミステリアスな微笑みを私に向けたオーナーは、エスコートするように私を店内へ誘った。


「すごい!! え、どんぐり山ですか!?」

「ああ、リティリアが来る日は、このテーマにしようと決めていたから」

「……妖精」


 お店の中の景色は、魔法で作られたものだ。

 けれど、懐かしい景色の中には、金色の鱗粉をまき散らして飛ぶ妖精の姿。


「オーナー、これはダメです」

「ここには、俺とリティリアしかいない。誰も見ていない」


 いろいろな出来事が起こっても、決して泣かないと決めていた私は、危うく泣きそうになった。


 そんな私の頭をそっと撫でてくれたオーナー。

 それは、私の大切な思い出のひとつになっている。

 でも、まさか全部私のために用意されたものだなんて。


 ***


「どうすれば、こんなに大きな恩を返せるのかな」

「…………ずいぶん長く、物思いにふけっていたけど、シルヴァ様の命を何度も助けているんだから、恩は返しているよ」

「……」


 けれど、騎士団長様と出会うまで、カフェフローラは、私の全てだったから……。


「まあ、姉さんの中で、答えは出ているみたいだから、僕はもうなにも言わないけどね」


 弟の言葉は、いつだって難しい。

 答えなんて……。まだ私はその問いにすら、向かい合えていないのだから。

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次にくるライトノベル大賞2025ノミネートありがとうございました!
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