男爵領と魔法 5
少し薄暗い空間の中でも、艶やかに光を宿す、暮れかけた空と同じ紺色の髪。
振り返れば、瞳に焼き付いて離れない金色の瞳。
通常であれば、病的に見えてしまいそうな、青白い肌も、神秘的にしか見えない。
だぶだぶの服を着たまま、美少年になってしまったオーナー。
あいかわらず、人外の美貌が放つ輝きが、まぶしいです……。
胸を押さえて地面に膝をついたオーナーは、ひどく苦しそうだった。
「オーナー!!」
「リティリア……? ぐっ、どうして、こんな時に、いつも君は現れるんだろうね」
「そんなこと言っている場合では、ないでしょう!?」
周囲を見渡せば、逃げ遅れたのか、好奇心なのか、まだ5人ほど妖精が残っている。
「……リティリア、このままいれば、そのうち治まる」
「こんなに苦しそうなのに、放っておける訳がないでしょう!!」
私の瞳は紫で、妖精たちはこの色が大好きだ。
オーナーによると、妖精が好きな魔力の色らしい。
「お願い。少し力を貸して?」
手を差し伸べれば、少しだけ迷うようにクルクルと飛んだあと、妖精たちは私の手のひらの上に集まった。
あまり多くはない魔力が、吸い取られる感触と、吹き始めた甘い香りがする風。
「リティリア」
どこか呆然とした、騎士団長様の声がした。
その声は、確かに騎士団長様に違いないけれど、いつもの低くて心地よい声ではなくて、高くて澄んでいて、どこか可愛らしい。
「お願いっ!」
妖精たちが、オーナーの体からあふれ出した魔力を吸い取っていく。
花の蜜が好な妖精たち。
でも、その主食は魔力だから。
ほんの一瞬の間。
どこか暗く、ザワザワしていた木々はおだやかに静まりかえり、どこかに消えてしまった鳥たちが高らかに鳴く。
「……オーナー、大丈夫ですか?」
「……ああ、だが」
大人の姿に戻ったオーナーの青白い頬に、少し赤みが差している。
いったい何があったのかしら、首をかしげていると、オーナーは慌てたように私から目をそらした。
「っ、……。この事態を引き起こした俺が言ってはいけないのかもしれないが、リティリア、君、目のやり場に困る」
「…………は?」
見下ろした視線の先には、大胆に覗く、白い太ももだ。そう、魔力の暴走が治まったからなのか、私の姿は元に戻っていた。
…………つまり。
「っ、きゃ、きゃああああ!?」
慌てて、白いシャツを引っ張ったけれど、太ももの半分も隠すことができない。
「………ごめん」
「あっ、まだ魔法を使ったら! 無茶しないでください!」
けれど、次の瞬間、私の体は、少し明るめの紺色をしたワンピースに包まれていた。
振り返った騎士団長様の服装も、紺色のズボンに白いシャツに変わっている。
「……うん。デザインにこだわる余裕までは、さすがにないな……。たぶん1、2時間くらいしかもたないから、早めに着がえたほうがいいよ?」
それだけ言うと、完全に魔力枯渇直前だったのに、無茶をしたせいなのか、オーナーは地面にバタリと倒れ込んだのだった。
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