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男爵領と魔法 4


「……どうしましょう。騎士団長様」

「明らかに今、この姿の俺を騎士団長と呼ぶのはおかしいだろう? ……アーサーと」

「アーサー様」

「まあ、ただアーサーと呼んでもらいたいというのは、願いすぎか」


 騎士団長様の眉間に、いつものしわがないことに密かに衝撃を受ける。

 本当に可愛らしいけれど、困らせたいわけではないので、そのことは黙っておく。


「それにしても……。おぞましさすら感じる、強い魔力の渦だ」

「私には、そこまでわかりませんが」


 ただ、妖精たちがあわてたようにあちらから飛んでくるから、オーナーがいるのは、騎士団長様が見据える方向で間違いないのだろう。


「危険だから、ここで待っていてくれ、と言っても聞かないのだろうな」

「そもそも、ここにいれば安全なのですか?」

「……まあ、俺と一緒にいたほうが、安全か。いざとなれば、奥の手もある」

「奥の手?」

「ああ、幼い頃は、剣よりも魔法を使う機会のほうが多かったからな。この姿でも、リティリア一人くらい守ってみせよう」


 カフェフローラで、あの日満天の星空から、いともたやすく、星の光を手にした騎士団長様。

 オーナーが、いたずらっぽく言っていたもの。

 星の光を手にできるほどの魔力を持つのは、王国に3人しかいないと。


「……無茶しないでくださいね?」

「……その言葉、そのままリティリアに返してもいいだろうか」

「……手を、握っていてください」

「ああ」


 ふれあう小さな手は、いつもと違って温かい。

 ひんやりした騎士団長様の手になれてしまった今、どこかむずがゆい。


「行こうか」

「はい」


 小さく歩き出した私たちは、魔力の渦に飲まれていく。

 近づけば、近づくほどに、濃厚になる魔力の気配。


 そこまで、魔力を持たない私にも、わかるほど、それは濃厚になっていく。


 ――――あの日と、まるっきり同じ。


 オーナーと初めて出会ったのは、どんぐり山の奥、本当であれば、妖精たちが許してくれた人しか入れないはずの場所だった。


「騎士団長様、ここから先は、抜けるまで、ぜったいに私から手を離さないでくださいね?」

「……ああ、わかった」


 ぎゅっと音がしそうなほど、強くつないだ手。

 ここから先は、私たち姉弟、あるいは私と一緒に来た人しか、抜けられない迷い道。


「なるほど、戦場でこれを仕掛けられたら、ひとたまりも無いな」

「物騒ですね。そこまでではないですよ。ちゃんと妖精たちは、迷った人を人里に送り返してくれます」


 フワフワと浮かぶ白い雲のようなモコモコ。

 それは、地面を覆い隠して足下一面を埋め尽くす。

 七色の光が、その雲にときどき映り込んで、幻想的だ。


 一筋の金色の光が寄ってきて、私たちの前でクルクルと回ると、ゆっくり先導するように飛んでいく。


「着いていきます」

「任せよう」


 いつもとは逆、私が騎士団長様の手を引いて歩くのは、どこか新鮮でドキドキする。


 ほどなく、足下には小さな小枝や落ち葉に覆われた茶色い地面が再びあらわれて、私たちは魔鉱石が採れる秘密の場所にたどり着いていた。


最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

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次にくるライトノベル大賞2025ノミネートありがとうございました!
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