男爵領と魔法 3
大人になってから抱き上げられたまま、木々の間を走り抜ける経験なんて、そうそう無いに違いない。
「無理していませんか?」
「羽のように軽い」
「そんなはず……」
背が小さい私と騎士団長様では、体格に大きな違いがある。
今だって、まるで軽い荷物でも抱えているかのようだ。
私は、少し余裕を取り戻して、太い首に腕を絡めて周囲を見渡した。
「あ、れ……?」
いたずら好きな、妖精たちがどこかあわてて飛び回っている。
なぜだろう、なにに警戒しているのか。
「魔力の、気配?」
次の瞬間、踏み込んではいけないぬかるみに、片足が入ってしまったように騎士団長様が姿勢を崩した。
それでも、膝をついて抱きしめてくれたから、衝撃すらなかったけれど。
そう、膝をついて。
……膝をついて?
「騎士団長様……。その姿」
「……リティリアこそ、うん。可愛らしいな?」
抱きしめてくれた、まだ細くて華奢な腕は、私とそんなに変わらない。
艶々とした黒い髪の毛に、大きな淡いグリーンの瞳。最初に目が行ってしまいそうなくらい長いまつげ。
「騎士団長様こそ、想像以上の可愛さです」
目の前には、おそらく子どもの頃の姿になってしまった、騎士団長様。
そして、同じ目線に縮んでしまった私。
「……余裕があるな」
「この魔法を、知っています。それにしても可愛いですね?」
「っ、そうか。まあ、時間を操れそうな人間など、俺もひとりしか知らない」
「たぶん、騎士団長様が想像しているとおりのお方です」
だぶだぶになってしまった服は、お店の中を自在に変化させることができる、この魔法の主に会うことができれば、解決するだろうけれど。
裾を引きずってしまいそうなスカートを脱ぎ捨てて、シャツ一枚になった。
予想通り、シャツはワンピースくらいの長さがある。
スカートベルトを外して、ギュッとウエストを結ぶ。
騎士団長様は、同じくシャツだけになって、器用にマントを羽織った。
ダブダブのシャツとマント、小さな手足、なんとも可愛らしい。
「本当に、可愛いと言われたことがないなんて信じられません。なんという可愛らしさ」
「わかった。ここまでの可愛いの連呼で、一生分満足をした。勘弁してくれ」
大きすぎる靴は歩きにくくて、早く見つけなければ、日が暮れてしまいそうだ。
「……っ、オーナー!! どこですか!?」
返事はなかったけれど、オーナーがどうしてこの場所にいるのか、それは予想がつく。だって、初めてお会いしたのも、この場所だ。
妖精たちが、こんなにも多くいる場所は、きっと王国を探しても、あといくつかしかない。
妖精たちの周囲は、いつだって珍しくて貴重なものであふれているのだから。
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