お祭りと妖精の花冠 1
翌日は、晴天だった。
「あれ? この服は……」
「ああ、このあたりの民族衣装だ。以前も、カフェフローラで着ていたな?」
白いブラウスに刺繍が施された赤いスカート、茶色のコルセットベルト、編み上げのブーツ。
それが、今朝用意されていた衣装だった。
少しだけ違うのは、コルセットベルトの編み上げひもが、淡いグリーンということぐらいだろうか。
「最近はあまり見かけなくなったが、祭りの日には皆着るそうだ」
「そうなんですね?」
見上げた騎士団長様は、白いブラウスに銀色の刺繍が美しい黒いベスト、そして黒いズボンの出で立ちだ。
赤いスカートの衣装に比べて色合いは控えめだけれど、大人の雰囲気を持つ騎士団長様が着ると、信じられないくらい絵になる。
「周囲の視線すべてを、さらってしまいそうですね」
「ああ、リティリア嬢はかわいらしいから当然だろうな」
「……もちろん、騎士団長様の話ですよ?」
「……ああ、そういえば」
急に笑顔になった騎士団長様が、内緒話でもするように私の耳元に唇を寄せる。
「祭りの雰囲気を楽しみたい。そのため、周囲に騎士団長だと知られるのは、どうかと思うのだが」
「そ、それもそうですね?」
せっかく、知り合いのいない場所で、お仕事のことなど思い出さずに、楽しんでほしい。
私は、全力でうなずいた。それを見た騎士団長様は、どこか余裕を感じる笑顔を深める。
「リティリア嬢もそう思うか? それなら、今日はアーサーと呼んでもらおうか」
「え!? 心の準備が」
「――――君と祭りを心から楽しみたい。……リティリア」
「…………!?」
結局、返事ができないままの私の手を軽く引いて歩き出してしまった騎士団長様。
「わぁ……!!」
昨日の景色とはまったく違う、色とりどりの色彩。
白い壁と赤い屋根が整然と並んで統一感があった街並みが、今日はたくさんの色であふれかえり、賑やかで楽しい雰囲気に様変わりしている。
「騎士団長様!! こんなに賑やかなお祭り、初めてです!!」
「…………リティリア」
「…………あの、騎士団長様?」
「アーサーだ。リティリア」
騎士団長様の長くて節くれ立った指先が、まるで悪いことをした唇をとがめるようにそっとなぞる。
地面に膝をつかなかった私を、誰か褒めてほしい。
「っ……あの」
「昨日は呼んでくれたのに」
いつも大人の余裕と威厳を感じる騎士団長様が、少しだけ子どものように拗ねる姿は、あまりに心臓に悪すぎる。
「うぅ……。行きましょう、あっ、……あ、アーサー様」
「……ああ。そうだな、今日は祭りだから、欲しいものは全部買ってあげよう」
「子ども扱いです…………」
「そうだな。今日だけは、子どもに戻って楽しめばいい」
子ども扱いが嫌で言い返したにもかかわらず、初めてのお祭りがうれしすぎた私。
「……っ、あの綿菓子! キラキラ小さい粒が宝石みたいに光っている上に、七色ですよ!?」
「はは。ほら、味も七種類らしいぞ?」
「本当に! ピンク色の部分少し酸っぱくておいしいです。……わぁ! ピンク色の飴がかかったフルーツ!! お花みたいに甘い、いい香りがします」
「ふ。そうか、ほら。これなら小さいから次も食べられる」
「パリパリしている。おいしぃ……」
すっかり周囲の子どもたちよりもはしゃいでしまい、綿飴にフルーツ飴、串に刺したお肉に、この地方の郷土料理らしいサクサクの素朴な焼き菓子まで、思う存分ごちそうになってしまったのだった。
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