魔女様とカフェ店員と騎士団長様 1
溶かしたチョコレートは、つやつやのトリュフへと姿を変える。
少しビターで、私だったらもう少し甘い方が好みだけれど、ブラックコーヒーを嗜む騎士団長様には、きっとこちらが口に合うに違いない。
「少しだけ、飾り付けしようかな」
振りかけたのは、星屑の光が、さらに小さく砕けたかけら。
真っ黒なチョコレートに、キラキラ輝く星屑のかけらが、まるで夜空みたいだ。
……喜んでもらえるといいな。
仕上がりに満足しながら、在庫確認をしたけれど、明日中になくなりそうなのは、七色のさくらんぼと、星屑の光だけのようだ。
「やっぱり、今日中に魔女様の家におじゃましないと……」
このお店で使っている食材は、手に入りにくいものが多い。
その代わり、どの飲み物も、お菓子も、とても可愛らしくて美味しいのだ。
制服から、普段着に着替えて、三つ編みにしていた髪の毛を解く。
……いけない、クマ耳のカチューシャを外し忘れそうになったわ。もし、このまま外に出てしまったら、相当恥ずかしい……。
クマ耳のカチューシャをロッカーに入れて、代わりにくったりとした感触のクマのぬいぐるみをとりだして、大事に抱える。
「リティリア、お疲れ様!」
バックヤードにいた、ダリアが裏口から出ようとした私に、声をかけてくる。
「お先に、ダリア。あ、そうだ。もし、オーナーがお店に寄ったら、星屑の光がもうなくなりそうだって伝えておいてくれる?」
「うん、わかったわ。リティリアは、魔女様のところに寄って行くのでしょう? 気をつけてね」
「うん。ありがとう、また明日」
「また明日」
私のフワフワと揺れる髪の毛は、店の外に出たとたん、風に吹かれて揺れた。
お店のなかから外に出ると、いつも魔法が解けてしまったような、なんともいえない気持ちになる。
誰もいない小さな部屋に帰るのは、少しだけさみしくて、少しだけホッとする。
「魔女様は、いらっしゃるかしら?」
魔女様は、文字通り世界中を飛び回っているから、お会いできないことも多い。
私は、店を出てまっすぐ、王都のメインストリートを歩いていく。
ゆらゆら揺れる空気がある路地裏。
そこが、魔女様の家への秘密の入り口だ。
普通の人には、見つけられない、その場所。
けれど、カフェフローラのオーナーと、魔女様は古くからのお知り合いらしく、その関係で、私も特別に敷地に入ることを許されている。
片足を揺らめく空気の層に踏み入れる。
「リティリア嬢!!」
「……えっ!?」
ひどく慌てた声と、私の手を掴んだ大きな手。
その声と、無骨な手に、私は覚えがある。
次の瞬間、空間が大きく歪んだ感覚とともに、私は赤い屋根の小さな家の入り口に立っていた。
一緒に来てしまったらしいお方と、二人仲良く手をつないだまま。
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