領地と秘密の瞳 2
それから1週間。
お言葉通り、騎士団長様はお屋敷にも、カフェフローラにもいらっしゃらなかった。
「大丈夫? 今日発つのよね? 目の下にクマができているわよ」
「ん、大丈夫。心配かけてごめんね?」
今日も金色の髪の毛と、淡い水色の瞳が美しく、キラキラと透けるうろこのような飾りがついた、人魚姫をイメージした制服を身につけたダリアはかわいい。
バッグヤードに戻りながら振り返った店内は、淡い水色に染められて、時々ユラユラと差し込む水面を通した光が差し込んでいる。
「きれい……」
本当に水の底のお城みたいだと感心しながら、この美しい景色を騎士団長様と見ることができなかったことだけが、なごり惜しい。
(でも、さすがに一度は帰らなければ……。魔鉱石のこともあるし)
魔鉱石の採掘準備が整ったなら、どうしても領地に帰らなければいけない。
私か弟が、いなければ、採掘は進まないのだから……。弟一人に任せきりというわけにはいかないだろう。
のろのろと着替えて、ロッカーに入れておいた荷物を背負い、裏口から外に出る。
「騎士団長様……」
「そんな風に切なく呼ばれるなんて、喜んでもいいのだろうか」
「っ、騎士団長様!?」
勢いよく振り返った視線の先には、なぜか私服姿の騎士団長様が、荷物を抱えて立っていた。
「今日発つのだろう?」
「はっ、はい! あの、見送りに来てくださったのですか?」
「……そう見えるか? ところで、そのクマのぬいぐるみ、持って行くのか? 荷物になるのでは……」
大きなリュックを背負った私は、大事にクマのぬいぐるみを抱えている。
騎士団長様にお会いできないまま旅立つならせめてもと持ってきたのだけれど、まさか見られてしまうなんて。
「騎士団長様と一緒にいられるような気持ちになれるので」
「く……。なんだそれは」
騎士団長様が、口元を押さえ、眉間にしわを寄せた。
子どもっぽいとあきれられてしまったようだ。
「本当にリティリア嬢は、俺のことをダメにするほど、かわいい、な」
「えっ、ええっ!? 何言っているんですか」
「……仕方がないだろう。嘘偽りない本音だ」
けれど、予想に反して騎士団長様の口からこぼれたのは、私のことをなぜかかわいいと褒める言葉だった。
そして、驚くべきことに、騎士団長様が、ずっとお屋敷に帰らず、お店にも来られなかった理由は、長期休暇を取るためだった。
「リティリア嬢は、狙われている。危険だ」
寝る間も惜しんで仕事をして、騎士になって初めての長期休暇をもぎ取ってきてくれた騎士団長様。
その目元には、激務を物語るようにくっきりと隈ができていて申し訳ないと思いつつも、一緒にいられることがうれしすぎた私の口元は、緩んでいるに違いなかった。
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