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領地と秘密の瞳 1


 ***


 それから、なぜか騎士団長様のお屋敷からカフェフローラに通う日々が始まった。

 騎士団長様は、少し遅れてお店に入って、コーヒーを飲んでお仕事に出かける。

 もちろん、夜警もあるから帰ってこられない日もある。

 そんな日も、会えないことはない。

 この場所に、騎士団長様は必ず現れる。


「律儀ですね……」

「何がだ?」

「毎朝、コーヒーとサンドイッチを召し上がりにいらっしゃることです」

「……ん?」


 不思議そうに、騎士団長様は首をかしげた。

 私は、何かおかしなことを言ったかしらと、一緒になって首をかしげる。


「リティリア嬢、君に会うためだという発想はないのだろうか」

「え、毎日のようにお会いしているではないですか」

「――――それでも、ここで働いている君を見るのが好きなんだ」


 今日のテーマは、どこまでも続く草原と、ミツバチに蝶。

 私の衣装は、小さな羽がついた黄色と黒をベースにしたミツバチ。


 蝶々をイメージした服も選べたけれど、少々フリルとビジューが多くて、平凡な私には着こなせそうもなかった。


「今日の衣装も、可愛いな?」


 コーヒーを飲んで、栄養が偏らないように中身に気を遣ったサンドイッチを平らげると、騎士団長様は今日も席を立った。


「――――そうですね」


 これでもかというくらいボリューミーなパニエで広がったスカートは、歩くたびにフリフリと揺れる。まるで、空を飛ぶミツバチみたいだ。


 草原一面に咲いているのは、一つ一つは主張しない可憐な花々。

 けれど、一面に咲き誇っている景色は壮観だ。


 店内を満たすように、ほのかに香るのは、花の香りかそれとも甘い蜂蜜の香りか。


「ところで、この景色は、どこか君の故郷に似ているな?」

「……そう、ですね」

「……レトリック男爵領には、いつ向かう?」

「……来週には」

「そうか」


 そう、呼び戻されているのだ。

 そして、この景色は、私の故郷レトリック男爵領をモデルにしているに違いない。


 ……オーナーと出会ったのも、こんな場所だった。


「ひと月ほど、離れますが、お店をやめるわけではありませんから」

「……そうか、ひと月か」

「騎士団長様?」

「…………」


 黙り込んでしまったあと、騎士団長様はなぜか私を見て、困ったように微笑んだ。


「忙しくなりそうなんだ。しばらく、屋敷に戻れそうもない。……ここにも来られないかもしれない」

「あ、そう……ですか」


 私、勝手に旅立つまで、毎日会えると信じていたらしいわ……。

 騎士団長様に会えなくなるだけでさみしいのに、出発直前に会えなくなるなんて。


 本当に騎士団長様にはお会いできなくて、私は出発までの1週間、気落ちしたまま過ごしたのだった。

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次にくるライトノベル大賞2025ノミネートありがとうございました!
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