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疎まれ隊長と少女 2


 どこか浮き立つような日々。

 けれど、永遠に幸せな日々が続くことなどない。


「……弟が?」


 魔獣との戦いに明け暮れていた俺に届いたのは、ヴィランド伯爵家の後継者であるはずの、弟の訃報だった。


 その日、王都に急遽戻ることになった俺は、せめて一度でもリティリア嬢に声をかけようと思った。

 しかし、彼女の姿を見つけることはできず、レトリック男爵領に別れを告げることになる。


 レトリック男爵領には、豊富な地下資源があり、ウィアー子爵家嫡男との婚約もしていることから、すぐに復興すると考えていた俺は、浅はかだった。


 まさか、婚約は破棄され、リティリア嬢は、行方をくらませてしまうなんて、王家からの支援も何者かの手によって途絶えるなんて。


 ***


「リティリア嬢……。もし、あの時知っていたなら、君をなんとしても助けたのに」


 …………そこまで話した騎士団長様は、話を区切った。弟さんが亡くなって、急に伯爵家の後継者になり、それでもずっと最前線で騎士団長様が戦い続けていたこと、私は知っている。


 ……それよりも。


 無意識に動いた私の体は、騎士団長様を抱きしめていた。

 もうすっかり、真っ暗になってしまったバルコニーに、ふたりきり。


 苦しかった3年前。


 時々その姿を見た、素敵な騎士様が、私のことを見ていてくれたなんて、信じられない。


 でも、その時、きっと苦しんでいた騎士団長様に、もし寄り添えたなら。


「大丈夫です。私、今とっても幸せです」

「そうか……。そうだな、俺がいなくても、この目に映る君は、いつも笑顔だった」


 騎士団長様は、こんなに素敵で、優しくて、強くて、地位も名誉も何もかも持っているのに、自信がない。


「…………レトリック男爵領に、支援してくれていたそうですね」

「……それは、地下資源が豊富なレトリック男爵領に、投資する意義を」

「……ありがとうございます」


 その言葉は、ひとつの事実で、それでいて本質を隠しているような気がした。


「そんなことに恩を感じてもらいたくない」


 大事な故郷を助けてもらって、恩を感じないはずもないし、なんとか返したい。


「もし、私のことを思ってしてくれたことなら、とてもうれしいのですが。勘違いでしょうか」


 なぜか落ちてくるのは、観念したような長いため息だ。


「……そう、認めるべきだな。結局のところ、君を手に入れたくて俺は」


 でもきっと、そんなことを抜きにして、騎士団長様は助けてくれたに違いない。

 3年前から行われていたヴィランド伯爵家からレトリック男爵領への融資も、あくまで対等な関係で申し出があったという。

 おかげで、王家からの支援が得られなかった領地は、なんとか持ちこたえることができたのだと、私と騎士団長様の噂を耳にした弟からの手紙に書いてあった。


「騎士団長様は、嘘つきです。でも、もしそうだったら、うれしいです」

「リティリア嬢には、敵わないな」


 そう言って、抱きしめ返してきた腕が、なぜか不器用に思えて、抱きしめ返しながら、とても可愛らしく思えてしまった。

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