カフェ店員と騎士団長様 4
微笑んだまま、騎士団長様は私に手を差し伸べた。
その手にそっと小さな手を重ねる。
「……そろそろ、食事にしようか」
「――――もう、そんな時間ですか。それでは、ご迷惑にならないように、そろそろお暇しますね?」
「……なぜそうなる。リティリア嬢を歓迎するために、食事の用意をしたに決まっているだろう」
「え?」
「いつも、ごちそうになってばかりだからな」
自分が払ったお金で、カフェでコーヒーを飲んでいるだけですし、結局サンドイッチだって自分で払ってしまった。
ほんの少しつけたお菓子も、お礼だから、残念なことに、私は一回も騎士団長様にごちそうなんてしていないのだけれど……?
「えっと……」
「難しいことを考えるな。……そうだな? 君と一緒に食事がしたい。いつも俺ばかり食べているからな」
「あ、その……」
「……ダメだろうか?」
……ダメなはずないです。
首をかしげて、ほんの少し不安そうにも見える表情の騎士団長様。
さすがに、そんなかわいらしい表情を前にして断ることなんてできない。
「あの、では、お言葉に甘えてご一緒させていただきます」
伯爵家の晩餐に招待された、完全に普段着の私。
実は、私は庶民が着ているようなワンピースしか持っていない。
領地に帰れば、どうしても貴族として参加が義務づけられるパーティーのため、一着は残してあるけれど、ほかはすべて領地の復興の足しにするため、売ってしまったのだ。
チラリと、自分のワンピースを見つめた私の視線に気がついてしまったのだろう。
騎士団長様は、そっと私の頭を撫でた。
「俺しかいないから、気負わないでほしい」
「……ありがとうございます」
「ドレスを贈りたいな」
「……え、遠慮します」
そこまでしてもらうわけには、いかないわ。
レトリック男爵家も、徐々に立て直している。
どうしても、必要なものであれば、最低限買うことはできるはずだ。
騎士団長様が差し出した手を取る。
今度は、ゆっくりと私に会わせたスピードで歩き出した騎士団長様。
私は、その後に続く。
「あれ? 廊下に花が飾ってありますね」
「…………」
黙ってしまった騎士団長様。
不思議なことに、至る所に花が飾られて、先ほどこの場所に来たときの閑散とした雰囲気が消えている。
「……普通に、客をもてなすだけだと言ったはずなのだが」
「……え、本当に私、この格好でご一緒していいのでしょうか」
食堂の扉を開いた私たちは、しばらくのあいだ、その場で動けなくなった。
私たちに頭を下げる使用人。
王宮の晩餐会かな? というぐらい豪華で品数が多い色とりどりの食事が並べられた食卓。
それを背景に、ずらりと並んだ使用人が私たちを出迎えていた。




