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カフェ店員と騎士団長様 3

 

 そんな私の考えなんて、たぶんお見通しだったのだろう。

 視線を感じて顔を上げると、淡いグリーンの瞳が、思っていたよりもずっと近くにあった。


「……リティリア嬢」

「騎士団長様?」


 予想外に聞こえたのは、軽いため息だった。


「君が抱えている問題が、どれほど大きくても、問題ない。今の俺よりも危険な立ち位置にいる人間は、国王陛下くらいに違いない」


 ……その言葉の意味が、すぐにはわからなくて、でも遅れてきた理解に私は息苦しさを覚えた。

 そう、いつも優しく微笑んで、余裕のある表情だから、つい忘れてしまいそうになるけれど、目の前にいる人は。


 ……有事の際にはいつも一番前で戦い、そして王国の中枢にいるお方なのだ。


「誰も愛することはないと……。いつ死ぬかもわからない場所に立つ俺の人生に、誰も巻き込みはしないと決めていたし、できると思っていた」


 私の肩に、トンッと背中を丸めた騎士団長様が、額を当てる。


「王都で、もう一度君の姿を見るまで」


 私が抱えているものよりも、ずっと大きなものを抱えたまま、誰も巻き込みたくないと願っていた騎士団長様は、本当に優しい。


「もう一度?」

「俺は誰かを愛すことなんてないと、愛さずに生きていけると、かたくなに信じていた」


 私の肩に、まるで懺悔でもするように押しつけられた額。

 私にできることなんて、何一つ思いつかないから、せめてそっと抱きしめる。


 明るい瞳の色と対比するみたいな、真っ黒な髪の毛。もっと、堅いのかと思ったのに、予想よりずっとやわらかい。


「リティリア嬢、君は、俺に巻き込まれた自覚はあるのか?」

「騎士団長様……」

「すべてをかけて、守ると誓う。君の憂いをすべて取り除こう。恋人、婚約者なんて願いすぎだとわかっている。……好きだといってもらえただけで、俺は」


 おそらく、私が抱えている、レトリック男爵家の秘密なんて、王国の秘密のなかでは、それほど大きくないに違いない。

 きっと、周囲に知れ渡れば、それなりの騒動に巻き込まれるのは、想像に難くないとしても。


「全部、話します」


 今、私に頭をそっと抱きしめられた騎士団長様は、王国最強で、鬼騎士団長なんて呼ばれているのに、守ってあげたくなる。

 もちろん私は、なにひとつできない。

 それでも、そばにいてもいいのなら、危険に身を置く覚悟だけは持てそうだ。


 ……そんな場所に、一人で立っているって、理解してしまったから。

 耳の上にかかった髪の毛をそっと撫でる。


「そばにいます。だから、守ってくださいね?」


 口にすることができないのは、騎士団長様を守りたいという、ただのカフェ店員の私には、叶えられない願い。


 それなのに、その願いが通じたみたいに、顔を上げた騎士団長様は、「約束する」と晴れやかに笑ったのだった。

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