カフェ店員と騎士団長様 2
「それにしても、解決って……」
首を傾げて見上げた騎士団長様は、なぜかパッと私から視線を逸らす。
「そういえば、他にもう一つ、何か伝えることがあるって、言っていましたよね?」
「嫌な話になるが」
「大丈夫ですよ」
だって、そう言って口籠もってしまった騎士団長様こそ、なぜか辛そうなのだもの。
だから、私のことなんて気にせずに、話してほしい。
「すまない。……実は、先日ギリアム・ウィアーが、この店に来たことについてなのだが……」
「なにか、あったのですか?」
婚約破棄されたことは、すでに私にとって過去になりつつある。
いつも、婚約者として縮こまっていた私は、このお店で働いて変わることができたと思うから。
今も、自信がないことは、変わらないとしても。
「ああ……。実は、ウィアー子爵家は、すでに没落寸前らしい。そして、店を訪れた時にレトリック男爵家の地下資源について語っていたが……」
ウィアー子爵は、たしかに資金繰りが悪かった。
だからこそ、家格は下でも当時は潤沢な資産を持っていた、レトリック男爵家の長女である私と婚約を交わしたのだ。
地下資源。たしかに、私の実家、レトリック男爵家は、疫病や天災、多くの不幸が重なって落ちぶれてしまったけれど、豊富な地下資源を持ち、魔道具を動かすのに必須の魔鉱石も産出される。
時間さえあれば、立て直すことはできるはずだった。
けれど、婚約破棄され、その上なぜか王家からの支援も滞り、魔鉱石を採掘するための資金を手に入れることができずに、苦境に立たされたのだ。
そんなレトリック男爵家は、ようやく再生しつつある。魔鉱石を採掘する準備も整ったと聞く。
だから、私が王都にいるのも、この店で働くことができるのも、もうすぐ終わりになるはずだった。
「……三年前、通常であれば復興のために支給される王家からの支援が、滞ったことと関係あるのでしょうか?」
「聡いな……。ああ、そうだ」
たしかに、私の婚約破棄とレトリック男爵家の没落に伴い、なんとか私たちの領地を手に入れようとする貴族たちにより、復興が遅れてしまったのは、事実だ。
私を妻にして、レトリック男爵領を手に入れようとする貴族もいた。
家族のためを思えば、条件のいい縁談を受け入れるべきだった。
そうしようと思ったのに……。
家族たちは、私の知らない間に、すべてそんな縁談を断ってくれたのだ。
「魔鉱石、ですか」
「ああ、魔道具を動かすには必須だ。もしかすると、天災の後起こった不幸な出来事のいくつかは、人為的なものなのかもしれない」
「……そうですか」
魔鉱石の採掘については、少しだけ問題がある。
いくら地下に魔鉱石があるとわかっていても、誰もが手に入れられるわけではないのだ……。
俯いてしまった私の頭に、もう一度大きな手が添えられる。
頭を撫でられるのかと思ったのに、その手はするりと私の髪を撫でて、そのまま頬に降りてくる。
「心配する必要は、もうない」
「やっぱり、考え直したほうが……」
どう考えても、王家からの支援を留めることができるなんて、権力を持っている人だ。
いくら、騎士団長様だからって、危険に違いないもの。
それに、魔鉱石が目的で動いているのなら、このお店で働くという名目で、王都に逃れ、オーナーの庇護を受けている私と関わるのは、もっと危険だ。
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