出会いと花の妖精 2
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花の妖精に引き続き、今日のお店のテーマは、精霊の眠る深い森だ。
苔むした地面、湧き出た泉から流れ出した小川が店内を流れている。
触るとたしかに冷たいのに、魔法でできているから、服や靴を濡らすことはない。
……カフェフローラのオーナーは、天才魔術師なのだ。
光はどこから差し込んでいるのだろう。
木漏れ日の中、木から木へかわいらしいリスが飛び移っていく。
ピンクのストライプのワンピースから打って変わり、今日の制服は落ち着いた印象だ。
コルセットのついたワンピースは、裾が長い。
優しく淡いグリーンと、ベージュのワンピースは、歩くたびに軽やかに揺れる。
そして、小川のせせらぎと、鳥の鳴き声に耳を澄ませた瞬間だった。
「席は、空いているだろうか」
その声は、低くて、どの音よりも心地よい。
……でも、働いている最中に、森の音に気をとられて、お客様がいらしたのに気がつかないなんて、店員失格だわ。
「いっ、いらっしゃいませ!」
昨日の席にご案内すると、今日も騎士団長様は、席に着く。
ただ、それだけなのに、あまりに優雅なその動きに、目を奪われてしまう。
王立騎士団長、アーサー・ヴィランド様。
騎士団長に就任したのは、一年前。
そこから、騎士団に新しい訓練法を取り入れたり、戦術を編み出したり、竜を単騎で倒したという噂まである。
鬼騎士団長と呼ばれているけれど、それはあまりの強さを恐れられていると同時に、王都を守護する鬼神のような存在を意味しているのだろう。
「……ご注文は何になさいますか?」
夜みたいな黒い髪のなかできらめく淡いグリーンの瞳が、なぜかまっすぐに私のことを見つめている。
いけない、注文を取るのを待っていらっしゃったのね?
「あ、ああ。コーヒーを」
胸元から取り出された懐中時計をチラリとのぞき込んで、少し慌てたように騎士団長様は、コーヒーを注文した。
おそらく、このあとお仕事なのだろう。
早めに出して差し上げなくては。
慌てた私は、小川にそのまま足を入れて進もうとした。その時、なぜか腕が掴まれる。
「え?」
「濡れてしまう」
振り返った騎士団長様は、心配そうに眉を寄せてこちらを見つめている。
騎士団長様の手は冷たかったのに、ほどなく離された手は、なぜか熱を持っている。
「あの、この小川は魔法でできているので濡れません。……たしかに、冷たさまで再現されていますけれど」
「えっ! あ、それもそうだな。そんな当たり前のことに気がつかないなんて……。失礼した」
なぜか慌ててしまった様子の騎士団長様は、どこか可愛らしくて、噂で耳にする鬼騎士団長様とは違う人のように思える。
まあ、でもこんな美貌の騎士様を見間違えるはずないけれど……。
「心配して、助けようとしてくださったんですよね。うれしいです。ありがとうございます」
「天使か……」
「え?」
「何でもないから、気にしないでほしい」
不思議な単語が聞こえた気がした。
でも、今日のテーマは天使ではなく、森の精霊だ。
「では、少々お待ちください」
「ああ」
ペコリとお辞儀をして、顔を上げる。
外は寒かったのだろうか。
騎士団長様の耳は、ほんのり赤かった。
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