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出会いと花の妖精 2


 ***


 花の妖精に引き続き、今日のお店のテーマは、精霊の眠る深い森だ。

 苔むした地面、湧き出た泉から流れ出した小川が店内を流れている。

 触るとたしかに冷たいのに、魔法でできているから、服や靴を濡らすことはない。


 ……カフェフローラのオーナーは、天才魔術師なのだ。


 光はどこから差し込んでいるのだろう。

 木漏れ日の中、木から木へかわいらしいリスが飛び移っていく。


 ピンクのストライプのワンピースから打って変わり、今日の制服は落ち着いた印象だ。

 コルセットのついたワンピースは、裾が長い。

 優しく淡いグリーンと、ベージュのワンピースは、歩くたびに軽やかに揺れる。


 そして、小川のせせらぎと、鳥の鳴き声に耳を澄ませた瞬間だった。


「席は、空いているだろうか」


 その声は、低くて、どの音よりも心地よい。

 

 ……でも、働いている最中に、森の音に気をとられて、お客様がいらしたのに気がつかないなんて、店員失格だわ。


「いっ、いらっしゃいませ!」


 昨日の席にご案内すると、今日も騎士団長様は、席に着く。

 ただ、それだけなのに、あまりに優雅なその動きに、目を奪われてしまう。


 王立騎士団長、アーサー・ヴィランド様。

 騎士団長に就任したのは、一年前。

 そこから、騎士団に新しい訓練法を取り入れたり、戦術を編み出したり、竜を単騎で倒したという噂まである。


 鬼騎士団長と呼ばれているけれど、それはあまりの強さを恐れられていると同時に、王都を守護する鬼神のような存在を意味しているのだろう。


「……ご注文は何になさいますか?」


 夜みたいな黒い髪のなかできらめく淡いグリーンの瞳が、なぜかまっすぐに私のことを見つめている。

 いけない、注文を取るのを待っていらっしゃったのね?


「あ、ああ。コーヒーを」


 胸元から取り出された懐中時計をチラリとのぞき込んで、少し慌てたように騎士団長様は、コーヒーを注文した。

 おそらく、このあとお仕事なのだろう。

 早めに出して差し上げなくては。


 慌てた私は、小川にそのまま足を入れて進もうとした。その時、なぜか腕が掴まれる。


「え?」

「濡れてしまう」


 振り返った騎士団長様は、心配そうに眉を寄せてこちらを見つめている。

 騎士団長様の手は冷たかったのに、ほどなく離された手は、なぜか熱を持っている。


「あの、この小川は魔法でできているので濡れません。……たしかに、冷たさまで再現されていますけれど」

「えっ! あ、それもそうだな。そんな当たり前のことに気がつかないなんて……。失礼した」


 なぜか慌ててしまった様子の騎士団長様は、どこか可愛らしくて、噂で耳にする鬼騎士団長様とは違う人のように思える。

 まあ、でもこんな美貌の騎士様を見間違えるはずないけれど……。


「心配して、助けようとしてくださったんですよね。うれしいです。ありがとうございます」

「天使か……」

「え?」

「何でもないから、気にしないでほしい」


 不思議な単語が聞こえた気がした。

 でも、今日のテーマは天使ではなく、森の精霊だ。


「では、少々お待ちください」

「ああ」


 ペコリとお辞儀をして、顔を上げる。

 外は寒かったのだろうか。

 騎士団長様の耳は、ほんのり赤かった。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

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次にくるライトノベル大賞2025ノミネートありがとうございました!
gyhodqmaeo7sgiji10v760g13abp_kq4_xc_p0_agh1.jpg;
― 新着の感想 ―
[良い点] アーサー様の「天使か……」の一言に思わずニヤニヤ(≧∀≦) きっと心の中は大騒ぎだったんでしょうね 鬼騎士団長様のこんな一面を知っているのは、リティリアだけ♪
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