表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/200

銀の薔薇 5



 気まずい沈黙を振り払うように、騎士団長様は、無言で馬車の扉を開けて降りていく。

 騎士団長様は、少しだけ視線をそらしたまま、それでも流れるような仕草で私の前に手を差し出した。


「……手を、リティリア嬢」

「はっ、はい」


 騎士団長様の耳元は、ほんのりとまだ、赤みを帯びている。

 その色を、見ないように気をつけながら、私は慎重に踏み段を降りた。……つもりだった。


「きゃ!」

「リティリア!」


 何の変哲もない、飾り気のないワンピースの裾がフワリと揺れる。

 軽く手を引かれた感触のあと、トスンッと軽い衝撃だけ訪れる。


 強くつぶってしまった目を、ソロソロと開けば、私の頬は厚い胸板にピタリとくっついていた。


「――――っ!?」


 あまりの恥ずかしさに、手のひらで押しのけようとしたのに、抱きしめられているから、離れられない。

 ものすごく速くて強い、この鼓動は、いったい誰のものなのだろう。


 私の? でも、もう一つ……。


「騎士団長様」

「……大丈夫か?」


 ようやく、緩んだ腕にホッとして、でもなぜか落胆しながら顔を上げる。

 心配させてしまったのだろう、少し眉を寄せた騎士団長様は、私と目が合うと微笑んだ。


「いっそ、抱き上げて歩きたいくらいだ」

「それは……」


 一瞬だけ想像してしまった。

 きっと、騎士団長様が、荷物みたいに私を担ぐなんてないだろうから、脳内イメージはお姫様抱っこだ。


「ふむ。自分より恥ずかしがっている人が目の前にいると、存外冷静になれるものだな」


 口の中だけでつぶやかれた言葉は、私には聞こえず、独り言かな? と軽く首をかしげて見上げる。


 本当に、黒い騎士服がよく似合う。


 一部の上位騎士だけが着用を許される正装の白い騎士服も、騎士団長様のために誂えられたのかと錯覚するほど似合うけれど、逞しくて長身の騎士団長様には、黒の騎士服が本当にお似合いだ。


「さあ、こちらへ。リティリア嬢」


 声をかけられて、騎士団長様を見つめすぎていたことにようやく気がつく。

 そして、周りを見渡す。


「……ひ、広い」


 馬車は、正門をくぐって停められているけれど、ここからお屋敷まで、ちょっとした散策かな? と思うくらい遠い。


 お屋敷まで、薄黄色のレンガで作られた道。

 その両脇には、芝生と植えられた、太陽の光を受けて宝石のように光り輝く色とりどりの薔薇。


 初夏の日差しに輝く水しぶき。

 真ん中の広場にあるのは、大きな噴水……?


「そうか? 領地の屋敷は、もっと広い。そういえば、子どもの頃、よく迷ったな」


 ここより広いなんて、想像もつかない。

 それにどう考えても、王都の一等地であるこの場所に、こんなに大きなお屋敷なんて、聞いていない。


「これは、陛下から賜った俺個人の屋敷で、本邸ではないから、気負わず過ごしてほしい」


 そんな笑顔で言われても、気負います!!

 そう思ったけれど、それを口にすることはできず、私は黙って騎士団長様の手を取り、歩き出したのだった。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新刊宣伝させてください♪
『鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?』
【SQEXノベル公式サイト↑↑】
8月6日書籍3巻&コミックス1巻同時発売です!ぜひご覧ください!
lqmk398a5lbcm2xlkrdpbfluk4go_18or_163_1np_1vakp.png;
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ