銀の薔薇 4
オーナーに聞いた噂話について、とくに隣国の姫君との噂について聞いた騎士団長様の表情は、完全に曇ってしまった。
そして、どこか剣呑な光を宿した淡いグリーンの瞳が、まっすぐに私のことを見つめる。
「つまり……。何も伝わっていなかった、ということか?」
「え……。あの、秘密であることは理解していますし、私にできることなら」
「リティリア嬢は、俺が隣国の姫君と恋仲だとしても、少しも気にしないのか」
「…………」
少しも気にしないなんて、そんなはずがない。
もし、そうなら、考えるたび痛くなる胸に、説明がつかないもの。
うなだれた上に黙ってしまった私を見て、何を思ったのか、騎士団長様がいつもとは違う、そう、試合場で見たような獰猛な笑みを見せる。
「少しは、期待しても、いいのだろうか?」
私は、まるで猛獣に追い詰められた小動物みたいに、指先一つ動かせずに固まった。
スローモーションのように見える世界で、無骨な指先が私のフワフワ波打つ髪を撫で、一房手のひらにのせる。
そのまま、そっと近付いてくる騎士団長様の……。
見間違いなのだろうか? 唇……?
「ふっ……ふぇ!?」
「君がいけない……。だって、俺が好きなのは」
目の前の光景が信じられなくて、私の心臓は飛び出してしまいそうなくらい鼓動を早める。
その時、どこかについたらしく、馬車がガタンと揺れて停まる。
ピタリと騎士団長様は、動きを止めた。
そして、じっと見つめていた何の変哲もないフワフワしているばかりの薄茶色の髪から視線をそらし、私の淡い紫の瞳をのぞき込む。
「ああ、こんなことをして、嫌がられたり、距離をとられたら困るな……」
「え……?」
「――――許可も得ず、無礼なことをした。許してほしい」
「……私が、騎士団長様を嫌がる?」
どうしても、そんなことは想像できない。
たぶん、騎士団長様は、ひどいことはしないと思うけれど、もしされたとしても、きっと嫌いになんてなれそうもない。
距離をとることに関しては、考えてなかったとは言い切れないけれど……。
「きっと、何をされたって、騎士団長様のこと、嫌いには、なりませんよ?」
「…………っ」
それは私の素直な気持ちだった。
でも、もしかしたら、何か間違えたのかもしれない。
ギシリ、と音がしたのかと思った。騎士団長様が、その動きを完全に止める。
「そ、そうか……」
いつも低くて、耳に響く声が、今はなぜかかすれている。
そして、はじめに耳元が赤くなり、そのあと騎士団長様の顔は赤くなった。
その顔を隠そうとしたのか、口元に添えられた大きな手。でも、まったく隠せていないことに、気がついているのだろうか。
私は、その変化を、見てはいけないものを見てしまったような気持ちで、呆然と見つめた。




