表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/202

名前と魔女の魔法 4



 * * *


 ――それにしても、フェイセズ様を止めるってどういうことなのかしら?


 そんなことを思いながら香り高い紅茶を飲む。


 ――これは砂漠の向こうの国、シャムジャールの紅茶ね。


 人の足では超えることが困難な大砂漠ハスハール。その向こうにあるシャムジャールという国には、ディアンテール王国とは違う文化が栄えていて紅茶の産地としても有名だ。


「まあ、おいしいわ。リティリア様、この紅茶を輸入するにはどうしたら良いのかしら?」


 あまりにも優雅に紅茶を口にした姫君が口を開く。シャムジャールの紅茶を手に入れられるのは、この国でもごく一部の者だけだ。


「そうですね……魔術師団が国交のために大規模魔法陣を起動し、そのときに少量手に入れられる希少な茶葉ですので……」

「あら、やはりこの紅茶の産地がわかってらしたのね」

「……ええ、以前口にしたことがありますので」


 これは、私を話し相手にするかの試験の一環だったのかもしれない。


 シャムジャールの紅茶を飲んだことがあるのは、まだ母が存命だった頃だ。

 数々の天災に見舞われるまで、魔鉱石の産地であるレトリック男爵領は裕福だった。


 取引先の商会から魔鉱石の取引の礼にといただいたのだ。

 母が焼いてくれたクッキーの香りと、シャムジャールの紅茶の香り……。


 香りとは古い記憶を呼び覚ますものなのだろう。


「……気を悪くしないで。本当に気になったのも事実だから」

「……お気になさらず」

「それよりも、私もう一つ気になることがあるの」


 青い目がちらりと私たちの向かいに座る男性へと向けられた。

 この紅茶を提供してくださったのは、目の前の男性だ。


「良いではないか。近い未来の騎士団長夫人と、義理の娘と交流を深めたいと思うのは、至極当然のことだろう?」


 彼の後ろに立つフェイセズ様が、わかりやすくため息をついた。

 そう、この国の王、レイン・ディアンテール陛下はこういった場面ではとても自由なお方なのだ。


「ふふ、お義父様……これからいくらでも交流の機会がありますわ。失礼を承知で聞きますけれど、噂に聞く人物像とずいぶん違いますのね」

「ふむ、その噂が気になるな。君の口から聞かせてもらえるか」

「……戦では勝利のためにはどこまでも冷酷非道、敵になれば家族すら躊躇わず切り捨てる、自国の利益のためには犠牲を厭わない、と聞いておりました」

「そんな……」

「ふむ、なかなか的を射ているではないか」


 陛下は底冷えするような笑みを浮かべた。


 ――そうね、国のために陛下は全てを捨てたのだもの。ただ一つの愛を除いて。


「それで、君はどうしてそのような王が治める国に嫁ぐことを承諾した?」

「噂は噂ですわ」

「君に関する噂も聞き及んでいる。氷の魔女と繋がる魔女姫と」

「……それならなぜ」

「噂は噂にすぎず、ときに真実を言い当てるからだろうな」


 お茶会の雰囲気が、氷点下になった気がした。この2人はたぶん似たもの同士なのだ。


 冷めかけた紅茶を再び口にする。


 横目に見れば、先ほどまで上品にお菓子を食べていたはずの双子が最後の1つになったタルトを取り合っていた。


 私はまだ口をつけていないタルトをそちらに移動させた。


「食べ物のことで喧嘩するなんて、良くないと思うわ」

「「ごめんなさいお母様!」」

「仲良くお食べなさい」


 双子は謝りながらもキラキラと目を輝かせた。


 双子が囁き合う「「やっぱりお母様は変わらないね」」というどこか嬉しそうな聞こえてくる。


 2人についても答えを見つけなければいけない。そして、フェイセズ様を止めなければというのが真実なら……。


 陛下の後ろに控えていたフェイセズ様のアイスブルーの目と視線が合う。


 ――私たちの視線を遮るように、金色の光を振りまきながら妖精がフワフワと通り過ぎていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次にくるライトノベル大賞2025ノミネートありがとうございます!
『鬼騎士団長様がキュートな乙女系カフェに毎朝コーヒーを飲みに来ます。……平凡な私を溺愛しているからって、本気ですか?』つぎラノ投票受付中
【つぎラノ公式サイト↑↑】
12月1日まで投票受付中!みなさまの1票をお願いいたします!
gyhodqmaeo7sgiji10v760g13abp_kq4_xc_p0_agh1.jpg;
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ