騎士団長様からの手紙 2
まだ早朝だというのに、オーナーがカウンター席に腰掛けて手紙を読んでいた。
金色の瞳がどこか物憂げに見えて、一瞬声をかけそびれてしまう。
「……リティリア。ああ、もう朝か」
「えっ、夜通し起きていたのですか!?」
「……ちょっと、することが山積みでね」
ガタリと音を立てて立ち上がったオーナーが、店内に魔法を掛ける。
手にした杖に煌めくのは、美しく淡いグリーンの宝石。その中にキラキラと金色の光が輝いている。
杖を振る度にオーロラのような光が店内を包み込んで、机や椅子、すべてが美しく作り替えられていく。
「魔法……あまり使わないほうが良いのでは」
「この店に関しては、力を借りているから平気だ」
「……誰の」
質問を最後までする前に、抱えていたクマのぬいぐるみが私の腕の中から飛び降りて走り出す。
「着替えておいで」
「……はい」
今日も店内は寒そうな氷に閉ざされている。
店内のイメージが連続して似ていることは珍しいので首をかしげる。
「やっぱり、ちぐはぐな気がする……」
たくさんの花が飾られたワンピースに白いフリルのエプロン。ヘッドドレスも白い小さな花束が飾られて可愛らしい。
けれど、先ほどの景色とはずいぶんイメージがズレている気がして不思議に思いながら店内に戻る。
「わあ……」
雪が積もる地面の割れ目から、赤や黄色、ピンクに白、色とりどりの花が顔を出していた。
冬は姿を消して、店内には春が訪れている。
青い小鳥がさえずり、木々の隙間からは柔らかな春の日差しが店内に差し込んでいる。
ドサリ、と雪が枝から落ちる音がする。
木の後ろに隠れていたクマのぬいぐるみが驚いたように走り回っていた。
「雪解けの春、といったところか」
「あまりに変わって驚きました」
「……喜んでもらえたかな」
「はい!」
もしかするとオーナーは、最近元気がない私のためにこんなサプライズを用意してくれたのだろうか。
私を見下ろすオーナーは、優しげに微笑んだ。
「たぶん少しの間、店を休むことになりそうだ」
「そんなにお忙しいのですか? 何か手伝いますか」
「いや、まあ、確かに魔女様からの依頼は多すぎるけれど、違うんだ。この店を維持する魔力は」
バサバサッと再び枝から雪が落ちた。
「わぷっ!?」
その音に驚いたのか、クマのぬいぐるみたちが勢いよく私に飛び込んでくる。
そして、来客を告げるベルが鳴る。
こうして、私はオーナーの言葉の続きと、カフェ・フローラがお休みになる理由を聞きそびれてしまったのだった。
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