早起きとお仕事 1
すやすやと眠っているけれど、たぶん指先をピクリとでも動かしたら、きっと起きてしまうのだろう。
緊張感と後悔と、自己嫌悪、そして幸福。
ごちゃ混ぜの思考でその寝顔を見つめていると、眉が寄せられて長いまつげか小さく動いた。
「リティリア」
ボンヤリと淡いグリーンの瞳が私を見つめた。
やはり、起きた気配というのはわかってしまうのだろう。
「ずいぶん早起きだな」
「昨日寝るのが、早かったので」
「はは、料理長にリキュールは控えるよう、よく言い含めておかなくては」
そのまま、抱きしめられた。
騎士団長様からは、いつでも穏やかなハーブみたいな香りがする。
それは、優しくて頼りになる、大人の男性の香りだ。
「良い香り……」
「……リティリアこそ、甘いお菓子のような良い香りがするが」
そのまま、私のフワフワした淡い茶色の毛先をつまみ、唇の先にあてて上目遣いにこちらを見つめて、幸せそうに笑った騎士団長様。
「うん、思った通り甘いな?」
「ひえぇ……」
クルクルと指先に私の毛先を巻き付けて弄びながら、それを見つめるまつげの長さと、格好良さと、なにかに興味を示してしまった子どもっぽい可愛らしさ、すべてが私の心臓を撃ち抜いてしまう。
……朝から破壊力が強過ぎる!
王国の鬼騎士団長と呼ばれている騎士団長様が、こんなに可愛いなんて知ったなら、きっと騎士たちは、驚きすぎてみんな剣を取り落としてしまうだろう。
「はあ……。そんなに見つめないでくれ」
「んっ……」
抱きしめられたまま口づけされて、もしかして婚約者なのだからいよいよ……と覚悟を決めたとき、扉を叩く音がする。
「……くっ、陛下への忠誠が揺らぎかけるな」
「えっ」
「……冗談だ」
たぶん冗談ではないのだろう。一瞬、真顔だったのだから。
「すまない、まだ要人が帰らなくてな。早朝から護衛任務継続だ」
名残惜しさを感じるほど、ゆっくりと起き上がった騎士団長様。
それにしても、騎士団長様は、いつも忙しすぎる。
「朝ごはんは……」
「そうだな、一緒に食べるには時間が足りないか。可愛い寝顔を堪能しすぎたな」
「えっ、起きていたのですか!?」
騎士団長様は、蕩けそうな表情で笑い、私に手を差し伸べた。
その手を掴むと引き起こされて、もう一度抱きしめられる。
「――眠れるはずもない」
「えっ」
「リティリアが、可愛すぎるから」
おでこにひとつ口づけを落として、騎士団長様は立ち上がった。
「……さて、名残惜しいが出掛けるとしよう」
騎士団長様はそのまま、着替えのために別室に行ってしまった。
その言葉の意味を頭の中でグルグルと考えてしまった私は、閉められたドアを呆然と見つめる。
「あっ、お見送りできなくなっちゃう!」
そして大慌てで、クローゼットルームに飛び込むと、着慣れた装飾の少ない、けれど上等な布地の淡いグリーンのワンピースへと着替えたのだった。
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