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魔術師と夜の時空魔法


 カフェ・フローラには、夜の顔がある。

 それは、国王陛下に、この国を守る騎士団長、この国の上層部、さらにその上澄みとも言える人間しか知らない事実だ。


 ――店内を照らすのは、淡い金色の光だ。店内に置かれたテーブルは、年代物なのだろう。店内の雰囲気は大人びていて、赤いビロードが張られたやはり年代物の椅子に座る男性を妖しいほど美しく見せている。


「結局夜も訪れるなら、護衛を振り切って朝から来るなんてやめていただきたい」

「思ったよりも早めに公務が終わったから、今夜も来れただけだ」

「2、3日来なくても、問題はないでしょう」

「シルヴァが王宮に来られない以上、ある!!」


 この店のオーナーである俺は、ため息をつく。

 国王であるレイン・ディアンテール。幼い頃、魔術師としての才を見いだされ、拾われてからというもの彼とも長い付き合いだ。


「御用向きは?」


 氷結ベリーを漬けた強い酸味のリキュールを妖精が集めた蜜で作った蜂蜜酒で割ったカクテルを差し出す。それぞれが強い魔力を帯びているせいで、完全に混ざることなく、グラスはまるで薄暗い中で未だ透明感を失わない海に月光が差し込んだようだ。

 かなりの度数だが、陛下には調度いいだろう。


「――妖精と魔女かな」

「なるほど」


 俺は、沈黙したまま青みを帯びたカクテルを ひと息に飲んだ。

 喉が焼けるような感覚と甘さと酸味が、口の中を通り過ぎていく。


「……それから、取得中の長期休暇の先はどうするつもりだ?」

「そうですね。……この店の中にさえいれば、お役に立てるでしょうが。そろそろ、筆頭魔術師から降りさせていただきたいところです」

「まさか。お前の作る魔法薬とスクロールだけでも、筆頭魔術師としての価値は揺るがないさ。……ところでアーサー・ヴィランドが、急激にまた強くなったのは、お前が関係しているのだろう?」

「ご想像にお任せします」


 そこから先は、陛下が持参した秘蔵の酒を北端リーヴァから取り寄せた氷で楽しむ。


「それにしても、魔女様はお元気か?」

「会いに行かれれば良いでしょう」

「王となった日から、俺には個人の持ち物がひとつもない。この命さえも、国のものだ。対価を払えぬ人間に魔女様は会ってはくれないさ」

「素直じゃない」

「事実だ」

「そうですか……」


 明日もヴィランド卿が、護衛任務に就くらしい。

 ただでさえ、俺が参戦できない中、平和を守る重責を負わせているというのに、人使いの荒い国だ。


「ああ、明日の晩はヴィランドも誘うか」

「……明日も来る気ですか?」

「朝来てダメというなら、夜に来るしかなかろう?」


 もちろん、筆頭魔術師が店の外に出られないという事態のためにこの場所を訪れていることは理解しているつもりだ。

 だが、陛下はすっかり、この店が気に入ってしまったのも事実だろう。


「――さて、本題だが」


 陛下が表情を改めた。

 ここから先の会話は、王国のトップシークレットに違いない。


 明日も店に出るのは、昼過ぎになりそうだ。


 月明かりと、追加でオーダーされたカクテルと、魔力を灯した金色の光が、静かに店内を照らし出していた。

 


 



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