探索
「まあ、実際に気絶させただけだからあのRucaはまだ生きていて、放置してたらあなたの命もなかったから実際には勝ったことにはなっていないわね。始末【トドメ】はオペラがしたから彼女の手柄にはなるのかしらね……。」
「じゃあ、俺は【オペラ】って人に助けてもらったのか……」
つまりその【オペラ】という人物に命を救われたということになる。見ず知らずの自分を助けたということと彼女がいなければ死んでいたということだ、そのように考えると九死に一生を得たという言葉を体で体感する。そして同時に何故俺を助けたのか疑問に感じた。
「…………」
何やら視線を感じる。なにやらロリッ……お嬢さんは不満そうである。
「なんだよ……急に見つめてきて……」
「一応、言っておくけども……あなたは死にかけたのよ? 本来、Rucaに遭遇した時点でそのまま捕食されるのがお決まりのパターンなのに……」
「……つまり、普通の人間よりもちょっと強かったからとか?」
「何を言っているの? 頑丈に生んでくれた母親に感謝しなさい。今まで見てきた人間よりもあなたが折り紙付きで頑丈よ。頭の方も頑丈だけどもね……」
頭の方もってことは石頭だということか。確かに頭突きで誰かに負けたことは18年間一度もない。【鉄頭の千紘】という異名は伊達ではないと改めて実感した。
彼女との会話で頭と体の現実感が徐々に元に戻りつつある。目覚めた当初は不安と疑問で脳の容量を圧迫していたが、今では何故か妙にすっきりしている。学校生活では誰かと話すということ自体がなかったため、新鮮な気持ちにもなった。
「体も大分楽になったし、そろそろ戻りたいんだが出口はどこにあるんだ?」
「戻るってどこへ行く気? ここは脱出不可能の【トロイの関所】よ?」
「だっしゅつふかのー?」
正確には脱出不可能ということだろうが……どうゆうことだ。一命を取り留めたと思ったらよくわからん施設に閉じ込められているんだが……
「そうよ。基本的にここへは誰も入ることはできないし管理者以外は自由に動くこともできないわ。あなたは特例みたいだけど。」
「……いやっ、完全に抜け道がないなんてことはないだろ……絶対どっかに綻びみたいなやつがあるって……よいしょ……」
「っ! ちょっと、急に動いたら……」
彼女の静止すら聞かずにベットから立ち上がり部屋の出口らしき扉に手をかける。すると扉は押すとすんなりと開いた。
「あれ……開いた。お前、さっき脱出不可能って言ってなかった?」
「誰もこの【部屋】から脱出不可能なんて言っていないでしょう。まったく、なんで最近の若い奴らは人の話を最後まで聞かないのよ……」
彼女は相変わらず不服そうだ。まあ、話を最後まで聞かなかったこちらにも非はあるため強くは出られない。しかし、ここで足止【とま】ってはいられない。一刻も早く自宅に戻らなくては洗濯物や津用済みの食器が溜まっている。あの類は一度放置すると匂いがなかなか取れないため、いち早く取り込みたい。
「悪い、これからやらなきゃいけない雑務がこれでもかってくらい溜まってるからここを抜けさせてもらう。助けてくれたオペラって人に感謝してるけども同時に君にも感謝してる。また縁があったら会おうな!」
そう彼女へ一歩的に伝えてその部屋を後にする。一刻も早くこの【場所】から出るためにやや早歩きで辺りを捜索する。所々に扉があるがほとんどは空室か寝室だけである。今のところ出口に値する扉は見つけられていない。