勇者はブラックとバレてしまった
「こねえなー、面接。」
正直、この募集要項で勇者が来るわけがないと思っている。
何人か来たけど、冷やかしばかりだ。
勇者がブラックだと広まっている今、面接なんてほとんどこない。
無給で世界を救え。命を落とすこともあることを一部の勇者が拡散してしまったのだ。
今や魔道具で簡単に拡散できる時代だ。
過酷な労働環境がばらまかれて一気に勇者になりたいという人はいなくなった。このニュースを見た他国に勇者がスカウトもされていった。他国では勇者は莫大な報酬を得ているという情報もこれまで伏せられていた。王国が今まで全力で秘匿していた情報がたった一件の「ささやき」によって暴かれてしまったのだ。
勇者人口が不足した王国は最低時給を決めて勇者を雇い入れることにしたようだ。
「にしても、ひどい募集要項だな。」
口から出てしまう。役所としてはこの時給で雇い入れろと王国に言われて募集をかけているのだが、くる訳がないだろうと呆れている。
「ですよねー。逆になんでこれで来ると思っているんですかね。勇者なめてますよね。最低時給+100円ですよ。」
事務兼受付のカレンが言う。金髪碧眼で美人なカレンは王国立役場の新しく出来た勇者課に所属された。国の政策に対してハッキリものを言うので人間関係が上手くいかずこの部署に飛ばされてきたようだ。
「ユーリ先輩もよくこんな仕事受けましたよね。先輩ならこんな仕事断れたでしょう。」
「勇者人口が不足した国に未来はないからな。あとこの課には上司がいないから好き勝手やれるだろう。」
厳密にいうと本当は上司がいるが、今は休職中だ。勇者課立ち上げの際の無理がたたったようだ。文字通り100人力の働きをしていたからな。
勇者が不足すると治安が悪くなる。魔物の間引きや盗賊の討伐、ボスモンスターが国を作ったりすることを防いだりと勇者の仕事は多岐にわたる。
とはいえある程度まで行って魔物を倒していかないと他人の家に侵入して棚の中を物色したり、ツボを割ったりしないと生活ができない。それによって捕まる勇者もいたそうだ。
その勇者をきちんと管理する為に俺たちは必死で働いたのだ。だが、流石に疲れた。
「上司はいないけど、部下も私だけでしょ。というか無理でしょう。今から現勇者の登録を1からしていくのと新しい勇者の募集、育成を二人だけでやっていくの。」
実質不可能に近いなと思っているのでダラダラやっていこうと思っていた矢先に受付に一人の少年がやってくる。
「勇者になりたいんですけど、ここで大丈夫ですか?」
恐る恐るといった様子で声をかけてきた。
「こちらでよろしいですよ。どうぞ奥のお部屋へ、面接をさせていただきます。」
珍しくまともそうなのが来たのでユーリは満面の営業スマイルで面接に入る。