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強者だらけの祭り  作者: 大錦蔵ANDハデス
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竜王VSダーティー①

 ※①ゴブリン・竜王・杏華・獣王・ゴドキン・リリス・バハムートは、作者の知人ハデスさんが考案したキャラです。

 ※②この小説に登場するキャラクター達は、RPGゲームみたいに強さのレベルの概念があります。

 基本的に高レベルのキャラは、低レベルのキャラからの状態異常攻撃を無効化します。

 「今回の議題は、我とは別の魔王・・・・・・ウェーデンス国にてのさばる ダーティー をどう討伐するかについてだ・・・・・・」

 紀元前ローマの甲冑を身に着けてるいかつい顔をした男が、会議を開始する。


 物語の舞台は、中世西洋風の豪奢な室内から始まる。

 詳しく説明すれば、この部屋の床は光をよく反射する大理石製で、それに濃い紫のふかふかなカーペットが敷かれており、そこに黒色テーブルクロスを被せている長方形のテーブルが設置してある。それの周りには七つの椅子が置かれていた。置かれてある家具や調度品は全部上等なものである。

 灯りのついた燭台も卓上や窓際などにあるのだが、それでも全体的にかなり暗く、そのせいかこの場が妖しげな雰囲気と威圧さを醸し出していた。

 室内から窓をのぞけば、雷が常に激しく迸る曇天と、不気味な鳴き声を上げる怪鳥達、植物がほとんど生えていない荒みきった灰色の山々が確認できる。


 上記の部屋にある席には空きが一つしかなく、部屋奥にある上座には先程言葉を発した竜王が腰を下ろしており、他のメンバーにはゴブリン、サキュバスのリリス、スーツ姿の悪魔バハムート、西洋甲冑を着たライオン型の獣人ジェウォーダン、夜叉の杏華が席を着いている。ちなみに卓上には、成人男性の頭くらいの大きさを持つ土人形ゴーレムのゴドキン(本体とは別の子機)が宙に浮いている。


 そう、彼らは人々から畏れられる魔王軍の、それも規格外の力を誇る幹部であったのだ。今から自分達とは別の隣国に存在する魔王軍をどう殲滅するか議論しようとしていたのだ。


 眼帯をつけたジェウォーダンが、上座にいる竜王に尋ねる。

 「魔王よ、お言葉ですがこの国の征服を達成させるよりも、なぜ隣国の魔王を狙うことを優先させるのでございますか・・・・・・?

 確実にこの国を竜王様の手中に治めてから侵攻しても遅くはないと思われますが・・・・・・」


 「うむ。この中で知っておる者もいると思うが、ウェーデンス国にいるエルフの魔王 ダーティーがこの前、政治の王と宗教の王と同盟を組んだという情報が、配下から届いたのだ」


 竜王の言葉に、リリスが あらっ と呟く。

 「まぁ~、魔性の王と名乗っている方が、ライトサイドにいる人間達と手を組んだってことなのぉ~。にわかに信じがたいわよぅ~」


 「ふむ・・・・・・もしその情報が本当なら、金儲けのチャンスになりそうですねぇ。例えばダーティー軍に属していると扮して、野蛮猿ニンゲン共に何の価値もないがらくたを高値で売り捌くとか」

 そろばんをぱちぱち鳴らしているスーツ姿の悪魔の軽口を、他のメンバーは無視。


 女性の夜叉、杏華が口を開く。

 「なるほどだいたいわかりました。つまり陛下は、野蛮猿ニンゲンに迎合しているなんちゃって魔王軍を野放しにしてしまえば、野蛮猿ニンゲン共が、こちらの軍も奴らと似たようなものだと誤った無礼極まりない認識をしてしまうかもしれない・・・・・・竜王様に対して畏れもい抱かなくなる危険性がある・・・・・・と、危惧しておられるのですね」


 子機ゴーレム「ソウイウコトダ」 


 「まあでもニンゲンの中にも、かっこよくて聡明で、強くて素晴らしい方もいらっしゃるんですけどね。たとえば勇者様とか勇者様とか勇者様とか」


 自分にとって憧れの黒髪男を思い出して頬を赤らめて悶えている杏華に対し、竜王は、

 「敵である勇者を讃えるのは、せめて心の中だけに止めてくれないか・・・・・・今魔王軍の会議中だ」

 哀愁漂わせながらため息を付いた。

 実は杏華は、人間側の勇者に、恋慕しているのだ。


 子機ゴーレムが、卓上にウェーデンス国の地図を広げる。

 その紙には点型の魔法の光が八つ程、発されてあった。


 獣人「その光は・・・・・・?」


 「ダーティーとその幹部がいる場所だ。・・・・・・妙だ、一か所に集まっている訳ではなくところどころ散らばっている」

 ちなみになぜ彼らにとって見知らぬはずの敵達の居所が例の地図でわかるかというと、竜王の配下達が、標的達の魔力の残滓ざんしを拾い、特定の魔力を察知・表示する地図に、それらの魔力波長を登録したからである。


 「そういえばゴブリンは、ウェーデンス国国内に頻繁に侵入していたな・・・・・・土地勘があるなら道案内を・・・・・・」

 そう口にしながら獣人の王が、ゴブリン女の方に視線を向けると・・・・・・。


 「・・・・・・・・・・・・」

 彼の視線を向けた先には空席しかなかった。ゴブリン女がどこにも見当たらない。

 閉められていたはずの部屋の出入口の扉が、いつのまにか半開きになっていた。


 しばらくの間、会議室内に誰も声を発さなかった。外からは、ペストマスクを被ったような見た目をしているカラス似の怪鳥の鳴き声と雷鳴がせわしなく聞こえる。

 

 「あいつ会議抜け出して、一人だけで敵地に向かいやがったあああああっっぅぁあああっ!!」

 獣人が頭を抱えて叫ぶのを、竜王がなだめる。


 「まあ落ち着け。あの小娘が返り討ちに遭うとは我は思えぬ・・・・・・」


 「ですが魔王様、確実な勝利を掴むためには念入りに作戦をたててから挑まねば。万が一こちらに被害が出てくる危険性も・・・・・・」


 「貴様らは我が有象無象の手下から深く検討し選別し、手練れと認めた部下なのだぞ。万が一にも敗北するとでものたまうつもりか獣王・・・・・・つまりは直属の配下の選択を下した我の判断を、軽視し非難すると申しているのだな」

 重低音に響く声を発しながら鋭い瞳で睨む竜王に、獣王は怯む。


 「も・・・・・・申し訳ございません。つい弱音を吐いてしまいました。どうかご容赦を・・・・・・」

 自分の主君に頭を下げている獣王をよそに、サキュバスのリリスが竜王に尋ねる。

 

 「それでぇ~、幹部のあたし達全員でウェーデンスに行くのかしらぁ?」


 「うむ・・・・・・野蛮猿ニンゲン共に屈した魔王軍擬もどき相手なら、貴様ら複数で手を組んで戦わずとも一人で殲滅できるだろう。

 貴様らはダーティー軍幹部を各個撃破せよ。達成できるまでこの城の門を潜り帰ることは認めん。

 夜叉は南東のタマスマニア山にあるマークへ、ジェウォーダンは北西の植林地に向かえ、ゴドキンは我のお供をしろ」


 「武術鍛錬にはもってこいだな・・・・・・了解」

 

 「御意」


 「オオセノママニ」


 それと・・・・・・ と、竜王はデビル二人組に視線を向ける。


 「ワタクシはお給金を頂かない限り、動けませんよ~?」


 「あたしもぉ~働きたくない。今日はショッピングに行く予定なのよぉ~」


 遠征? したくないデビル二人組に対し、竜王はぼそっと呟いた。


 「たしかダーティー共の城には、我の城程ではないが高価な調度品や麗しい宝石などがたくさんあるらしい。

 もし我の任を承ったら大盤振る舞いでその戦利品を功労者に渡すつもりd・・・・・・」


 と、竜王が言い終わらないうちに、


 「陛下。ワタクシはどちらに向かえばよろしいのでございましょうか・・・・・・?」


 「あぁもう大好きリュウちゃん♡ あたしお仕事頑張るわよぉ~?」


 デビル二人組はやる気を出し始めたことをアピールする。リリスにいたっては、竜王に抱き着き始めたのだ。


 「現金な奴らめ。お・・・・・・おいリリス、貴様はもっと自重を弁えないか」

 と、まんざらでもない様子でなだめる竜王は次に命令を下す。


 「バハムートはマーロ街へ参れ、リリスは・・・・・・ダーティーが根城にしている城を制圧してこい」


 小型のゴーレムが、机上に置かれている地図を複製したもの(もちろん特定魔力がある場所をマークで示す魔法を付加している)を、ゴブリン以外の幹部メンバーに配る。

 リリスが竜王から離れた時は、彼がなんだか寂しそうな顔をしたのは別の話。


 「さあ我らは唯一無二の覇道を突き進もうではないか・・・・・・!!」

 竜王が音頭をとった後、彼らは颯爽と部屋から出て、数分後に城の門を潜って進軍する。


 杏華がジェウォーダンに諭す。

 「ジェウォーダン。貴様は何かに没頭して熱くなると、当初の目的等大切な事を忘れる悪癖がある・・・・・・気を付けるんだな」


 「う・・・・・・ああわかった杏華殿」


 金の亡者である悪魔が他のメンバーに聞こえないようにぼそりと呟く。

 「ウェーデンス国ですか・・・・・・魔族の矜持に泥を塗り踏みにじった裏切り者が住む国ですね・・・・・・正直我らが奴とエンカウントしないことを祈りましょう」


 竜王がはっきりとした口調で、まるで今から向かう他国に対して宣戦布告するように言い放った。

 「我らは、圧倒的な実力で雑魚共を蹂躙する、天下無敵の竜王軍だ・・・・・・!!」



 ※次からは竜王の根城から、広葉樹がところどころ生えている平地の草原へと舞台を代えます。


 なんか左半身の肌が緑で右半身が灰色である黒髪ぼさぼさ小汚い格好をしている、種族がゾンビだかなんだかわからないような男が、たった一人草むらの上に仁王立ちしていた。

 ちなみに彼の得物は、下先端部に鏃がついている木製のオールである。


 「ああまた道に迷った。あの魔王スノッブロリめ・・・・・・方向音痴である俺に対し俺専用のガイドをつけないとはとんだ失敗をしたな。最高管理者の器じゃないね全く」 


 そんな愚痴を吐いている彼に対し、



 「はいまず一匹ぃいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 強さのレベルがカンストしているゴブリンが、雲すら届きそうな天から急速に落下しながら、その勢いを利用し両刃の剣で襲い掛かる!

 そしてすぐに彼女はゾンビだか何だかわからない男・・・・・・コーフィンの体を頭上から股まで剣を振り下ろすよう一閃した。

 ゴブリンの剣戟の余波で、刃先にあった地面が切り裂かれ、クレーターで済むどころか峡谷と呼んでも差し支えのない深い亀裂がうまれた。土埃が激しく巻き上がり、近くにあった・・・・・・どころかこの場一帯の木々やら岩やらが土砂ごと吹き飛ばされている。数秒後に時間差で通常の人間の鼓膜では破れるような破壊音が発生したのだ。


 そして呆気なく・・・・・・奇襲したはずのゴブリンですら不自然と感じる程呆気なく、ダーティー魔王軍幹部らしき男の体が左右に切断され分かれて地に伏した。


 「え・・・・・・終わり・・・・・・人違い?

 でもたしかに地図のマークで示した場所にはあいつしかいなかったし、魔王の単語を呟いてたから間違い無しだと思ったけど・・・・・・あいつ斬られる前に防御も回避もする素振りすらなかった」

 そんな彼女の言葉には、誰も返事をしなかった。そよ風がゴブリン娘の頬を撫でるだけである。

 しばらく黙っていた彼女は、ため息を一つついて不機嫌になり始めた。


 「こんなもんかやっぱり・・・・・・ボク達とは、別の魔王軍幹部だなんて聞いたから、ちっとはあの変なの、骨はあると思ったのに・・・・・・人間達に期待を添えられている勇者や剣豪と闘ったみたいに全っ然っ楽しめなかった。つまんないっ!!

 もう残りの雑魚共もさっさと片付けて、家帰ってふて寝し・・・・・・よ・・・・・・?」

 そう愚痴を言いながら視線を、倒した相手の方に戻したゴブリンの体が硬直した。

 なぜか・・・・・・。

 

 致命傷ともいえる斬撃を受けたはずのコーフィンが、さっきと同じように仁王立ちしているからだ。

 傷の痕すら残っておらず、元通りになっている。


 (ゾンビ系・・・・・・? 自動で自分の傷を修復できる不死身の男か。

 だけど斬りつけたアンデット系の体を浄化させて不死性を無くさせるこの魔剣を使ったから、ゾンビみたいなあいつが動けるわけ無いんだ・・・・・・どういうことなの?)


 ちなみにコーフィンが身に着けていた服【マントや黒い麻シャツに黒ズボン】は切断されたままだ。

 ※股間は彼の闇魔法の黒い霧で隠しています。


 「まあ何だっていいやっ! 一回で死ななかったら何度も何度も何千回も切り刻めば済む話だもんね」

 と、面白そうなおもちゃをもらったちびっ子みたいに朗らかな笑みを浮かべたゴブリンは、先程繰り出した攻撃以上の威力で、長々とコーフィンを細切れになるよう切り裂き、蹴り倒し、頭を握り潰し、爪で引っ掻き、突きまくり、関節技を極め、拳をこれでもかと乱れ打った。

 ※彼女の攻撃一つ一つが、A級ランクの冒険者達ですら畏れられる防御力最強のドラゴンを、あっさりと挽肉にするほどの威力です。


 普通の人なら何万回も致命傷を受けたであろうコーフィンの傷は、ゴブリン娘がまばたきするよりも早い時間で、緑肌部分の体は魔法の黒い霧みたいのを患部に包んで治療し、灰色の体は砕かれたら一旦は塵にはなるがすぐに修復されて元通りになる。

 この場一帯が、ゴブリンの連続攻撃の余波により、すぐにクレーターだらけの荒れ地となってしまった。元の緑豊かな草原の面影は今、微塵も感じられない。

 そして猛攻を繰り出し続けてきたゴブリン娘が、稀の中の稀と言われる程の出来事・・・・・・息を切らしている時に、今まで反撃・防御・回避行動どころか視線を合わせることも喋ることもしなかったコーフィンが、ゴブリン娘にやっと顔を合わせ、あることを口にした。





 「あの・・・・・・君はさっきから何やっているの?」


 「・・・・・・ほえっ??」

 コーフィンの皮肉が込められていない言葉に、ゴブリン娘は絶句した。

 呆然としているゴブリン娘の足元に、通常よりもサイズがでかい烏の羽根が落ちた。



 ※次からは物語の舞台を、タマスマニア山脈麓ふもとの針葉樹が密集して生えてある場所に代えます。

 「標的ターゲット発見。今から討伐を開始します」

 木の幹の陰に隠れている髪型がサイドテールの夜叉・・・・・・杏華が呟く。


 (よりにもよって・・・・・・)


 ため息を一つしている杏華の視線の先には、二メートル超えの高身長とボディービルダーよりも筋肉質な体(ただし、お腹がぽこんと出ている)を持つ男の鬼族オーガがさまよっていた。

 彼の名前はポトゾル・・・・・・特徴といえば、前髪と頭頂部ら辺が禿げている白髪を持ち、上半身はほぼ裸で、素肌の上にショルダーガードを直に装備し、ほぼ丸太とでも呼んで良さそうな分厚くて尺が長いこん棒を得物にしている。


 (人間と鬼のハーフである私の相手は純血のオーガ・・・・・・何の皮肉ですかこれは・・・・・・まあすぐに片付けるだけですけどね)


 杏華は隠れるのをやめ、奇襲することなく、堂々とポトゾルの前に立ち塞がる。・・・・・・つまりは不意討ちを食らわせる必要なく圧勝できるという彼女の無言の意思表示である。

 今、ポトゾルと杏華との距離は二十メートル位。杏華は得物にしている刀の鞘を利き手でない方で握る。


 ポトゾルが呑気な声のトーンで口を開く。

 「おお嬢ちゃんこんにちは・・・・・・ここら辺一帯は戦場になるらしいから、すぐに離れた方が良いぞ?」

 

 (なるほど・・・・・・私を敵と認知してないふりをして不意討ちを決める気ですね奴は・・・・・・見た目完全な脳筋タイプのくせに小癪なっ!)

 杏華はすぐに驚異的なスピードで獣道を駆け、利き手で抜刀しながらいっきにポトゾルとの距離を詰める・・・・・・!

 走りだしてから一秒にも満たない時間で、ポトゾルを杏華は自分の間合いに入れる。

 驚愕しているポトゾルの首めがけて、容赦なく薄く鋭い名刀で横に薙いだ!

 岩どころか鋼鉄の塊を一刀両断できるその一撃を、敵の急所にもろに食らわせたのだ。 

 A級どころかS級冒険者ですら上記の攻撃を受ければ助からないだろう・・・・・・。

 ・・・・・・規格内に収まる人間ならばの話だが・・・・・・。


 「くぅうう・・・・・・っ痛いのぉ~嬢ちゃん!

 もしやあんたが、メイちゃんの言っていた敵なんだな?」

 斬られた首を掌で押さえつけたポトゾルが、苦悶の表情を浮かばせた。


 (浅い・・・・・・!? 致命傷じゃない! なんという強固な筋肉。

 マグマドラゴンの強固な首を一閃で簡単に斬り落とせれる攻撃をかすり傷で済ませるなんて・・・・・・!!)

 自分の勝利を確信している杏華の肌全体から冷や汗が滲み出る。

 

 「敵なら吾輩は容赦せんぞ。悪いが、覚悟ぉおおおっ!!」

 自分のかすり傷を片手で抑えながら、もう片方の手で超重量のこん棒を夜叉の頭めがけて振り下ろす!


 「ふん・・・・・・こんな単純で軌道が先読みしやすい技なぞ、私の敵では・・・・・・っ?」

 ポトゾルの攻撃を、横に跳んで避けようとする夜叉だったが、杏華に違和感を感じた。足がうまく動かないのだ。

 

 (な・・・・・・に!?)

 すぐに地面を見下ろす杏華は、足が動きにくい原因がすぐにわかった。さっきまで乾いていた地面がいつの間にか沼になっているからだ。

 (地面の性質が変化している・・・・・・土の魔導士か、こいつ!?)

 避けるのを諦めた杏華は、自分の頭部めがけて向かってくるポトゾルのこん棒を、刀で受け止める。

 お互いの武器をぶつけ合っている数秒後に、杏華の腕が敵の攻撃で痺れ始めてきた。


 (まずい・・・・・・奴の強さを見誤っていた。なんだこの膂力は・・・・・・獣王クラスよりも上じゃないか!! ・・・・・・気を抜いたら私がぺしゃんこになる・・・・・・そして!!)


 ポトゾルの打撃に耐えている杏華だが、現在進行形で彼女の体は徐々に沼に沈みつつあるのだ。


 (このままでも私は沼に沈みきってアウトだ。ここは無理やりにでも・・・・・・!)

 長考していた杏華は、刀をおもいっきり敵のこん棒ごと左に払い、それによってバランスを崩したポトゾルの隙をついて沼から急いで脱出する。

 抜け出した杏華の緑の着物の裾先が、土で汚れてしまっていた。


 「ぬぅやるのぉ嬢ちゃん・・・・・・ところで嬢ちゃん、スポーツはどんな種類が好きかい?」


 「なんだ急に・・・・・・」

 こちらに尋ねてくるポトゾルお構いなしに、杏華は背後に長距離までジャンプして敵から距離を取る。


 「吾輩はスポーツならなんでも好きだが、特に大好きなのはゴルフにクリケットに相撲に野球かな」


 「何を言って・・・・・・っ!?」

 と、答えた杏華の背中に柔らかい物体にぶつかり押し出されていることに気づいた。

 どうやら彼女の背と、粘着力の高い粘土の塊が衝突したのだ・・・・・・。

 あまりの粘土魔法の威力と高速度により、少しだけ地面から足が離れて浮いてしまった杏華は、粘土ごとポトゾルに向かって運ばれてしまう。


 それに対し、ポトゾルは片足を上げてこん棒を両手持ちにし、構えを取る・・・・・・その様は飛来してくるボールをかっ飛ばす直前の、野球選手のポーズそのものだった。


 (ぐっ・・・・・・奴は私の死角場所にこっそり大質量の粘土を生成し操って、それを私の背にぶつけたのか!?

 奴の使っている得物は、ただのこん棒じゃない・・・・・・魔杖の類!

 やばいぞ、早く抜け出さないと、しゃれにならない威力の攻撃を受けてしまう!!)

 一瞬で状況を把握した杏華は、すぐに身をよじらせ、敵の魔法から逃げ出そうとする・・・・・・。

 (粘着力の高い粘土から脱けだすのは一苦労だが、なんとか間に合いそ・・・・・・ぐっ!?)


 しかし粘土から逃げようとする杏華に対し、ポトゾルが見逃すはずもない。

 (ああぁっあ目が痛い!? 砂埃も操って、私の両目を潰しにきたのか? 小賢しい!

 奴は全然脳筋タイプじゃなかった!! 自分の怪力をうまく敵対者に発揮できるように魔法を扱う類の魔導士だ!!)


 そうパニックになっている杏華に対し・・・・・・。


 「ホッォオムゥラァアンンンンンンンンンッ!!」

 ポトゾルは遠慮なく杏華の腹に、こん棒でおもいっきり殴った!!

 そしてそれにより彼女は空高く吹き飛ばされたのだ。


 殴り飛ばされた杏華は、ポトゾルからはるかキロ単位に離れているタマスマニア山脈の中腹の岩壁にぶつかって止まった。

 衝突された場所から土煙が出ている。


 針葉樹に残されたポトゾルは、にやりと卑しく口角を曲げて独り言。

 「吾輩はダーティー魔王軍が一人、 ポトゾル オーガニック。

 自分のこん棒の間合いまで敵を魔法で誘導し足止めすることに特化した土使いだ・・・・・・」




 ※次から舞台を、なだらかな丘にある植林地へと代えます。


 『ジェウォーダン。貴様は何かに没頭して熱くなると、当初の目的等大切な事を忘れる悪癖がある・・・・・・気を付けるんだな』


 (なぁにがっ 気を付けるんだな なんだあの小娘め! あれだけわしが昔面倒を見たにも関わらず、わしより偉くなればすぐに恩を忘れて威張り散らしやがって!

 野蛮猿ニンゲンの小汚い血が入り混じった浅ましい餓鬼がっ!!)


 標的がいる場所まで向かっているジェウォーダンは、前に杏華が忠告した内容を頭の中で反芻し、心の中で愚痴っていた。


 「さてそろそろ対戦相手が見えても良い頃だが・・・・・・え。あれ・・・・・・彼女か?」

 敵らしき相手を発見したジェウォーダンはその猫科のアーモンド型の眼を見開いた。

 視線を何度も相手の顔と地図を行ったり来たりして困惑してしまう。

 周りを見渡しても自分と、これから殺し合うであろう相手しか人物が確認できない。たしかに魔法の地図が示す標的の居場所はここである。


 「え、あれ? 間違ってないか。壊れてないかこの地図・・・・・・嘘だよな。たしか魔王軍とは人間共を無慈悲に殲滅する兵で、誰も彼もが胸を張って自信満々に悪行の限りを尽くし、世界を征服しようと企む集団と・・・・・・この世界で定義されているはずだ。

 その幹部の一人が・・・・・・あの娘??」


 混乱して独り言を呟いている彼の前には、眼鏡の角が頭の側面から生えた青髪の女性が佇んでいた。

まだこちらの方には向いていない。

 彼女は魔王軍幹部とは思えない外見をしていた。それ故に獣王は自身の目を疑い始めている。

 まず彼女は、質素極まりない服(長袖シャツとロングスカート)を身に着け、ずっと自信なさそうに俯いている。癖なのか胸元ら辺に両手を組んで添えていた。人畜無害という言葉をそのまま擬人化したような人物だ。

 天気のいい日、この丘で彼女を見かけたら、敵を返り討つために待機している魔王軍幹部ではなく、深窓の御令嬢が、珍しく草原までピクニックに出かけていると思うのがしっくりくるだろう。


 このまま黙って彼女を遠くから眺めてもらちがあかないので、獣王は敵対者らしき人に話しかける。

 「おい貴様。我はダーティー魔王軍の幹部を探しているのだが、貴様がその一人ではないのか?」

 

 声をかけられた彼女は、一瞬だけ驚愕したがすぐにジェウォーダンの方を向いてバカ正直に頭を上下に激しく振って肯定した。

 (・・・・・・信じられん。ダーティーは一体何を考えているんだ? こんな小動物みたいな腑抜けな奴を幹部に任命するなんぞ)

 

 「わしは竜王軍幹部が一人 獣人共を統べる者・・・・・・獣王ジェウォーダンなるぞ!! わけあって貴様の命を奪いに参った。

 さあ、貴様も名を名乗り、辞世の句でも述べるのだな!」

 獣王の性質は善側か悪側か問われれば間違いなく悪だと一般人達から断じられるだろう。だがその前に彼は武人であった・・・・・・奇襲や謀略を嫌い正々堂々を好む彼は、戦う相手をも尊重する。雑兵戦は別として位が高い相手と戦闘する際は、上記のような内容を相手に問うのである。


 そして彼女も慌ててジェウォーダンの質問に全力で答えたのだ!

 「・・・・・・ごにょごにょ」

 ただしものすごく小さくて活舌の悪い声で!


 さすがの彼も彼女の答え方に困ってしまう。

 「・・・・・・済まぬ、もう少しでかくてはっきりした声で答えられぬのであろうか・・・・・・」


 申し訳なさそうに頷く彼女。

 「・・・・・・もにょもにょ」


 言い直しても全然言っている内容がわからないジェウォーダンはしびれをきらしてブチ切れた。

 彼は、びくびく怯えて自信気が無い人が何よりも嫌いなのだ。

 「愚弄しているのか貴様! 魔王軍幹部である者は声をはっきり出し、自信満々に胸を張らねばならぬ!!

 なぜならそうしなければ配下達を不安にさせ、戦場では敵達に無礼になるからだ!!

 貴様もその誉れ高き魔王軍幹部ではないのかっ!?」


 そんな彼の怒号に、彼女は驚愕し、すぐに瞳を輝かせ、目尻に温かい雫を溜めた。そして、


 「わ・・・・・・わわ、わ・・・・・・私は・・・・・・!

 ダーティー魔王軍、んが一人、メイ クリスタルホー・・・・・・ン!!

 索敵、探索・・・・・・に特化した光使いで・・・・・・すっ!!」

 拙いが、はっきりした声で応えたのだ。


 「なんだ、ちゃんと喋れるではないか・・・・・・!」

 敵であるはずの彼女のぎこちない声を聴いたジェウォーダンは、なぜか嬉しそうにその猫顔を緩めた。


 「あ、是非、ジェウォーダンさんの・・・・・・お話をもっと、ゲホゲホッ」

 大きな声を出すのは不慣れなのか、何か獣王に伝えようとした彼女は激しく咳き込んでしまった。


 「お、おい大丈夫か、メイ殿! 済まぬ・・・・・・わしが無理やり大きな声で話せと申したから、無理をさせてしまったのだな・・・・・・」

 そう言いながら獣王は慌ててメイの方まで走って、すぐに左前脚で彼女の背中を優しくさする。


 「コホコホッ・・・・・・私は、ジェウォーダンさんの先程、の説教に感動、しま、した。是非もっとお話しを伺えな、いのでしょうか・・・・・・?」

 

 そんな仇敵であるはずのメイの頼みに、


 「おおっ! いいぞいくらでも話してやる。ちょうど今昼時だな・・・・・・食料と芋のお酒を持ってきたがいっしょにどうだ・・・・・・?」

 顔をほころばせて、快諾した。ジェウォーダンは素直なメイを気に入ってしまったのだ。


 「は、い・・・・・・是非っ!!」


 ※作者注:お気づきかもしれませんが、獣王は当初の目的を忘れています。 


 ※次からは、古代ローマ風の街中に舞台を代えます。


 緑に染めたキトンを着用し、ウェーブがかった長髪に造葉の冠を被っている女性の植物精霊ドライアドが、噴水広場のベンチに座って、読書を嗜んでいた。

 そこに・・・・・・。


 「お恵みを・・・・・・」

 ボロ着のホームレスの男の子が、ひび割れたお椀を持って彼女に話しかけ、食べ物を乞いた。


 「なんでございましょうか? 薄汚れたお坊ちゃま」

 しかし彼女は、びくびく震えている男の孤児を見下すよう睨んで、大人しい口調で怒りを隠さずに答える。

 「無知な貴方が、このドライアドのことをご存じなくても仕方ないでしょうね・・・・・・。これでも人々を震え上がらせる魔王軍幹部の一人なのですよ。貴方が今やるべきことは、食べ物ではなく命を乞うことではないでしょうか」


 「・・・・・・」

 大人しくも彼女の高圧的な態度と口調に、孤児の男の震えは酷くなり、泣きそうになっていた。


 「すぐにでも私の視界からお引き取り下さいな。読書の邪魔をされて私の心は今、嵐時の海みたいに荒くなっているのですよ。それともあまりに不遇な境遇にいる貴方をこの世界からあの世まで渡すお手伝いをした方が、よろしくって?」


 彼女の丁寧な恐喝に、完全に怯えた孤児はしばらく黙った後、彼女に背を向けてとぼとぼと去ろうとする。


 「・・・・・・・・・・・・」 

 読書に戻らず、その様子を眺めていたドライアドの心の中に・・・・・・。


 『何をやられているのですか。あの幼気な方を飢え死にさせる気ですか。

 あなたがやるべきことはすぐにでもお金か食料を彼に分け与えることではないでしょうか』

 翼が生えてある自分の姿をした天使が舞い降りる。


 (はあっ!? 何を・・・・・・私は魔王軍幹部だ! 悪党である私がなぜそんな善行をしなければいけないの!?)

 心の中では口調が丁寧ではないドライアドが、焦り始める。

 天使の次に、彼女の心の中に侵入者が現れた。


 『汝よ、何を迷うことがあるか・・・・・・頼れる者がいなさそうな少年が目の前にいる。あなたがやるべきことは彼に許可を取って保護して養うことではないのでしょうか』

 そう、常に後光をして雲に乗っている自分の姿をした菩薩だった。


 (悪魔はいないのかっ!? 魔王軍幹部の私の心の中に悪意に満ちた悪魔はいないのか!!)


 『彼を魔王城まで案内して養育させる・・・・・・? いいアイディアですね菩薩さん。私といっしょにマスターを説得してみましょう!』


 『天使さんの助力があるとは、ありがたい・・・・・・まず誰からマスターを説得するか決めませんか?』


 (私の心の中で意気投合するな妄想共!! もうわかったわかったからっ・・・・・・!!)

 

 「ああっぁあああああああああああっもうくそったれっ!!」

 髪の毛を掻きむしり、今まで丁寧だった口調が嘘のように荒くなったドライアド。

 次に彼女は、ここから去ろうとする少年を呼び止めようとする。

 「ちょっと待ってよ貴方。もうさっき言ったこと撤回するからこっちに寄りなさいな!」


 ドライアドの荒い声に、驚いて歩むのをやめて怯えながら振り向く孤児。

 肩に掛けてるポーチから自分の財布を渋々取り出すドライアドが呟く。


 「あの・・・・・・何でしょうか、お姉さん」


 「気が変わったのよ。はした金差し上げますから、受け取ったらさっさとこの場から失せなさいな」


 (まあ銅貨一枚二枚くらいなら別にいいか・・・・・・それだけでも大きめなパンくらい買えるからね) 

 そう考えながら財布の中を確認したドライアドは唖然とした。持っているお金に銅貨どころか銀貨一枚すらなく、かわりにあったのは金貨複数枚。

 ちなみにこの国では金貨一枚で、デザート付き高級料理フルコースを頼んでも銀貨のお釣りがくるのだ。


 (・・・・・・ああもうやけくそだわっ!!)


 顔を歪めたドライアドは、こちらに寄ってくる孤児に金貨一枚を押し付けた。

 信じられないような物を見る目で金ぴかに光るコインを眺める男の子。


 (ちくしょう、欲しかった服があったのに・・・・・・それと)

 渋い顔で長考したドライアドは、お金だけでなく掌先にとげとげの種を一粒魔法で生成して孤児に渡した。


 「その種は御守り代わりに持っといていいのですわ。いらなくなったら捨てても良いんですのよ。

 それとお金はできるだけ早めに使うこと! 私の次に悪い奴が奪いに来るかもしれないですからね」

 

 その言葉を聞いた孤児は、お金と種を大事そうに握り、頭を下げてこの場から走り去った。

 彼の背中を黙って眺めたドライアドは一つため息をついた。

 「はあ・・・・・・私、魔王軍で働くの、向いてないのかしら・・・・・・結局悪魔なんて現れなかったし・・・・・・」


 ※物語の主軸を、ドライアドから孤児に変更いたします。


 (どうしよう金ぴかのお金だっ! 夢見ているのかなボク!

 最初は怖かったけど、優しかったなあのお姉さん・・・・・・)

 興奮して大通りを走っている孤児。


 そこに、

 「あいたっ!」

 誰かとぶつかったのだ。孤児が路地に転ぶ。


 「ご、ごめんなさいボク・・・・・・あまり前を見ずに走ったから・・・・・・」


 ぶつけられた相手も優しい口調で語る。

 「いえいえ気にしてませんよボクちゃん。

 ところで・・・・・・」


 孤児はぶつかった相手を見上げる。

 彼の目前に一人の男が立っていた・・・・・・鏃みたいな尻尾が生えているスーツ姿の非常に高身長な男だった。そろばんを持っていた。


 スーツ姿の男が、目元と口元を卑しく曲げて優しく囁く。

 「さっき、ボクちゃんはお金をもらいましたよね? それをぜひワタクシに寄付してくれませんかね~?」


 怪しい彼の態度と恐喝とも思える頼みに、孤児は先程よりも怯えてしまったのだ・・・・・・だが、


 「嫌だ! お姉さんから貰った大切な宝物なんだ! 絶対渡すもんか!!」

 金貨と種をしがみつくよう握りしめ、全力で孤児は断る。


 そんな彼の態度に、スーツ姿の男がうんざりするように肩をすくめた。

 「やれやれ・・・・・・大人しく渡しておけば無事に済んだものを・・・・・・。

 やはり野蛮猿ニンゲンとはどこまでも愚かですね。あとボクちゃん? ワタクシは今からお前を殺すけど、国の兵隊さんや道を闊歩している人に助けてもらえるなんて思っちゃ駄目ですよ?

 てめぇみたいなうんこ臭い餓鬼がきを、助ける奴なんかいやしねーんだよ」


 往来している人達が異様なトラブルを察したのか、急いで孤児達のいる場から離れた。


 じゃあな 坊主 と言いながら、スーツ姿の男・・・・・・もといバハムートが、孤児に向かって手を伸ばそうとしたところで・・・・・・。


 凶悪なその掌に、鞭で弾かれたような痛みが生じたのだ。


 「おやおや痛いですね・・・・・・誰ですか?」


 「その子から離れてくださいな。この意地汚い悪魔がっ!!」

 実際鞭で弾かれていたのだ。そのまんま草の蔓みたいな葉っぱがついている長い鞭を装備しているドライアド・・・・・・ローレイが、悪魔の前に現れる!


 「お・・・・・・お姉さん。どうしてここに・・・・・・本を読んでたんじゃ?」


 「種を渡しといて正解でしたわ・・・・・・」


 「成程・・・・・・」

 顎に手を添え、興味深そうに頷くバハムート。

 「もしやその種とやらは、現在位置情報を含めた周りにある音を術者に伝える効果があるのですね?

 ふうむ・・・・・・ダーティー魔王軍幹部の方ですね貴方? 貴方は今何をやっているのかわかっておいでで? なぜその子供に執着をするのです?」 


 彼の言葉に、ローレイは不敵に鼻で笑った。

 「魔王軍・・・・・・何をおっしゃっているのですか?」

 

 「てめぇみたいな子供に手をあげるようなド屑悪魔の顔をぶちのめせるのなら、魔王軍辞めて天使にでも菩薩にでも正義の勇者にでもなってやりますよこの糞野郎がぁああああああああああああっ!!」


 

 


 ※次からはダーティー魔王が根城にしている城付近へと舞台を代えます。


 竜王城とダーティー城との主な違いは、建築場所周囲の環境にある。

 竜王城には堀は無いが、その代わりに強固な石製防壁を何層も組み立てて、通路を迷路みたいに複雑に分岐させることによって、勇者達を始めとする侵入者を竜王の謁見室まで到達させにくくしているのだ。

 ちなみにうかつに飛行で侵入しようとすれば、常に帯電している肥大化した雲から高圧の雷で自動的に迎撃されてしまう(竜王軍に登録されている者達には反応しない)。

 ちなみに竜王城の敷地の境にある結界を抜けるのが前提条件だが。


 対してダーティー魔王城は、琵琶湖より狭い湖を掘代わりにしている。湖の中心を埋め立ててそこに城を建設しているのだ。

 隠し地下通路は別として城に続く架け橋は二通しかなく、渡るには何重の楼門を潜らないといけない。

 下手に船で渡れば水面にうろつくモンスターに襲われてしまう危険性が高い。

 まあ、


 「空を飛んでいれば大丈夫でしょうけどねぇ~」

 ビキニアーマーという露出度の高い服? を着て装飾品を沢山身に着けた恰好をしているサキュバスのリリスは、背中から生えているコウモリの翼で羽ばたきながら呆れていた。


 「どういうことなのぉ~? 今日日空を飛べる魔法の種類なんて世界に山のようにあるのに、あの根城は飛来してくるものにあからさまに無対策で不用心だわぁ~・・・・・・まあ罠なんでしょうけどね」

 彼女が湖の岸から数秒の間羽ばたいた時に、城の上空までたどり着いた。


 (正々堂々と正門から入るわけないじゃない・・・・・・)

 リリスは城の二階の窓からこっそり入った。鍵は閉まっていたが、彼女にかかれば音もなく魔法で開錠できる。

 

 他人の城の螺旋階段を堂々と歩いているリリスは、違和感を感じていた。

 (おかしいわね。まるで無人・・・・・・普通魔王城内なんてとこを少しでも移動していれば見廻りにでも出くわすのが普通なのに)


 ある程度彷徨っていたリリスは、微かだがとある軽快な足音を聞き取った。

 (足音がリズムに乗って連続で発されている・・・・・・とりあえず音の元まで寄ってみましょう)


 そしてリリスは不審な音を辿たどって、ダンスホールらしい広い部屋までたどり着いた。

 そこにはシルクハットを被っている燕尾服の男が、独りでタップダンスをやっている。


 男は踊るのをやめ、今被っている帽子を外して、近くの壁にある帽子掛けめがけて投げた後、ポーズを決めた・・・・・・帽子掛けに引っ掛かることなく無様にそれが床に落ちてしまったのだが。


 「ダッサ・・・・・・」

 ついリリスは思っていることを、格好つけた後滑ってしまった男に対して口にしてしまった。


 咳ばらいをし、余裕の笑みを浮かべている男は、リリスに挨拶する。まあなぜか目尻に熱い雫が溜まって赤面しているのだが・・・・・・。

 「初めまして麗しいお嬢様・・・・・・僕はカブ。お客様はこんな辺鄙な所まで何の御用でしょうか? お茶会なら喜んで僕も参加させて下さいね」


 「長ったらしい挨拶もなれ合いもいらないわ。用事は単純。侵略よぉ、皆殺しにするわぁ」


 髪の毛の代わりに頭部から緑色のスライムが生えているカブが、微笑むことを止めずに、殺意を隠していないリリスに対し、おどけるように言う。

 「おやおや、麗しいお嬢様に殺気は似合いませんね・・・・・・では僕も闘いを嗜めさせて頂きます。

 レッツウォー、シャルウィー(戦闘は如何ですか)?」


 リリスは魔力を込めている瞳で、カブのレベルを計測した後、眉を軽くひそめた。

 (全く・・・・・・やっぱりリュウちゃんの頼みを断って、ショッピングに行くべきだったわね・・・・・・彼、あたしよりレベル自体は低いけど、どこか異様よ。きっと強い)

 

 早速リリスは召喚魔法を発動した。部屋の床一面に光輝く魔方陣が生み出されたかと思えば、そこから十数人程度の手練れ達が異空間から現れる。

 例えば、ローブを身に着けたエルフ。例えば巨大な金槌を武器にしているドワーフ、軽装の拳闘士、大ぶりの剣を見せつけるリザードマン、魔力札を装備した狐獣人、伝説の剣を構えた勇者・・・・・・全員が最低でもレベル五十以上もある実力者だ。今はリリスの操り人形だが。


 (まずは様子見・・・・・・神獣達を口寄せしてもいいけど、これから戦利品になるこの城の調度品を壊しかねないわぁ・・・・・・あら?)


 「なぜあなたは何もしないの? 勝利を捨てたいのかしら」


 怪訝な顔をしているリリスに対し、カブは片掌を彼女に見せつける。

 「僕はフェミニストですからね・・・・・・レディファーストですよ?」


 「先手を譲ってくれるわけね。どこまでも舐めてくれる・・・・・・! いいわ。お望み通り殺してあげる。

 みんなぁ~、彼の周りを囲って一斉に襲い掛かってぇ」


 彼女の命令通り、俊足な操り人形達はカブの逃げ場を塞いだ。


 そして・・・・・・。


 「な、に・・・・・・やっているのよあなた達っ!?」


 いきなりリリスの人形全員がオタ芸を始めたのだ。もちろん彼女はこんな命令を下していない。


 (あたしの奴隷達の洗脳をいじくってハイジャックした!? でもあたしよりレベルが低いはずの彼が呪文も唱えずにどうやってこんな出鱈目な事を引き起こしたの?)


 親指の爪を噛んで焦っているリリスは、ふとある可能性を見出した。

 そんな驚愕している彼女を察して、カブは彼らと同調するようにオタ芸をうちながらウィンクする。


 「もうお気づきでしたか・・・・・流石ですね」


 「なっ、にっ、がっレディファーストよ・・・・・・貴方あたしに出会う前から魔法の下準備してたでしょうっ!! 呪文詠唱と同じ効果を持つタップダンスで・・・・・・!!」


 「ご名答・・・・・・! 洗脳された人間を踊らせて無力化する『魔術』を事前に発動しておいたのですよ・・・・・・それとサキュバスのお嬢様」


 「・・・・・・何よ?」


 憤っているリリスに対し、カブは苦笑しながら諭した。

 「悪の魔王軍のそれもそのナンバー2である僕の言葉を鵜呑みにするなんて、信じられないほど純粋な心をお持ちなのですねお嬢様・・・・・・だめですよ、これからは疑うことも学びましょうよ」


 「・・・・・・決めたわ。貴方は絶対ぶっ殺す」

 リリスは重々しく呟きながら、カブに人差し指を向ける。


 (最初から彼はあたしの顔しか凝視していない・・・・・・首元より下を向こうともしない。そして常に視線が泳いで耳と顔を赤らめている・・・・・・このパターンはあれね)


 

 

 ※次からは南の海岸に舞台を変更させて頂きます。


 「地図では確かここら辺だったな・・・・・・」

 魔法を付与された地図を持ちながら、砂浜の上でダーティー魔王を探している竜王。

 しかし目的地に到達した後周りを見渡しても、人っ子一人見つからない。


 (奴はステルス魔法を使っているのか・・・・・・? しかし我を欺けれるとも思えぬ・・・・・・ん?)

 ふと竜王は自分の足元に落ちている紙切れを発見した。


 その紙には文字や魔方陣が書かれてあった。文字の内容は、


 『もう少し自分の魔道具疑え、バーカ』


 いきなり竜王の足元から大爆発が起きた。砂が舞い、黒煙がすぐに辺りに広まり、近くにあるヤシの木が爆発の余波を受けてへし折れる。


 爆発が止んで数秒後、


 「粋なことをしてくれるな・・・・・・」

 煙の中心部から竜王の声が発された。

 彼は、自分に纏わりつく煙を魔力の暴風で吹っ飛ばす。

 レベルが百もある彼には、先程の爆破ごときでは傷どころか埃すらつかない。


 「お気に召して何よりだ」

 竜王の前に現れて立ち塞がるのは、ヤギの角が頭から生えている金髪エルフ幼女・・・・・・ダーティー アロガントだ。アルマジロをモチーフにしているパーカーを着ている。


 竜王がにやりと笑って、頷きながら語る。

 「成程たしかに疑うべきだったな。まさか狂わせた地図に我が欺かれてるなどと」


 「さっさとバトルおっぱじめようぜ」


 「そう焦るな・・・・・・貴様は本当に我が直々に手を下すに値する相手とは思えぬ・・・・・・まずは・・・・・・」


 あん? と怪訝な顔をするダーティーの背後に誰かが、地響きを起こしながらゆっくり歩み寄る。

 後ろを見た彼女の視線の先には、


 「私の城よりちょっとでけーんじゃねーの? ただの木偶のくせに」


 「竜王様ニ無礼ナ態度ヲトルナ 排除スル」


 合成音声みたいな声をどこからか出す超巨大なゴーレム・・・・・・ゴドキンがいたのだ。


 オールバックの金髪を掻きむしるダーティーは、微かに笑う。

 「こういうのはどうだ? 自分の部下同士を戦わせるってのは」

 彼女は自分の手元に、異空間に収納していた銅製の水筒と片手で持てる魚のミイラをアポートする。

 すぐに彼女は水筒の蓋を開け、出てくる液体をミイラにぶっかけた。


 竜王は顎に手を添え、興味深そうに眺めた。

 (水・・・・・・? いや、魔力マナを無理矢理液状化したものをかけているのだな)


 ダーティーはすぐにミイラを海に向かって投げた。

 塩水に浸かったミイラは短時間で・・・・・・・。


 「ふむ。乾眠していたものを元の状態まで戻したのだな・・・・・・」


 巨大建造物に匹敵する大きさを持つゴドキンとほぼ同じ大きな魚になったのだ。それは、眼が存在せず皮膚と筋肉・脂肪・臓器が透明で、脳みそや神経、骨がくっきりのぞけれる。


 驚いているゴドキンと、興味深そうに見上げている竜王に対し、ダーティーが説明を入れる。

 「ダーティー魔王軍幹部が一匹、即席インスタント怪物モンスター マリアナだ。

 こいつだけは私の幹部の中で搦手は使わず圧倒的な魔力で敵地に水害をもたらすぞ」


 「ふむ・・・・・・それぞれ一対一で戦う相手ができた・・・・・・というわけか・・・・・・」


 「そういうわけさ。さっさと始めようぜ」 

 

 


 ご覧下さりありがとうございます。

 【追記】※竜王軍のレベル値の高さ順⇒竜王=ゴブリン>バハムート>リリス>杏華>ゴドキン>獣王


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