98.肉
「もしかして、もう倒していたのか?」
ダンが、確信を持った目でロバートに尋ねる。
「ええ実は。竜の肉は全部自分達で食べる用なんで、他人には見せてないし、肉以外の素材は匿名で売り払ったので、ばれてはいないんですが。」
「なぁんだ。羨ましがらせようと思ったのに。」
と、ヨナがつまらなそうに言う。
他のメンバーも、既にロバート達が竜を倒していることを聞いても、意外とは思っていないようだ。ディーだけは目を見開いているが。
「焼いただけでも勿論絶品ですが、肉をふんだんに使ったハンバーグやメンチカツが、この子達のお気に入りです。ね?」
と、レティが子供達の頭を撫でながら聞くと、
「「あい。はんばーぐ、やわあかくて、おいちいの。」」
と、思い出して涎を垂らすので、サラとセラが、ハンカチで拭き取る。
「えっ!?何それ?」
聞いたことがない料理名にヨナが食い付く。
「端切れ肉や屑肉でも美味しく食べられる、旦那様考案の画期的料理です。いい肉を贅沢に使えば、美味しさ倍増です。」
レティが、形のよい胸を張りながら、何故か自慢げに話す。
「「ね~。」」
子供達も分かっているのかいないのか、2人でニコニコと頷き合う。
「簡単にできるの?お願い!教えて!!」
ヨナが必死だ。
「ちょっと手間は掛かりますが、難しくはありません。ただ料理法は・・・」
と、少し困った顔でロバートを見る。ロバートもその意図が分かったので、
「これらの料理は、今後、領の名物にしようと動いているので、どうしようかな。宿の自室では調理は難しいし、厨房を借りると人の目があるし・・・。それなら、家を買うか借りるかして、誰にも見られない環境が整ったらということで。勿論、他人に教えたり見せたりすることは禁止、という条件ならいいですよ。」
と、案外簡単に教えることを承諾した。彼らなら、金の為にレシピを売ったりしないだろうとの判断だ。
「家借りよう!どうせ結構長く居着くよね?」
ヨナが興奮ぎみに言うが、まだ実物を見てすらいないのに食い付きが凄い。
「落ち着け。まだ食ってもいないものを。」
ローディが妻を抑える。
「それに、ダンジョンに行き始めたら家借りるなんて勿体無いぞ。」
と、ダンが止めをさす。
「うぅ・・・、だってぇ。」
ヨナもそう言われると、それ以上反論できない。
「まあ、ぼちぼち領内で一般向けに食堂や屋台で出回ると思いますよ。」
と、ロバートが言ったことで、とりあえず収まった。
「でも、それならこれらの素材も幾つか持ってるんじゃないのか?」
ダンが紙をヒラヒラさせながら聞く。
「正確には持っていたものもあった、ですね。まあ、持っていたとしても、ランパード侯爵家に益をもたらすつもりはありませんからね。俺の出自を知ってるんでしょ?でも、そうは言っても、ダンさん達が吹っ掛けて稼ぐ分に関しては何も言いませんよ。」
「まあ、そうだな。薬師ギルドも難儀なことだな。」
「おそらく、エリクサーが必要な患者がいる訳じゃなく、侯爵が権勢を少しでも取り戻すのに利用したいだけだろうし。あのモーリスってギルマス補佐だけは、実直そうだし、気の毒だから、本人が望むなら辺境伯領に引き抜いてもいいかな。」
と、ロバートが悪い顔で微笑む。
「旦那様が悪い笑顔を・・・。」
「まっ、俺達は、ダンジョンに行く準備をするか。ところで、お前達に連絡するときはどうしたらいいんだ?」
ダンが、ロバートに尋ねると、
「そうですね。これを預けておきますよ。これに連絡事項を書き込んで、魔力を流せば、鳥の形になって俺の魔力目指して飛んでくるので。」
と、ロバートがダンに≪式神≫を何体か手渡す。
「おお、それは便利なもんだな。・・・これは、他の奴には送れないのか?」
「ええ、これは俺の魔力を登録しているので、他の人に向けては使えないですね。」
「分かった。ありがたく預かっておく。」
「まあ、でん・・、じゃなくディーのことも心配ですし、遠慮なく使って下さい。無くなりそうなら、返事の時に追加で送るんで。」
「おう、そうさせてもらおう。じゃあまたな。」
「ロバート殿もお元気で。」
「はい、それではまた。」
ダン達は、口々に挨拶をして出ていった。
「じゃあ、俺達も行こうか。」
ロバートは、ダン達を見送った後、レティ達に声を掛け、宿泊予定の高級宿に向かった。
街に出てきた時くらいは、サラとセラにも息抜きをさせてやろうと考え、彼女達用に一部屋とってゆっくりさせてやるのが恒例となっている。2人は恐縮するのだが、最近は慣れてきたのか、断っても無駄だと理解したのか、素直にその待遇を受け入れるようになった。
宿の食事については、普段自分達が調理しているもの(レティと一緒に改良しているもの)に及ばないと毎度残念がられながらも、そこは高級宿である為十分美味しく、何より人に調理してもらったものをゆっくり食べられるということで、サラ達も堪能しているようである。
また、風呂付の部屋など、サラ達の給金(平均よりは随分高いが)ではとても宿泊できないのであるが、ロバートは普段の働きに感謝の意を伝え、手厚い対応をしている。サラ達も破格の対応を受けていることを十分理解し、また明日から全力で働こうと英気を養うのだった。
その夜、部屋に入ったロバートは、薬師ギルドの動き(&ランパード侯爵家の動き)や、ディー達と会ったこと、ギルマスの不穏な態度等をエリックに式神で報告した。ギルマスの件は、領都のギルド統括へも伝えてくれと添えて。また、港町代官のヨークシャー子爵へもギルマスの件を式神で連絡した。前ギルマスの更迭は、子爵からの訴えがきっかけらしいので、念の為だ。
その間に、子供達をレティが寝かしつけていた。疲れた子供達は、直ぐに寝付いたようだったが。
2人きりの時間を作り出した後、ロバートとレティは、夜を徹して仲良く過ごしたのであった。




