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95.交渉-3

 がなり立てるエクムントに、ロバートが呆れたように答える。

「ランパード侯爵家に楯突く気かって言われても・・・、正直どうとも思わないな。あの侯爵家は、今随分と苦しい立場にいるようだし、冒険者にかまける時間もないだろう?そもそも、ここを誰の領地だと思っているんだ。ランパード侯爵なんて名前をここで出したら・・・、まあ、俺には関係ないけどな。」

 なんだかんだで、辺境伯子息襲撃の話は、領内に流布されている。そして、他領に比べて高い治安の良さと豊かな生活水準を守り続ける領主一族は、領民から敬愛されている。その一族を害した侯爵家のゴリ押し案件と聞けば領民がどう思うか・・・、実際に、デボラとコレットの目つきが険しくなっている。


「大体、金って言っても・・・、払えるんですか?」

 ロバートは、素材の紙を手でヒラヒラさせながら、

「これらの素材、エリクサーの原料ですね?ここまで馬鹿正直に羅列しちゃったら、安く買い叩けると思わない方がいいですよ。」

 ロバートは、素材から、ひと目で狙いがわかったが、モーリスは、何故分かった?っと、驚愕の表情を浮かべるのだった。


 ロバートは、直ぐに表情に出るモーリスの顔を見ながら、この人に交渉は難しいだろうなぁと思っていると、エクムントが更にがなり立てる。

「別に何を作ろうがお前なんぞに関係ない。それよりも、とっとと金額を言ってみろ!どうせ、金額を吊り上げたいだけだろう。」

 ロバートは、心の中で溜息をつきながら、結局こういう輩は、自分がそうだから、他人もそう考えると思い込むものだから、話し合い自体意味がない。であれば、

「お前少し黙ってろ。」

と、エクムント一人だけに向けて、“威圧”した。


「ひっ!!!」

と、エクムントは簡単に意識を手放し、ソファの上で崩れ落ちる。

「お、お前!何を!相手は貴族だぞ!!」

 気絶したエクムントを見て、ベリンダがロバートに噛みつく。

「いや、そもそも貴族の名を出して強要した時点で、ギルマスである貴方が止めるべきですよね。この手の圧力から冒険者を守るのが、冒険者ギルドの意義でしょう?」

「そうですね。やっぱり貴方には荷が重そうですね。」

 ロバートが冷静にベリンダに返すと、エルも続ける。

「ぐっ!?」


 咄嗟に反論できないベリンダを放っておいて、ロバートは、何事もなかったようにモーリスに視線を向け、話を再開する。

「そもそもこれは、グリフォンクイーンを倒して手に入れたものではなく、知性ある彼女と話し、友誼を結んだときに貰ったものだ。金のために売ったりするような真似をする気は無い。」

 エクムントの様子が気になるが、静かならその方がいいと放置を決めたモーリスは、拒絶されても諦める気は無いのか、食い下がる。

「そうですか。でも、そうであれば、新たに貰うことは出来ないのでしょうか?友誼を結ばれたというのなら・・・。」


 ロバートは少し考えた。以前に貰った物を売っ払うのは気が引けるが、改めて彼女に用途を告げた上でくれると本人が言うなら構わないか・・・。

「それなら、他の素材を全て揃えられたら、貰えるか聞いてみてもいい。どうせこれ1つだけ手に入れても仕方ないだろう。」

と、上に書かれた他の素材を指差しながら答える。そこまでして頼むと言うのなら、如何にも愚直な人間が板挟みになっているのを見捨てるのも寝覚めが悪い。

「あ、ありがとうございます。」

と、モーリスが感謝の言葉を述べるが、金額交渉を一切していない段階でそんなに喜んでいいのだろうか。


 モーリスは、ロバートにお礼を言った後、改めて、ダンの方に向き直り、

「先程はお話の途中でしたが、改めまして、これらの素材の収集をお願いできませんでしょうか?」

と、再度素材の一覧が書かれた紙を指し示す。

「う~ん。どうする?」

 ダンが、エルとローディに聞いてみる。

「この素材なら、ほとんど草原のダンジョンで集めることはできそうですね。もう一度火竜に挑む必要がありますが。」

「火竜と再戦か・・・、前回も楽勝って訳じゃなかったしなぁ。」

 エルとローディは、出来ないとは思ってないが、何となく乗り気ではなさそうだ。

 モーリスは、祈るような気持ちでダンの顔を凝視している。

「俺達は冒険者だから、冒険してナンボってところはあるが、一度踏破したところに再度行くのも面白くはないな。まだまだここの食い物も堪能し尽くしてないし・・・。」

 ダンには、態々草原のダンジョンに戻ってまで、その依頼を受けようという動機がない。


 段々と自分にとって風向きが悪くなっていくのを感じ、モーリスの顔が陰ってくる。話題の“竜殺し”に断られてしまうと、もう頼める冒険者はいないだろうと考えたからだ。

 モーリスが、何とかお願いしようと、再度声を上げようとしたとき、

「でも、過去の到達記録を読むと、大森林東のダンジョンにいる魔物の種類も、草原のダンジョンと似たようなもんの筈ですよ。」

と、ロバートが、ダン達に言う。

「んっ?そうなのか?」

「ええ、亜竜、地竜、マンティコア、コカトリスも記載されてましたね。倒したかどうかは知りませんが。恐らく同じような傾向なら竜種もいると思いますよ。」

 ベリンダのことを信用しきれないロバートは、自分が経験したことではない(火竜がいることは知らない)体で話を進める。そもそも過去の記録があるし、ギルド側が把握しているべき情報なのだ。


「そう言えば、ここにきて、まだダンジョンの情報はあまり詳しく調べてなかったな。ただ、正直言って、かなり希少な素材ばかりだから、時間もかかるだろうし、依頼に縛られたくないな。だから、ここに書いてある素材を手に入れたら、優先的に薬師ギルドに渡すって口約束くらいしか出来ない。それでもいいなら、気にはかけておこう。ただし、買取金額は、それ相応の価格になるぞ。これが俺達にできる最大限の譲歩だな。特に今は懐が暖かいから、無理する必要も無いし。」


 ダンの言葉を聞き、もう少し粘ろうとしたモーリスだったが、結局頭の中で、それが落としどころと判断したようだ。

「分かりました。それでも入手できる可能性が残ったと喜ぶべきなのでしょう。よろしくお願いいたします。」

 そして、深々と頭を下げながら、エクムントが気を失ってくれて良かったと胸を撫で下ろした。今の話を聞いていたら、平民を人とも思ってない態度で強要し、完全に決裂していただろう。

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