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94.交渉-2

 ロビーにいたロバートは、ギルドの女性職員に呼ばれ、ソファーに座らされている。

 正面には、ベリンダと名乗ったギルマスが座り、その横には薬師ギルドのモーリスと、先程ギルドのロビーに怒鳴りながら入ってきた男が座っている。その男は、エクムントという名前で、薬師ギルドの幹部らしい。聞いてもいないのに、子爵家の四男だと名乗っていた。

 ちなみに、エクムントと一緒に入ってきた男は、秘書兼護衛らしく、彼の後ろに控えている。ロバートの見立てでは、護衛と言っても、実力は、先程食堂で揉めた冒険者と大差無さそうだが。


 ロバートの横には、ダンとエルが座り、ローディが後ろに立った。ダン達は、退出しようとしたのだが、話が途中であり、ロバートと顔見知りであったことから、ギルマスに残るように言われて、引き続きここにいる。

 レティは、子供達がいるので、食堂に残した。ナディア達も喜んで子供たちの相手をしてくれてるし、このギルマスに呼ばれるなんて、ロクな話ではなさそうだったからだ。


「さて、本題に入る前に・・・、お前が、ここの先代のギルマスを陥れたロバートか?」

 ベリンダが、憎々しげな視線をロバートに向けながら切り出す。

 ロバートは、領都のギルマスのゴルドランからの情報を、父のエリック経由で得ていたため、この展開は予想出来ていたが、前ギルマスに正当性は無いし、告発したのも自分ではないので、とんだ言いがかりだと思っている。


「確かに俺がロバートで間違いないが、陥れたとは穏やかでないし、自分には身に覚えがない。そもそも、ここの代官の問題提起だと、そこのデボラさんが言ってたと思うが?」

 ベリンダが、睨むような視線をデボラに向ける。

「私からも、何度もご説明しましたが?ロバートさんは、前ギルマスがギルド証剥奪を盾にして強制した依頼をしっかりと果たし、約束の報酬が払われるならそれでいいという姿勢でしたよ。尤も、前ギルマスは、その支払いもまともにさばけませんでしたが。」

 視線にも全く怯まずデボラが説明すると、ギルド証剥奪の部分で、ダン達に驚きの表情が浮かび、

「マジか・・・。屑だな。」

と、思わずといった呟きが漏れる。


「なんだと!?」

 ベリンダが、聞きとがめ、今度はダンに絡む。

「だってそうだろ。俺も人伝で聞いたが、冒険者の利益と安全を守るべきギルマスが、貴族に忖度して危険な依頼を強要するとか、それもギルド証剥奪をちらつかせて。ありえないだろ。」

「貴方、それでも本当にランクAだったのですか?」 

 ダンの反論に続き、エルも呆れ気味に思わず言ってしまう。


「な、な、な、」

 ベリンダは、ようやく自分もまさに同じことをしようとしていたことに思い至る。この会談が不調に終わった場合、ギルマス権限を使ってでも彼等に依頼を受けさせ、薬師ギルドに便宜を図ろうとしていたのだから。ただ、このまま先輩と自分を悪しように言われっぱなしなのも納得いかない。


 しかし、流石にギルマスといえど、ランクSのエルに対しては、偉そうな口はきけないのか、

「い、いかにランクSのエル殿であっても、言い過ぎではありませんか?」

「「ランクS!!?」」

 薬師ギルド勢が驚きの声を上げるが、エルは、更に呆れた顔をして、

「冒険者ギルドは、そもそも冒険者の権利を守るための組織です。別に態々貴族や他のギルドと諍いを起こす必要はありませんが、そちらにいい顔をするために冒険者にシワ寄せするのは本末転倒です。まあ、ギルド本部の腐敗が酷いし、そことベッタリだった貴方の価値観がおかしくても仕方ないでしょうけど・・・。そもそも、こんな話を無関係且つ他ギルドの人間の前でしている事自体守秘義務をどう考えているのでしょうか?モーリス殿も困っているでしょう?」


「い、いえ、私は、べ、別に・・・」

 モーリスは、その流れでこっちに振らないでくれと慌てる。

 一方、ロバートは、いい加減、無駄な時間に我慢できなくなってきた。

「そんな冤罪まがいの私怨で呼び出されたのなら帰るぞ。」

と言って、立ち上がると、

「そうだな。」

と、ダン達も立ち上がる。


「まっ、待て!いや、待ってくれ!」

 どうも思ったように進まないどころか、ギルマスである自分に全く敬意を払われない様子に、勝手が違うと混乱しながらベリンダは慌てて呼び止める。


「なら、早く用件を言ってくれ。これ以上言い掛かりを続けるなら、ここにいる気は無いぞ。」

 ロバートが、そう言って座り直すと、ダンも仕方ねぇなと呟きながら座る。

「わ、分かった。では、モーリス殿の方から。」

 ベリンダが、慌てて促すと、モーリスも気を取り直し話し始めた。


「お忙しいところお時間を頂き恐縮です。先程、ダン様にもご覧頂きましたが、薬師ギルドで希少なこれらの素材を探しております。」

 モーリスは、素材の書かれた紙をロバートに示しながら、

「単刀直入に言いますと、ロバート様は、こちらのグリフォンクイーンの素材をお持ちとお聞きしましたもので、是非ともお譲り頂きたいのです。」


「もう、個人情報ダダ漏れだな・・・。」

 呆れたようにロバートが呟くと、壁際に控えていたコレットがビクッと身をすくめる。

「それにつきましては、当ギルドの不手際です。誠に申し訳御座いません。」

 デボラが、心底すまなそうに謝る。


「まぁ、ここまでの流れが気に喰わないのは、置いておくとしても・・・、譲る気はないな。」

 ロバートは、以前にも一度断っているし、何より、ランパード侯爵家の利益に繋がる方向に動きたくない。己の足を失った襲撃を無かったことにしてやるほどお人好しではないのだ。ランパード侯爵家の苦境は聞いているが、自業自得だと思っているし、助けてやる義理はない。


「なぜだ!?」

 ベリンダが、うるさい。

「なぜ?って、今の話の流れから、喜んで了承すると思われていることが不思議で仕方ないのだが。」

 ロバートの言葉に、ダンも横で頷いている。


 すると、そこまでは大人しくしていたエクムントが、

「グズグズ言ってないで、とっとと差し出せばいいんだ!ランパード侯爵家に楯突く気か、この平民風情が!金か?幾らいるんだ?言ってみろ!」

と、いきなり喚き出した。

「エクムント卿!止めてください!」

 穏便に交渉したいモーリスが、慌てて止めに入るが、ロバートもダン達も、ああ、また貴族ってことをはき違えているバカがいるな・・・、と呆れるのだった。

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