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93.交渉-1

 モーリス達は、辺境伯領の領都に到着し、すぐに冒険者ギルドを訪ねた。

 最初は受付のギルド職員に質問をぶつけ、情報を引き出そうとしたが、依頼を出すわけでもなく、ただただ業務の邪魔になる質問者を相手に、ギルドの情報を漏らす職員はおらず、モーリスも埒があかないと思い、ギルマスに面会を求めた。


 当然、いきなりギルマスに会えるはずもなかったが、王都を出発するときに薬師ギルドのギルマスから渡された紹介状を出し、しぶしぶといった感じではあったが、何とか3日後に面会の約束を取り付けた。

 その紹介状は、薬師ギルドのギルマスが、元々癒着関係にあった冒険者ギルド本部の幹部に掛け合って出させたものであり、便宜を図るよう記してあった。

 しかしながら、領都のギルマスであるゴルドランは、本部からのそうした便宜の強要にホイホイと従う男では無く、守秘義務を盾に、全く情報を出そうとはしなかった。ただ、

「どうしても知りたいなら、薬師ギルドの全てのポーションの卸値を恒久的に半額にすると言うなら、考えてやってもいいが。」

と、とても呑めないであろう要求を出してきた。

 元々、ポーションの需要が高い、ダンジョン近隣の冒険者ギルドからは、暴利を貪る薬師ギルドは嫌われているのだ。折角良心的な価格で提供された貴重な上級ポーションの製作者の情報など漏らすはずがなかった。


 結局、モーリスは何の情報も引き出すことができず、引き下がるしかなかった。

 ちなみに、同行したエクムントは、ギルマスとの面会時にかなり失礼な態度をとっていたが、ギルマスに威圧され失神した為、それ以上の問題行動は起こさなかった。(起こせなかった)


 ただ、モーリスは、ギルマスとの面会を待っている間、冒険者ギルド内で冒険者に酒を奢ることで、有用な情報を手に入れていた。それは、草原のダンジョンの50階層を攻略したパーティーが、この領都を通過し、港町に滞在しているという情報だった。元々港町までは足を伸ばす予定だったし、50階層のボスは火竜だったというのは有名な話で、その“竜殺し”のパーティーがひょっとするとエリクサーの原料の一部となる竜の素材を持っているかもしれないとの期待を抱かせた。

 領都にいても、ここの冒険者ギルドの協力は得られそうに無く、寧ろ港町の冒険者ギルドのギルマスの方が、紹介状を書いたギルド本部の幹部の伝手が利きそうとのことであったので、とっとと港町へ移動することに決め、そこの冒険者ギルドを訪れたのであった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ダン達が、呼び出された冒険者ギルドの応接室のソファーに座ったところで、ギルマスのベリンダが声をかける。

「わざわざ呼び出してすまなかった。君達をわざわざ呼び出したのは、薬師ギルドのギルマス補佐であるこのモーリス殿から打診を受けたからだ。詳しい話は私も聞いていないが、冒険者ギルドと薬師ギルドの仲が良好であるのはいいことだし、君達も個人的に縁が出来るのは悪いことではないと思う。話を聞いてどうするかは君達の判断次第ではあるが・・・、まあ、取りあえず話をしてもらおう。」

と、モーリスの方を向き、促す。


「初めまして、薬師ギルドのモーリスと申します。ギルマス補佐に任命されていますが、まあ、ギルマスの小間使いみたいなものでして・・・。薬師ギルドの事情については、長々とご説明しても退屈にお感じになるでしょうから、単刀直入にお願いをさせて頂きます。」

 そこで一息おいて、ダン達の様子を伺う。今のところは、まだ耳を傾けてくれているようだと判断し、話を続ける。


「実は、薬師ギルドは、色々な状況が重なり、王都を中心に、やや世間の評判を落としております。それを憂慮したギルマスの指示で、画期的な薬を開発し、世間に発表することで、落ちた評判を挽回しようとしているのです。そこで、私が原料集めを命じられたというわけでして。」

 モーリスは、そう言いながら懐から素材が列挙された紙を取り出す。


「これは?」

 ダンが、その紙を見て尋ねると、

「これが、その薬の原料と使用しているもののリストになります。“竜殺し”たる貴方達にギルマスから声を掛けて頂いたのは、これらの素材を所持されているのではないか、もし、お持ちなら、買い取らせて頂けないかと考えたためです。如何でしょうか?」

 モーリスが、一気に自分の目的を明かすと、ダン達は顔を見合わせ、苦笑する。


「あ~、倒した火竜の素材は、殆ど買い取りに出してしまったんだ。現地のギルドからも中々手に入らない素材ということで、強く説得されたしな。結局、俺達が食べるための肉以外は、全部ギルドに渡してしまって、手元に残っちゃいない。期待に応えられなくてすまんが、そういうこった。」

 ダンが、手元に素材が残っていない事情を説明すると、モーリスが目に見えて落胆した。それでも、折角これほどの高ランクの冒険者と面談できたのだ、と気力を奮い立たせ訴える。


「であれば、それらの素材の調達を依頼することは出来ませんか?」

「んっ!?それは、もう一回火竜を獲ってこいということか?」

 特に気分を害した様子もなく、ダンが聞き返す。

 モーリスも、その危険を考えれば、無理にお願いすることは出来ないだろうことは分かっているが、一縷の望みをかける。


「私には、その危険度を、本当の意味で理解できていないのかも知れません。ですから、行って頂けますかとお尋ねするしかないのです。」

 フーッと大きく息を吐きながら、ダンはドサッと背もたれに体を預け、素材が書いてある紙を眺める。エルとローディも横から覗き込む。

「何々・・・、竜種の血、骨、グリフォンクイーンの尻尾の羽、コカトリスの・・・」

「えっ!?グリフォンクイーンの尻尾の羽って、確かロバートさんって・・・」

「コレット!!!」

 若いギルド職員が、冒険者の個人情報をポロっと漏らそうとしたところで、先輩のデボラが止めに入った。

「あっ!す、すみません。」


「んっ、何を言いかけた?コレット、言ってみろ。」

 ベリンダが、コレットの失言を聞き逃さず、追及する。

「いえ、ギルマス。これは冒険者の個人情報であり、人前でする話ではありません。」

 デボラが、コレットが不用意に答える前に制止する。

 ベリンダが、ややムッとしたように一瞬眉を顰めたが、

「それは、私が判断する。コレット、言いかけたことを話すんだ。」

 そう言われたコレットは、デボラの顔をチラチラ伺いながらも話始める。


「え~と、確か2年以上前になると思いますが、西の大森林の調査依頼の報告の時に、ランクB冒険者のロバートさんが、持ち帰っていたのが、グリフォンクイーンの尻尾の羽だったと思います。希少な素材だから覚えていました。」

 デボラは、額に手をやり、困った表情を浮かべる。

 一方、ベリンダは、

「ロバート・・・だと?それは、先輩、じゃなく、前ギルドマスターが中央に呼び出された頃か?」

と、絞り出すような声で尋ねる。

「は、はい。デボラさんが代行を務められていた頃でしたから。」

「そうか・・・。」

と、ベリンダが考え込む素振りを見せた時、ロビーの方から大きな音が聞こえ、何か騒いでいるような声が聞こえてきた。

名前が被ったことに気が付きましたので、41話にギルマス代行として登場したサラの名前を ⇒ デボラ に変更しています。

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