85.出産ラッシュ
エルザと暫しの別れを惜しんだ後、お土産のおにぎりを古龍に渡して感激された。ついでに、連絡用に≪式神≫を渡しておいた。
そして、よくよくエルザのことを古龍にお願いして、シルフィーに乗せて貰って自宅へと帰ってきた。当然≪認識阻害≫を掛けて。
その後、直ぐに帰ると思っていたシルフィーが居着いている。到着した時に、お疲れ様とばかりに、ゴーレムが新鮮な野菜や果物をシルフィーに差し出し、思いのほか、シルフィーが気に入ってしまったのだ。また、ロバートが霊山へエルザに会いに行けなくなったので、このまま帰ると、また喚ばれずに放置されると思ったのかもしれない。
どうせ、竜にとっては、1日滞在するのも1年滞在するのも気になる差ではないのだろうが。
ロバートは、ただでさえデカいシルフィーの居場所確保と、広がった田畑で手狭になってきた敷地を見て、再度敷地拡張に着手した。
今回は、一辺400mの正方形から一気に一辺約1kmの正方形へ広げた。拠点のある台地上の平坦な部分をほぼ使い切った格好だ。空堀と土塀をどんどん作り直して敷地を広げていくのを見て、シルフィーが何故か呆れた様にロバートを眺めていた。
ヨシノは、早速広がった敷地内を楽しそうに走り回っている。タイハク一家は、特にシルフィーに怯える様子が無かった。寧ろ、なんだか意思疎通が出来ているように見える。
「主殿、スレイプニル達が、水場が欲しいと思っているようだ。伝える術が無く、遠慮していたようだが。」
「え?そんな具体的に言ってることが分かるの?」
ロバートも多少は彼らの意思が分かる。ロバートが言っていることが通じるようなので、具体的に質問すると、『はい』か『いいえ』かくらいは判断出来ていた。だが、結局ロバートが思い付かない要望は確認する術が無かったのだ。
ロバートは、シルフィーに通訳してもらって、タイハクに確認した後、池を作ることにした。水は汲み上げればいいのだから、水脈自体は豊富なのでどうせなら常時入替したい。ゴーレムにポンプを操作させるのがいいかと考えたところで、ふと気が付いた。
ゴーレムが人型である必要は無いのでは?ポンプのハンドルを動かすだけの機能を持つゴーレムにすれば・・・、いや、ポンプ自体をゴーレムにすればいいじゃないか、と。
ということで、最初から自立動作するポンプ型ゴーレムを“創造”した。勿論、魔力回復を≪付与≫した魔法石で動作する。
そして、≪整地≫で地面を掘り下げて、池の形を整えていく。牛と鶏たちの柵の内側にも池を食い込ませて水が使える形にした。
そして、ポンプからの水供給口をミスリルの管で繋いで池の底に設置し、水を供給し始める。そこから反対岸の一番遠いところに堰を設け、溢れ出た水が流れていくように小川を作る。
小川の水は、土塀の下を潜って外周の空堀に流れ込み、水堀となった。堀に流れ込む手前で、≪浄化≫を付与したミスリルの網を通過することで、敷地外に出る前に綺麗な水にしておく。水堀から溢れた水が、高低差で流れていき、最終的に地下浸透するか、外の河に流れ込むからだ。
因みに、家の中で出る生活排水も、固形分除去後に同じ様に≪浄化≫した後で、地下水脈に戻している。
池が出来ると、早速ヨシノは水に入って器用に泳ぎ、牛たちも珍しそうに近づいて水を飲む。
作業が終わったので、レティが子供達をつれて、近づいてきた。
「これは、楽しそうな遊び場になりそうですね。良かったですね~。」
といいながら、気持ち良さそうに寝ている子供達のほっぺをつつく。
池の側に、子供用の遊び場として、柵付きのかなり浅い水場も一緒に作っておいたのだ。板状の単純な堰を外せば池から水が張り込める構造だ。
まだ子供達だけでは遊べないが、もう少し成長すればいい遊び場になるだろう。遊び場の端に土を盛り上げて表面をツルツルに仕上げた滑り台も用意してみた。子供が大きくなれば、記憶にあるウォータースライダーなるものに作り直してもいいかもしれない。池から更にポンプでくみ上げれば、上から水と一緒に滑り降りることが出来るだろう。
将来的に子供達が楽しそうに遊んでいる姿を眺める為、池の側に東屋を建てて長椅子とテーブルも設置した。
エルザがいないのが残念だが、日々散歩がてら、東屋にレティと並んで腰掛けて、子供をあやす。小川をさらさらと流れていく水を眺めながら、サラ達が用意してくれたお茶を飲み、ゆったりとした時間を過ごすのだった。
日が流れ、クリスティーナが出産したと≪式神≫で連絡がきたので、城を訪問し、ブルーノと名付けられたロバートの弟と面会した。ライラと共に、子供の世話に慣れたサラとセラも甲斐甲斐しく世話を手伝った。
ついでだったので、ある程度量が確保できた稲の種籾をエリックとロイに見せて、米を炊いて試食させた。反応は上々だったので、農業従事者の数が揃ったところで、開墾と稲作を進めていくことをうちあわせた。
そして、城から自宅に戻った時、コウカが出産し終わっていた。なんと、三つ子だった。特に人の手が必要な訳では無いので、コウカは悠然としたものだったが、生まれたばかりなので近づかずそっとしておく。ただ、馬車を引いて留守だったヨシノだけは何となくだが、やや不機嫌そうだった。
その後まもなく、出産ラッシュの最後を締めるように、待望のエルザからの≪式神≫が届いた。
『旦那様、レティ。無事、元気な男の子が生まれたわ。勿論私も何の問題もないわよ。あと1年会えなくて寂しいけど、名前をそれまでに考えておいてね。他の女を作っちゃダメよ。愛してるわ。』
「良かったですね。旦那様。」
ロバートは勿論、レティも、本当に嬉しそうだ。
「でも、あと1年待たなきゃ会えないのかぁ。仕方ないとはいえ、寂しいな。」
「旦那様を寂しがらせない様に、とエルザからも頼まれてますので、何でも言ってください。」
「そうだなぁ~、皆で久しぶりに港町にでも行く?あの子達は、離乳食も食べ始めたし、一緒に連れて行っても大丈夫だと思うよ。」
「それはいいですね。海産物もまた調達したいですし。」
というような相談をしているところに、エリックから≪式神≫が届いた。
ロバートは、それを読むと、少し嬉しそうに、
「港町に行くと、会えるかもしれないな。」
と呟くのだった。
これにて、第三章は終了です。




