84.帰省(出産準備)
半月ほど領都の城で過ごした後、往きと同じく馬車で自宅に戻ってきたロバート達は、またのんびりとした生活に戻った。
ちなみに帰る前に、妊娠した母の為、空間魔法で内部を≪拡張≫した馬車をもう1台作って置いて来ていた。このタイプは、今のところロバートにしか作れそうにないが、後々高級馬車として友好的な貴族達に貸出できるように、そのうち数を増やしてもいいかもしれないと考えた。
自宅でのんびりするうちに、田んぼで稲の2回目の収穫時期が来たので、収穫して1世代前と品質が変わらないことを鑑定で確認できた。
あとは種籾を増やしていこうということで、田んぼに魔法を入れて、稲も促成栽培に移行した。
10日程で収穫できるので、自分達が食べる分も確保でき、早速米を炊いて食卓に乗せた。
「旦那様、これは肉と一緒に食べると物凄く美味しいです。幾らでも食べれる気がします。」
レティは肉との相乗効果に大満足だった。
「これが、お父様が好きだった米・・・。美味しい・・・。」
エルザも、一口ずつじっくり味わう様に食べている。随分気に入ったようだ。
「「美味しいです!!」」
一緒に食べていたサラとセラも相変わらずハモる。
米が十分受け入れられると感じたロバートは、レティと共に丼物を生み出していくことになる。
そんな感じで、食生活をどんどん豊かにしながら過ごすうちに、エルザが里帰りする時期となった。
収穫は順調で備蓄は着実に増えているので、米を炊いて収納し、古龍へのお土産とする。肉や魚を具にしたおにぎりも作ってみた。皆にも大好評だったからだ。
今回は、子供達の世話もありレティは、留守番である。残念そうな顔をしたが、仕方のないことと納得はしていた。
エルザに乗って、一飛びして霊山にやって来ると、古龍が笑顔で出迎えてくれた。横にはやや不機嫌そうな気配を漂わせたシルフィーもいた。人化できないシルフィーは当然竜の姿だが、久しぶりに見るとやはりでかい。
「お帰り。ちゃんと言った通りに戻ってきたわね。」
「勿論よ。旦那様の子を産むのよ。万全を期すのは当然よ。」
古龍の挨拶に、何故かエルザが、偉そうに答える。
「宜しくお願いします、お義母様。」
「ええ、いらっしゃい。息子達は、自立したっきり1度も戻ってこないから、孫の誕生に付き添うのは初めてで楽しみなのよ。」
そう、エルザには兄がいるらしい。何人とか何処にいるとか、エルザも詳しくは知らないらしいが。
龍の雄は、人族の伴侶を好み、その場合、子は龍ではないので、帰ってこないことの方が多いとのこと。
「我が主殿は、あの後我を1度も喚ばず、随分とつれないではないか。久々に会ったというのに声すら掛けてくれぬとは・・・。」
「ごめんよ。色々と取り込んでて・・・。」
何故か、ほったらかしていた恋人に責められているような空気だ。
「でも、これからは何度かここと自宅を往き来すると思うし。」
「ならば、我が送り迎えをしようではないか♪」
一転して上機嫌になるシルフィー。
だが、
「ごめんなさいね。言い忘れていたけど、この後は婿殿は、しばらくこの娘と会えないわよ。」
「「え!?」」
エルザとロバートが一緒に驚く。
「こればっかりはねぇ、しきたりなのよ。龍以外の伴侶の場合は、この時期から離れて過ごすことになっているのよ。それで、生まれてからは、龍の姿で1年程度は人型の姿の者を生まれた子供に近づけちゃいけないのよ。龍として育つ為にも、後で人化を覚える為にも必要なことらしいの。でも、龍にとってはその程度の時間は誤差みたいなものだから、言い忘れてたわ。本当にごめんなさいね。」
心の準備も無く、急にしばらく会えない事実を突きつけられて呆然としていた2人だったが、気持ちが落ち着いた後は、2人きりでゆっくりと過ごすことにして、いつもの野営用の小屋を出した。
「2人だけの夜って久しぶりじゃない?」
「そうだね。」
エルザが、妖艶な雰囲気を纏ってロバートにしなだれかかる。
「明日から、しばらくお別れなのね。」
「龍のしきたりらしいからね。龍にしたらなんてことない期間みたいだけど。」
エルザが、潤んだ目を瞬かせながら、今気がついたみたいな感じで、呟く。
「そう言われるとそうね。暫く人間界で馴染んでいたから感覚も人間よりになったのかなぁ。」
「でも俺は寂しいよ。」
「も、勿論私もよ。」
見つめ合って、そこから濃厚なキスをする。
ロバートは、長い禁欲生活を送っていた。妊娠中の2人の体調への負担を考え、出産後も体が快復するまでは、と考えていたから。
しかし、突然に暫しの離れ離れ生活がきまり、こんな表情で見つめられたロバートの箍が外れたことは責められないだろう。
2人は、体への負担をかけないように夜を徹して仲良くなった。
「おはよう。」
朝というには遅い時間にエルザが目を覚ますと、少し前から寝顔を眺めていたロバートが声をかけた。
暫くボーッとしていたが、
「おはよう。旦那様。随分と気を遣わせちゃったかしら。昨日は全然意地悪されなかったしね。」
と、お腹を撫でながらからかうように言う。
「それは、当然だよ。でも、暫く会えないということで感情を抑えきれなかったんだ。」
「レティに悪かったかな?」
エルザが、ちょっと申し訳なさそうに言うが、
「いや、寧ろこれからエルザと離れるから、レティの方が申し訳なく思うかもね。優しいから。」
「旦那様。」
エルザが、急に真剣な顔になって言う。
「レティがそう思ってくれるのは私だからよ。逆に私がそう思うのもレティにだけ。もし、他の女だったら・・・。」
エルザの圧に少し怯えながらも、
「俺の心は、もう2人だけのものだよ。」
といって、キスで口を塞ぐ。
「もう、そうやってごまかして・・・。」
と言いながらも、エルザも自ら求めて何度もキスを繰り返し、別れを惜しんだ。




