82.ギルド統括2
「俺のところで止めるから、言える範囲で教えてくれ。」
ゴルドランが、エリックに詰め寄る。
「落ち着け。教えてもいいが、ちゃんと情報を止めろよ。」
「分かった。」
「先ずミスリルだが、大森林東のダンジョンの51階層にミスリル鉱床があるらしい。ライアンはそこから採ってきた。」
「51階層!?前人未踏だぞ。到達した連絡も来てない!」
「ああ、報告してないのかもな。別にギルドへの報告義務はなかった筈だしな。」
「いやいや、ダンジョン到達階層の更新は、冒険者としての名声を考えれば報告しない者はいないだろうと思われているからだろ。」
「だが、規定違反ではない。それに言っただろ、奴が望むのは平穏な生活だと。それに・・・、50階層のボスが火竜10頭だったらしい。51階層に鉱床があるなんて伝わったら、無理な依頼が出て、無謀に挑んで死ぬ奴が増えるだろう。」
「火竜10頭!?倒したのか?嘘だろ?」
「ああ、俺達が草原のダンジョンで倒せず時間切れとなったのも火竜だったな。」
「その火竜を10頭だと?ランクS、いやそれ以上だろ。」
「因みに、ライアンのパーティメンバーのレティシアは、木剣のみの模擬戦をして俺をボコボコにぶちのめしたぞ。まあ、それが孫の母親だがな。」
「お前を?剣だけで?」
「ああ、俺も立ち会うまでは、彼女とまともに戦える人類なんていないと思うと言ってたのはライアンの冗談だと思ってた。」
「・・・・・・・。」
「それに、ライアンは2人の妻をパーティメンバーとしているが、もう1人のエルザもレティシアと同程度には強いらしい。あと、土産で貰った火竜の肉は絶品だったぞ。」
エリックは、話の流れ次第ではエルザが龍であることを明かすことも考えていたが、今この場で言う必要は無いと判断した。龍人の血をひく者にとって、龍という存在は大きすぎる。
ゴルドランからすると、全てが信じられない。だが、エリックがわざわざこんな質の悪い冗談を言う必要も無い。
「信じられないが、嘘と断じることも出来ないし、お前が嘘をつく理由がないよな。じゃあ、ポーションは?上級を安定的に作れるものが少なくて、流通量が少なかったところにあの量だ。」
「あれは、ライアンが作った。錬金術系のスキルを持っていて、作り貯めていたものらしい。ただ、それを生業にするつもりは無いから、受注して作ることはしないとのことだ。だから、名前は出さないでくれ。」
「・・・分かった。名前は出さないよう慎重に扱う。利用・・・はしないが、緊急事態では当てにさせてもらうが。」
「それは、本人が受けるなら、俺は何も言わん。ああ、ライアンという名前は使ってないぞ。冒険者としてはロバートという名で登録してる。」
「んっ!ちょっと待てよ・・・、ああ、港町のギルマスの件で聞いたな。速攻であっさり20階層まで行って子爵のバカ息子を拾ってきたと。ただ、ギルマスが職権乱用で依頼を押し付けたと、子爵閣下からこっちに来た報告に書かれてた名前がロバートだったな。本人は、依頼の金さえ貰えばいいと言って帰ったらしいが、子爵閣下が見過ごせなかったと。お前の息子だと気が付いたなら猶更か・・・。」
「ああ、俺のところにも連絡が来ていたが、アンディが責任を感じることじゃないと返しておいた。」
エリックとしても、実直な部下を、本人の瑕疵なく罪に問うような愚かなことはしない。
「そうなると・・・、ちょっと困ったことになるかもな。そのやらかしたギルマスは再教育になったが、その後釜で港町のギルマスになったのが、仲の良かった後輩なんだ。彼女は、可愛がって貰ってた先輩をひどい目にあわせたとロバートを逆恨みしているらしい。こいつも脳筋系だから、俺ならまだギルマスにはしなかったが、統括といっても実質の任命権が無いんだ。結局、王都の本部が勝手に任命したんだ。一応、息子に伝えておいてやってくれ。」
「分かった、伝えておく。彼女ってことは、女性冒険者だったのか?」
「そうだ、元ランクAで、まだ30代前半だが、足の怪我が原因で、ランク相当の依頼が難しくなっていたところに本部から話があったらしい。」
「個人的な感情で、一冒険者に対して隔意を持つ人間がギルマスか・・・。ギルドも改革が必要なのではないか?」
「安定して収益を上げられている組織だと、中々内部から改革の声は上がりづらいな。実際、ギルドの収益は、ダンジョンを抱える支部を中心に安定している。上層部は既得権益を放したがらないし、支部のトップには自分達の言うことを聞く人間を置いた方が都合がいいからな。その点では俺は都合のいい人間ではないが、元ランクSってのは大きくてな、簡単に罷免も出来ない。港町のギルマスは、俺の息のかかった職員に補佐させて矯正させる。これまでの話を聞く限り、お前の息子に下手に手を出すと、彼女の方が潰される未来しか見えないからな。」
「まっ、ギルドのことはお前に任せるよ。」
「そうだ!折角来てやったんだから、俺にも火竜の肉食わせろ。」
数ヶ月後、領主の名前で長城建設計画が公表され、労働者の募集が始まった。
表向きの理由として、恒久的な魔物対策を掲げ、その上で雇用対策として建設に関わる労働者に給金を出すことを発表した。
役人を遣って、特に収入源のない流民やスラムの人間を拾い上げていった。
民衆からは、増税されたわけでもなく、治安問題の1つが解決されることもあって、概ね歓迎された。
同時に、ロバートの提案した収穫量を上げる計画の第一歩として、余剰農産物の買取政策も公表された。
これまで、豊作時には食料の余剰が増え、価格の下落により買い叩かれることが多かった為、休耕畑や耕作放棄地となった畑がかなりあった。そこで、最低買取価格を公表した買取制度により、価格下落を抑えることで生産意欲を上げ、再度耕作地として復活させることを目論んだ。勿論、買い取ったものは収納バッグで備蓄され、不作時には放出される予定である。
ロバートの魔法による大規模開墾と領主直轄の大規模農業&稲作が始まるのは、買取制度が定着し、耕作地が1.5倍に増えた3年後となる。
領として、大氾濫に向けて動き始めたのだった。




