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81.ギルド統括

◇エリックの執務室にて


「すまんな、呼び出して。本来なら俺が出向こうと思っていたんだが。」

 ロバートが生まれた子供達を連れて城に滞在して数日、時間さえあれば孫を構いまくっていたエリックがソファに座りながら、対面に座っている男に声を掛ける。

「いや、こっちも聞きたいことがあったから丁度良かった。寧ろ領主が直接ギルドに来るなんて何事かと騒がれるから俺が来た方がいいだろう。・・・で、個人的な友誼ならともかく、領主とは険悪ではないが親密でもないギルドの責任者、として呼んだ用件は?」

 彼の名はゴルドラン。かつてのエリックのパーティメンバーであり、元ランクS冒険者の肩書を持って、現在のエドワーズ辺境伯領全域の冒険者ギルド統括(兼 領都のギルマス)を務めている。


「何から話したらいいか・・・、今から話す情報について、個人が特定されない様に慎重に扱って欲しい。」

「んーー、内容を聞いてみないと何とも言えんが、可能な限り配慮しよう。」

「頼む。というのは、この話に主に関わってくるのがライアンだからだ。」

「ああ、長男の?小さい頃に何度か会ったか。」

「そうだ。色々と話は聞いてるかもしれんが、第三王女に一方的に手酷く婚約破棄された。まあ王女側にも事情はあったがそれはうちの責任ではないから、客観的にはそういうことだ。それで、貴族籍を抜けたいという本人の希望通りにして、現在冒険者をやっている。」

「まあ、お前達を見てたから、貴族の坊ちゃんが冒険者になっても驚かないが。なんせ俺らのパーティは、俺以外4人とも貴族の出だったからな。で、何をやらかしたんだ?」


「実は・・・、ライアンが孫の顔を見せに来た。」

「は?」

「生まれたばかりでな、双子なんだ。女の子はスウェシアといって何故か俺の抱っこでは機嫌がよくないが、別に俺を嫌がってはいるわけではなさそうだ。男の子はガルシアというんだが、こっちはニコニコとご機嫌で、孫って奴ァこんなに可愛いものだったのかと・・・。」

「お前・・・、いや、めでたいよそれは。だが、ギルド統括の俺を呼び出して、口止めから始まった話がそれか?」

 ゴルドランは、まくし立てるエリックに呆れながら言う。こんなにデレデレするエリックを見るのは初めてだったので、呆気に取られて怒る気にもならなかった。

「ああ、すまん。つい・・・な。」


 エリックは、気を落ち着けるようにお茶を一口飲んでから、

「大森林側から大氾濫が発生する兆候があるとの情報を持ってきた。」

「な、何!?ギルドでそんな報告は受けてないぞ、ってさっきの孫デレから落差激しすぎだろ!」

 ゴルドランが立ち上がって叫ぶ。

「落ち着け。今すぐの話ではない。30年~200年も先の話らしい。」

 エリックは自分がデレたのを棚にあげ、突っ込みもあっさり無視して冷静ぶってなだめる。


「オイッ、突っ込み無視すんな。いや、そんなこたぁ置いておいて、そんな先の予測を誰が出来るんだ?信憑性が無いが一体、どこからの情報なんだ?」

「古龍様だ。」

「んっ?なんだって?」

「古龍様だと言った。ライアンは、幸いにと言うか、古龍様と縁づいている。古龍様の好意によって、この地に降りかかる厄災を教えて頂いたのだ。龍人の血を引くお前なら意味は分かるだろう。」

「・・・本当なのか・・・。お前がわざわざ呼び出してそんな嘘をつく必要は無いしな。・・・じゃあ、その前提で話をするとして、俺に何をさせたいんだ?」

「特に何をしてくれという具体的なことはない。そもそも冒険者ギルドは、魔物を間引き、氾濫に備えるのが設立の主旨の1つだから普段から対応する用意はあるだろう?」

「そりゃあ建前としてはな。だが、その心構えがあるのは、うちと実際に大きなダンジョンを抱えている支部くらいだな。」


「いや、この領で心構えがあればいい。どうせうちを突破されたら実質この国が終るからな。俺は寿命的に生きていないだろうが、お前の寿命なら対応しなきゃいけない可能性が高いから伝えておくんだ。」

 エリックは、顔を引き締めてそう言った。

「分かった。何かしら準備が出来るか考えることにする。・・・ひょっとして最近のそっちから流れているミスリルとポーションは?」

「金策だな。息子の提案で、大氾濫で湧く魔物を大森林から出た平原で食い止める為の長城を30年計画で築く。人手不足は流民化、スラム化してるところから雇って領の治安改善にも繋げる。給金を出すから流通する金が増え、経済も活性化する。世間的には大氾濫の情報よりは、経済対策で仕事を与えると言っておいた方が無難だな。」

「意外だな。冒険者時代にはそんなところを見たことが無かったが。」

 ゴルドランがエリックの意外な一面を見つけたと呟く。


「冒険者としては必要なかったが、一応幼少から厳しい領主教育は受けてきたからな。今まではあまり手を付けなかったが、将来に危機があるなら目を背けてきた領の問題点解消も含めてやっておく必要がある。」

「へー、まあ、冒険者を続けられなくなってスラムに行きつく奴らもいるが、ギルドも全てを救えるわけじゃない。受け皿が出来るのは大歓迎だな。・・・ところで、ミスリル鉱とポーションの出処は?」

「なんだ、ギルドもそれなりに利益を上げたんじゃないのか?」

「うちだけならいいが、商業ギルドから探りとやんわりとした抗議が来ていてな。なんで商業ギルドを噛ませないんだと。職人ギルドにミスリルを卸したのが気に食わないんだろう。だが、商業ギルドで中抜きされると、職人ギルドから文句が出る。」


「最初に言った、個人が特定されないように、っていうのはそれらに関してもだ。ハッキリ言うと、ミスリルとポーションを持ってきたのはライアンだ。だが、入手元の情報を得ても、他の者が真似るのは難しい。よって、個人が特定されるとライアンのところに有象無象が押し掛ける。奴が望むのは平穏な生活で、大切なのは身内の人間だ。特に身内の人間に迷惑を掛けようとする者には容赦がないから、悲惨な()()が起こらないよう、ライアンの関与を表に出したくないのだ。」

「お前の心配は分かった。俺のところで止めるから、言える範囲で教えてくれ。」

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