79.稲作
ロバートは、エリック達に大氾濫の予測を伝え、対策案を提案した後、直ぐに自宅に戻ってきた。
愛する妻達と過ごしながら、領の為に提案できるように、色々と試してみるつもりだった。
「早速米を育てるのね?」
エルザが興味津々で尋ねてくる。自分の父親が好きだったと聞けば、興味も湧くだろう。
「ああ、失敗するとマズいから、少しずつ試してみるよ。」
敷地内の空いているところで、記憶にある田起こしをイメージしながら1m角を手作業で耕す。
「領内で育てられるかの確認もあるから、出来るだけ俺の魔力は入れない方がいいかと思って。」
水田に直接蒔けばいいと言われたので、水を張って水田っぽくなったところに10粒ほど蒔く。
「畑と違って全く魔力を入れてないから、野菜みたいな急成長はしないと思うけど、日々観察だな。」
「私も軽い運動がてら、毎日見に来ようかな。」
そうして、稲の生育を観察しつつ、牛と鶏も購入してきて、牛乳、卵も自給できるようにした。鶏糞は、後で肥料にする。作った柵の中で育て、普段の世話はゴーレムにお任せだ。因みに、土ゴーレムは、10体まで増やした。
たまに敷地外に出て、大森林東のダンジョンに行き、50階層で火竜を狩って肉を入手→51階層でミスリル採掘を繰り返し、ミスリルと上級ポーションを領都に届けて金策に当てて貰った。
ミスリルはロバートが習慣としている“創造”でインゴットを貯めてはいるが、市場に出すなら採掘したままの方が余計な注目を集めないだろうとロバートは考えていた。実際は、その量で注目を集めてしまうのだが。
そうして適度にのんびり暮らすうちに、4ヶ月が過ぎ、とうとう稲の収穫が出来るまで育った。
古龍から聞いた通り、特に手間もかからず、水田に種籾を蒔くだけで育ってくれたのだ。
そこで、古龍から貰った残りの種籾は温存し、次は今回収穫したものを蒔くことにした。
水田を拡張するのに、同じく魔力は使わず、牛に引かせて田起こしをしてみると、意外に楽に出来た。
これはかなり人手を省ける。是非とも領内に推奨しようと思った。
前回同様に、水を張って種籾を蒔いてしまったら、後はゴーレムに任せた。
更に、比較用として、魔法で田起こしした小さな水田を別に作り、種籾を蒔いた。
魔法を使った時の魔力が成長を促進するのか、確認するためだ。
これは予想通り、魔法で整えた水田では、稲が10日程でたわわに実った。
10日で収穫した種籾を、今度は魔法を使わずに整えた水田に蒔いて様子を見たところ、10日で収穫できるようなことはなく、以前の魔法無しの水田と同じ程度の成長速度のようだ。
結果として、魔法を使った畑や水田は、成長が早くなるが、収穫したもの自体は差が無いと考えられた。
さて、拡張した水田では、1ヶ月も経つと、どこから来たのか田んぼにカルガモの番が居着いた。悪意が無いので結界を素通りしたようだ。記憶の中では、雑草や害虫を食べてくれるそうだが、実際に稲には被害が見られないので様子見だ。
因みに鑑定すると、そのままカルガモだった。ゴーレムも暇なときに可愛がっており、そんな光景をレティとエルザと散歩しながらのんびり眺める。
数日前、領都にミスリルを持って行ったとき、ロイから、
「ある程度計画的に回せる資金が確保できたから、ミスリルとポーションはとりあえずこの位で大丈夫だよ。もうぼちぼち奥さんについててあげて。」
と、言われたので、それもそうだと、また自宅でのんびり生活をすることにしたのだ。
また、その時についでのように、ロイからヒルデガルドの顛末を聞いた。
ロバートは最初、誰の事かと考えたが、暗部を張り付けてもらった帝国の公爵令嬢を何とか思い出した。短期間とはいえ、一緒にダンジョンに行って面倒を見たというのに、なんともつれないものであった。
「報告では、結局のところ、自分達の稼ぎだけでは、返済に全然足りなかったみたいだけど、エリクサーを届けに実家に行った騎士がお金を持って戻ってきたみたいだよ。それで何とか借金を返済して、帝国に向けて船で出港したのを見届けたところで、暗部も撤収してきたんだ。ただ、返済に行った時に、奴隷商に兄さんの素性とか居場所をしつこく聞いてたそうだけど。」
「うわぁ、マジか。でもガリアスには、素性も家の場所も話してないからな。尤も、勝手に調べてるかもしれないけど。」
「ああ、奴隷商は、命の恩人の冒険者ということ以外は何も話してないって。」
「まあ、俺の出品したもので借金奴隷になられても後味が悪いから気にはなってたんだ。」
「えっ?さっきの反応だと絶対存在ごと忘れてたよね。」
「・・・・・・・。」
「やっぱり・・・。」
「まあ、いずれにしろ、借金返せて良かったし、帝国に帰ったんならもう会うことも無いだろう。」
この発言が後々フラグになるのかどうか、誰にも分からない。
そしてもう一つ報告が、と言ってロイが話したのは、
「母上が身籠ったよ。」
「はぁ?」
「母上が身籠ったって。」
「いや、聞こえなかった訳じゃない。確かに、見てくれは若いけれども・・・、大丈夫なのか?」
ロバートの記憶には、高齢出産というワードもあり、危険という認識がある。だが一方、この世界には魔法があり、経済力がある者は、出産までの体調管理に魔術師を雇ったりする。
「昔馴染みの回復系の魔法が得意な魔術師にお願いするって言ってる。」
母の馴染みなら相応の実力者だろうと考えたロバートだが、念の為、
「前に渡したエリクサーは遠慮無く使えよ。幾らでも補充するからケチるな。」
と、ロイに言っておいた。
「ハハハ、うん、分かったよ。」
乾いた笑い方をするロイを怪訝に思いながら、まあ、まだ子供ができるほど両親の仲がいいのは結構なことだと呑気に考えるロバートだった。尤も、クリスティーナに火を着けたのが、自分の妻が夜の営みの話をしたことだったことには考えが及ばなかったようだが。




