78.護衛騎士から見たロバート家訪問
「お帰りなさいませ。」
「うむ。ライアンの奴、でかい屋敷を建てていたな。食事もかなり豪勢だったし、生活に困っているどころか、下手な貴族よりも贅沢な暮らしをしてたな。」
「そうですか。それはようございました。」
ライアン様の屋敷から領都に戻ってきて、ご領主であるエリック様をマーク殿が出迎えにきていた。
「護衛、ご苦労だったな。騎士団長に帰還報告したら、休暇になるはずだ。ゆっくり休んでくれ。」
「はっ!しかし、向こうでは美味しい食事も用意してもらえましたし、ベッドで休むことも出来ましたので、それ程疲れてはおりませんが。」
私は、この程度で休暇を貰うのは申し訳ないと思ったが、
「お前は良くても、新入りは初めての護衛で緊張しっぱなしだっただろう?」
と、エリック様は仰る。
「これは、私の部下への配慮が足りませんでした。お言葉に甘えさせていただきます。」
「ああ、ではもう下がっていいぞ。」
「はっ!では失礼いたします。行くぞ。」
部下に声を掛けて、エリック様の前から辞する。
団長への帰還の報告をして、早々に部下は解放した。
ご領主に同行して、ご子息の屋敷を訪問したのだ。新人達には気疲れが多かっただろう。
今回、エリック様がご子息のライアン様の元を訪問されるということで、エドウィン団長から副団長である私、ファビアンが道中の護衛を指揮するよう命じられた。
比較的安全度の高い街道を行くので、経験の為、私以外は若手1名・新人2名で構成された。
「さて、後で報告書にまとめて貰うとして、口頭で詳細な話とお前の感想を聞かせてくれ。」
団長室に2人きりになったところで、団長から話を振られる。
「そうですね、ライアン様とは直接話をすることはできませんでしたが、エリック様、ライラ殿を相手にお話しされている様子からすると、温厚な方でしたね。今の生活が楽しくて仕方ないといった感じも受けました。」
「そうか、ロイ様に聞いた通りか・・・。他に何かあるか?」
「何か・・・、ですか。色々あり過ぎて、何から話していいやら・・・。先ずは、ライアン様ご本人がお迎えに来られたのですが、魔物のスレイプニルに騎乗して来られました。」
「んっ?」
「そして、お屋敷までの脇道に入るところに≪認識阻害≫の魔法が掛けられていました。ライアン様に言われなければ気が付いていませんでした。」
「んんんっ???」
「到着すると、敷地を空堀と土塀が囲んでいました。土塀の強度もかなりしっかりしている様でした。」
「ちょ、ちょっと待て。個人宅なんだよな?」
団長が慌てて確認するが、確かに聞いただけだと何言ってんだと思われるだろうな。
「個人宅でしたね。ライラ殿達が行くまでは、奥方様2名と3人暮らしですね。」
「エリック様が援助して建てたのか?」
団長がそれっぽい推論を出すが、ハズレだ。
「ああ、そうではなく、ライアン様の魔法で空堀も土塀も屋敷も建てられたそうです。」
「何?ライアン様は長くレベル0だと侮りを受けていたと聞いていたが?」
「その辺りの細かい事情は聞かされていませんが、現在、冒険者のランクはBだそうです。」
「上級じゃないか、いや、冒険者になってそんなに時間経ってないだろ。う~ん、訳が分からん。」
それには同意するが、事実は事実だ。
「ライアン様たちがダンジョンで狩ったというオーク肉を大量に使ったスープを頂きましたし、エリック様は地竜のステーキを食べられたそうです。」
「地竜だと!?それも狩ったのか?精鋭の騎士10人揃えてもどうかという相手だぞ!」
「そう仰ってました。そもそも買おうと思っても地竜肉なんかそうそう手に入りませんよ。」
「本当なのか・・・。そ、そうだ!お前達は奥方様の模擬戦を見たって言ってたな。」
ああ、エリック様が戯れにやったあれか・・・。
「はい、なんでもライアン様が奥方様の自慢をしたのを聞いて、面白がって模擬戦をしたのですが、エリック様の方が手も足も出ず、あっさりとボコボコにされました。事前にライアン様が、木剣で魔法抜きだから遠慮なくやれ、と声を掛けられた時は、見学している騎士達も何を仰っているのかと苦笑してたんですがね。ライアン様は、治癒系の魔法であっさりとエリック様を治してましたよ。」
「エリック様はかつて王国最強と称されてたんだぞ。多少お年を召した今でも、俺と模擬戦して7:3といったところなんだぞ。」
団長は信じられないようだ。現在の王国最強の呼び声が高いのは、他でもない団長だからな。
「団長。正直に言いましょう。団長の実力をよく知る私から見ても、奥方様の方が明らかに上です。」
「な・ん・だ・と?」
団長の顔が真っ赤になる。
「そんなに怒らないで下さいよ。相手の実力は、過大評価しても過小評価しても駄目だと仰ったのは団長じゃないですか。それに、お屋敷に行った時に見た感じだと、3人ともとても強いようには見えなかったんですが、じっと目を凝らして見ていると、強さを抑え込んでいるような揺らぎを感じました。過去はともかく、現状ではかなりの実力者なんじゃないでしょうか。お疑いならエリック様に直接お伺いしては?」
「そうだな。後日お前の報告書を持参して、エリック様にお尋ねする。ただ、その実力が本物だとすると、ライアン様が自ら貴族籍を抜ける判断をされたのはご英断だったな。既に次代はロイ様で固まりつつある辺境伯領だが、時流に乗れないバカどもがライアン様を神輿にして後継者争いを起こしかねないところだった。・・・他に何かあるか?」
「敷地内に広大な畑があって、ゴーレムが農作業をしていました。収穫された野菜は絶品でしたね。食事時には見たこともない料理やソースもあって、それがまた美味しいのなんのって。一緒に行った奴らも、若いうちからあんな美味しい物を知っちゃって・・・、野営で辛くならなきゃいいけど・・・。」
「ゴーレム!?」
「ええ、私も詳しくは分からないんで、報告書には書きますが、詳しくはエリック様に聞いてください。その方がいいです。」
「・・・、ああ分かった。出来るだけ早く報告書を上げてくれ。ご苦労だったな。今日は下がっていいぞ。」
「はっ。了解しました。・・・そうだ、門番をしていたのは、オリハルコン製のゴーレムらしいですよ。ではっ。」
最後に爆弾を落として、ドアから廊下へ出て、とっとと逃げる。
「はーっ!ちょっと待てーーー。」
後ろで声がしたが、立ち止まることなく自室を目指した。




