76.馬車
ロバート達は、霊山の古龍に相談に赴いて今後どうするかの目途を立てた。
古龍から、“古龍の祝福”という規格外のものと、大氾濫の情報を頂いて帰途につこうとした時、
「そういえば、風竜王が、なかなか婿殿が呼んでくれないと愚痴っていたわね。竜王と普通に会話が成り立つ人類は滅多にいないから面白い体験をさせてくれると期待してるんでしょうね。残念ながら今日はいないみたいだけど。」
「ああ、召喚した方が良かったんですかね。じゃあ、これからは自分だけで出かけることも増えるから、その時にでも呼んでみますよ。それじゃ、エルザの出産準備の時にまた一緒に来ますので。」
ロバートが古龍に答えてから、出発する。
「ええ、またね~。」
往きと同じくエルザに乗って自宅に帰ってきたロバートは、数日ゆっくり過ごした後、思いつきを試してみることにした。
今後、妊娠中の2人を連れて狩りなどには行けないので、ロバートの1人行動が増える。ただ、閉じ籠ってばかりもつまらないだろうから、3人で出かける用の馬車、それも妊婦に振動を与えないものを作ることにした。
この世界の馬車は、車輪が地面から受ける振動をそのまま座席に伝えてしまっている。多少クッション性のある座席にしても、妊婦には良くないだろう。そこで、日本の記憶から板バネを付けてみることを試みる。コイルバネでもいいが、上手くいけば、ポンプ同様エリックに情報を流すつもりなので、板バネの方が鍛冶技術で取っ付き易いと考えた。
すっかり忘れていたが、レティと出会った頃に盗賊の住処から没収した馬車を収納から取り出す。ボロだが≪浄化≫はしてあるし、バネの効果確認なら問題ない。
ロバートは、鉄のインゴットを収納から取り出し、バネを“創造”する。『重ね板ばね』と言われるものだ。そのままでは馬車に取り付けられないので、馬車も“創造”で作り替える。
バネを設置したら、馬車に樽を置き、水をほぼ満杯にする。
敷地内を馬車を引いて歩き、水のこぼれ具合を見ながらバネを作り直し、水がほぼこぼれなくなるまで調整し終えると、最終確認として、ロバート自身が馬車に乗り込み、タイハクに馬車を引いてもらい、敷地外に出て、態と悪路を走らせてみた。
「おおっ!揺れが無くなったとは言えないけど、凄く緩やかで心地良いくらいだ。よし、これでいいな。タイハク、帰ろう。」
タイハクに戻るよう指示すると、方向転換し、自宅へと帰った。
バネの効果は確認できたので、最愛の妻を乗せるに相応しい馬車を作ることを考える。
材料は、収納に残っているハイトレントでいいだろう。
いっそ空間魔法で馬車の内部を≪拡張≫して快適空間を作ればいい、という考えに至ったところで・・・、
「あっ!」
ロバートは思わず手で額を抑えた。
そもそも空間魔法で≪拡張≫してしまえば、外部の干渉は遮断できる、つまり振動なんか気にする必要は無かったではないか・・・。
「は~っ。」
バネ開発は一体何だったのかと溜め息をついたが、まあ、エリックに渡して広めれば無駄ではないと気持ちを切り替えて、馬車の製作に取り掛かった。
結局、座席スペース、寝室、風呂、トイレを備えた内部空間を≪拡張≫によって作り出して、馬車は完成した。
こうした、ポンプや板バネといった日本の記憶から、現在の技術で何とか実現可能なものを今後もエリックに渡していくことにより、領のますますの発展に寄与することになる。
翌日、折角作った馬車をお披露目する為、外出に誘う。
「今日は港町に行って、屋台飯を満喫しない?レティとエルザは体調はどう?」
「問題ありません、旦那様。」
「私も大丈夫よ。」
「じゃあ、ライラ達も一緒に誘う?こんな何も娯楽が無いところに来て貰ったんだし。」
「それはいい考えですね。魚も買って来ましょう。」
「じゃあ、声かけてくるわね。あっ、大丈夫よ。寧ろ歩いた方がいいわ。」
体に気を遣って止めようとしたロバートに気が付いて、エルザがそれを制して部屋を出ていった。
案の定、≪拡張≫された馬車の中を見たサラとセラがハモって驚きの声を上げていた。
今回は、タイハクの1頭立てで出かけている。
馬車は3頭立てにする程の幅は無いし、1頭だけ留守番も気の毒との判断だ。
実際、1頭でも余裕で引ける馬力がある。
頭がいいので、タイハクに任せっきりでも大丈夫とは思ったが、一応ロバートが御者をした。
5分ほど試乗をして揺れが全くないことを確認した後、港町まで200km弱の道のりを3時間でたどり着いた。
「全く揺れませんでした。家の応接間にいるときのように過ごせました。」
馬車から降りて、レティが乗り心地について驚いたように語る。
「でも、旦那様だから出来るのよね。」
エルザの言う通り、空間魔法はそう簡単に使えるものではない。
「ライラ達はどうする。一緒でもいいし、好きなように動いてもいいよ。」
「フフ、素直に奥様と水入らずで過ごしたいと仰ればよろしいのに。」
ロバートの問いかけに、ライラが揶揄う様に言う。
「いや、そういう訳では・・・、あ、食べたいものがあったらこれを使って。」
ロバートが大銀貨5枚(5万ゴルド)を誤魔化すようにライラに渡す。
「まあまあ、こんなに。いえ、ありがとうございます。ありがたく使わせて頂きますね。」
「「ありがとうございます。」」
サラとセラもハモってお礼を言う。
この後、レティとエルザを食事スペースに座らせて、ロバートが屋台から甲斐甲斐しく食べ物を運んできては、舌鼓を打った。レティは味わった食事の感想をメモしていた。美味しかったものを家で再現してみたいのだろう。
結局、ライラ達も、気を遣ってロバート達から少し離れた席に陣取り、色々な屋台から食べ物を調達して楽しそうに食べていた。
そうして、屋台飯を堪能した後、魚介類を大量に買い付けて、再び馬車で自宅へ帰った。
帰りは往きよりも少し速度を上げ、2時間半で到着した。
レティとエルザは、自分達の為に用意してくれた馬車に乗って、改めてロバートからの愛を感じて幸せに浸り、サラとセラも初めての小旅行と新鮮で美味しい食事に感激したのだった。




