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75.兆候

「話は変わるけど、以前婿殿からの望みで『気が付いた範囲でこの付近の地を見守る』と約束した件ね、どうも魔物の氾濫、いえ1000年振りくらいの大氾濫の気配を感じるのよ。何がどうなっているから、とは具体的に言えないのだけど、昔の大氾濫の時に感じた気配と全く同じなのよね。」

 ロバートが古龍の呪いを解いた時に、人々が平和で安心して暮らせるように見守って欲しいとお願いしたことをしっかり覚えていたようだ。


「いつ頃どこで起こるか分かりますか?」

 ロバートの問いに、古龍はちょっと困ったような顔をしながら、

「場所は、前回と同じく人類が大森林と呼んでいるここの麓か、そこのダンジョン付近かな。婿殿の望む答えではないと思うけど、感覚的に早くて30年後、遅くなれば200年後くらいってとこかしら。我々の感覚では誤差だけど、人族にとっては長すぎるでしょう?」

「まあ、そうですね、って、寿命が延びた直後にその情報ですか?」

 ロバートが少し抗議めいた口調で言うと、

「婿殿がいれば、被害は減らせるんだからむしろ感謝して欲しいわね。」

「う~ん、それもそうか。」

 そう言われてしまうと、結果として良かったとも思ってしまう。


「ちなみに、事前に間引いて大氾濫の規模を小さくすることはできないのでしょうか?」

 規模が大きくなる前に対処できるのではないか、とレティが聞くと

「ああ、我も原因は知らないのだけど、大氾濫が起こるときは、いつも直前にいきなり湧くのよ。本当に次から次に湧き出すというのが、ぴったりの表現なの。だから事前に対処は難しいわね。」

「そうなのですか・・・。」

 レティの尻尾が元気なく垂れる。


「まあ、貴方達がいれば、殲滅できそうだけど、場合によっては我も手伝ってあげるから。」

 だからそんなに心配しなくてもいいと古龍が言う。

「ここに住んでる竜種は引きずられないように出来るけど、湧き出た竜は言うこと聞かないのよ。」

「竜種も湧くんですか!?」

 古龍の言葉にロバートが驚く。

「前は湧いたわよ。でも、1万もいなかったけど。」

 古龍が軽く答えるが、国が無くなるレベルを越えている。

「ちなみに、前の大氾濫の総数はどれくらいなのですか?・・・・・・お義母様?」

 レティの質問を聞きつつも、何か言いたげな古龍を見てレティが最後に付け加えると、物凄く嬉しそうに微笑み、

「そうね、ざっくり30万から50万くらいじゃない。」

「「!!?」」

 ロバートとレティは、驚きの表情を浮かべる。

「その時の人類、今の貴方達の国の範囲は、10年程でほぼ全滅したわ。その後、魔物も50年もすればいなくなったけど。」


「魔物の種類は竜以外にどんな種類が湧いたんですか?」

 竜が出る時点で、他の種はどうでもいいかと思いながらロバートが聞くと、

「どんな・・・、多種多様としか言えないわね。魔物と聞いて貴方達が思いつくものはみんないたでしょうし。数の暴力に加えて、下位の竜と戦えるくらいの上位種もいるから、婿殿のように人類の枠から大きく外れた存在がいないとどうにもならないわね。そういう意味では、人類は今回は運がいいのかもね。」


「う~ん。俺達の感覚からすれば、まだまだ先だけど、何かしら防壁とか準備した方がいいのかな。王家に話しても動かないだろうし、また父上とロイに相談するか。古龍様、貴重な情報ありがとうございました。」

「もうっ!お・義・母・様でしょう。」

「は、はい。お義母様。」

 そうロバートが言い直すと、フフと嬉しそうに笑う。



「それでは、お話もひと段落したので、食事にしませんか?ここでは作れないかと思って、準備してきたんです。」

「まあ、それはいいわね。是非食べてみたいわ。」

 レティが提案すると、あっさり了承されたので、収納ポーチからテーブルの上に料理を取り出していく。

「こちらが魚のフライ、オーク肉のカツ、オーク肉の角煮、ミノタウロスのステーキ、新鮮野菜のサラダ、ポテトサラダ、ポテトフライ。こうしてみると揚げ物が多かったですね。どうでしょうか?」

「いいえ、見たことが無い物ばかりで楽しみだわ。食べていいの?」

「はい、私とエルザで一緒に作ったので、是非。」

「えっ!?この娘が?」

 エルザが料理を作ったことが驚きだったようだ。


「もう私の方が人間社会に馴染んだようね。」

 フフン、とエルザが母親にマウントをとっているところを、ロバートとレティが微笑ましく眺める。

「偉そうなことを言う口はこれかしら?」

 古龍が立ち上がってエルザのほっぺをつねる。

「痛、痛、痛いわよ。ごめんなさい、偉そうだったわ。」

「フンッ、まあなんだかんだ楽しそうでなによりだわ。出産で戻ったときは、貴方が出来るだけ料理を作りなさい。」

 エルザのほっぺから手を離し、椅子に座り直す。


「じゃあ、改めて頂きましょう。貴方達も一緒に食べるでしょう?こんなにあるんだから。」

「そうですね。頂きましょう。」

 ロバートがそう言うと、レティとエルザも椅子に座って食べ始めた。


 予想通り、古龍も料理の味にハマった。



 食事が終わった後、古龍が何かが入った小さな袋を手渡してきた。

「夫が好きだった穀物の種籾なんだけど、1000年前の大氾濫で全滅して以来、人類が育ててないみたいなのよ。我が持ってても使わないから育ててみる?」

 ロバートは、初めて見るものだったが、それが何か記憶の中にはあった。

「米・・・?」

「ああ、それそれ。なんか水を張った水田?に種を蒔けばいいだけみたいよ。ただ、種同士をくっつけ過ぎないようにって、言ってたわね。」

「え?直接ただ蒔くだけでいいんですか?」

 ロバートの記憶にある育て方とは違い、簡単なようだ。

「ええ、直接蒔けばいいって。」

「そう・・・ですか。ありがたく頂きます。」


 こうして、偶然にも米を手に入れたのだった。

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― 新着の感想 ―
 米の撒き方が古式で笑った、間違ってはいないけど不作になりやすそうだな。
[一言] 直播式かー。 どうなるかなー?
[気になる点] 数の暴力って、ある特定の思想を持つ多数派の集団が 少数派の集団を排除、批判、弾圧することを意味するから 魔物の数が多くて脅威であることを表現するのは違う気がする。 Wikipedia…
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