72.サラ<双子の姉>
私、サラは双子の妹セラと共に11歳になったので、侍女見習いとして働くことになると、大おばあさまに言われました。
我が家は代々辺境伯様の元でお仕えし、侍女長であった大おばあさまは勿論、両親も祖父母も辺境伯様にお仕えしています。
私達も、幼い頃から侍女として仕えることが当たり前だと思っており、大おばあさまから愛情はありつつも厳しい教育を受けてきました。
私としては、いよいよこの時が来たかという心境です。・・・が、
「お前達2人は、私と一緒に、ライアン様のお屋敷に行くよ。」
大おばあさまからそう告げられました。
辺境伯様の長男であるライアン様--私はお会いしたことはありませんが--は、王女様から婚約破棄された後、望んで貴族籍から外れられたそうです。
現在、ライアン様の奥様がご懐妊され、そのお世話をする人を探しているとのことで、引退した大おばあさまに打診があったそうで、大おばあさまの考えでついでに私達もそこで経験を積めとのことでした。
セラは、大おばあさまと一緒ということで、あまり深く考えていないようでしたが、私ははっきり落胆していました。馬車に辺境伯様と同乗し、領都からどんどん離れて民家もない街道を走っていると、更に気持ちが落ち込んできました。ライアン様がお迎えに来るまでは・・・。
「前方に砂煙が見えます!!」
先頭の護衛騎士の声が聞こえ、周囲の空気が張り詰めました。
「全員戦闘態勢っ!!だが、ハッキリ視認するまでは攻撃するな!」
辺境伯様がよく通る声で指示を出されます。
この辺境伯領の街道沿いでは、滅多に魔物や盗賊は出ないと聞いていますが、絶対というわけではなさそうです。
一行は、一時停止をして、物音ひとつ立てず、近づくものを警戒していました。
「敵ではないー!父上をお迎えに来たー。」
良く通る声が聞こえ、大きな馬が一頭と、それに乗った男の人が近づいてきました。
「ああ、警戒を解け。ライアンが迎えに来たようだ。」
「「はっ!」」
辺境伯様のお言葉で安心したのか、周りの空気が弛緩しました。
馬車に近づいて馬--ではなく魔物です。足が8本あります。--から降りたライアン様が、辺境伯様に挨拶をされました。そして、この先は≪認識阻害≫の魔法が掛けられていて、道が分かりにくいそうです。よって、ライアン様が先導されるので、ついていくことになりました。
私はそれほど魔法に詳しいわけではありませんが、そんな広範囲に≪認識阻害≫の魔法が掛けられるものでしょうか・・・。
しばらく馬車に揺られていると、辺境伯様が呟かれました。
「着いたようだな。」
その言葉に促されるように窓の外を見て驚愕しました。
あの土塀はなんでしょうか?ここに町があって、その中でライアン様も居を構えられているということでしょうか。
門を通り過ぎるときに、騎士が2人警備しているのが見えました。その姿を見て辺境伯様が驚いている様です。確かに、頭を全て覆う甲冑で、中の人の表情は見えませんが、そんなに珍しいのでしょうか。
塀の内側に入ると、町ではなく、2軒の建物しかありませんでした。
建物の後方には、広大な畑が広がっています。
大きな方の屋敷の玄関に馬車がつけられ、辺境伯様に降りるように促され、馬車を降りると、ライアン様と大おばあさまが抱き合って再会を喜んでいます。
辺境伯様のご子息にそこまで慕われている大おばあさまが誇らしいです。
ライアン様の後方から声がかかるのが聞こえて、そちらを見ると、ふっくらとしたお腹を締め付けない為か、ゆったりとした服を着た美しい女性が立っていました。妊婦のようですので、彼女が奥様でしょうか。その美しさに、同性である私も見惚れてしまいました。
屋敷の中に案内され、応接間にてご挨拶をさせて頂きました。ライアン様--今は冒険者としてロバート様と名乗られているそうです--は、穏やかで優しそうな方でした。奥様方--2人いらっしゃって、どちらもご懐妊!?--も優しそうで、お美しい方でした。
レティ様が夕食の準備をされると仰られたので、不躾ではありましたが、お手伝いさせて頂けないかお願いしました。レティ様がロバート様--今後ロバートと呼んでくれと仰られたので--に確認を取った後、快く応じて頂けました。
本来なら、料理は侍女の領分ではありませんが、このお屋敷ではなんでもやらなければいけないと大おばあさまから言われています。料理も出来て損はありません。
「「ひ、広い・・・。」」
私とセラは、こうして驚いた時の反応がよく重なります。
「ええ、旦那様にお願いして広く作って頂いたのです。食材が大きいことが良くありますし。」
艶のある美しい尻尾を揺らしながら、少し頬を赤く染めながらそうおっしゃるレティ様・・・、尊い。
「では、最初に魚のフライを作ります。慣れれば簡単ですからよく見て下さいね。」
ドンッと1.5m程の魚が2匹調理台の上に置かれました。
えーーーっ!?今、どこから魚が???
「今日はタラを使いましょう。エルザは、ソースをお願いできますか?」
「了解ー。」
「まずは、魚をおろします。」
また、どこからともなく刃渡りの長い包丁が現れ、目にも留まらぬスピードでどんどん捌かれていき、15cm程の切身が皿に大量に積みあがっていきます。
「この切身に、小麦粉、といた卵、パン粉を付けます。」
私達にも手順がよく分かるように説明しながら手際よく下準備を進めておられます。
「「私達もやらせてください。」」
私達もパン粉までつける作業を手伝いました。
「これを油で揚げていきます。」
油はそれほど安い物ではないと思っていましたが、
「ここの畑で収穫した菜種から油を採っているのですよ。我々が消費する量くらいなら余裕で賄えます。」
凄い!油も自給出来るなんて!
「とは言っても、栽培から収穫までゴーレム達がやってくれるのですけどね。」
ゴーレム??私達からすると本の中でしかお目にかかれないものです。
「はい、味見です。揚げたてで熱いから気を付けてください。」
「これがソースね。」
レティ様が2つのフライを皿に乗せて私達に差し出されます。エルザ様がその上にソースを掛けられました。黄色っぽいソースで、野菜のみじん切りが混ざっている見たこともないソースでした。
セラと一度顔を見合わせた後、一口食べると、
「「お、美味しいーーーー!!」」