7.レティ
王都へ向かうガリアスの商隊を見送った後、彼女を抱き上げ、森の奥へ進む。
この辺りでいいか、と森の木を素材として、家具付きの小屋を“創造”で作製した。ここまで表情の乏しかった彼女の表情が驚きに包まれる。
小屋の中に入り、≪認識阻害≫の魔法を使い小屋が見つかりにくいようにし、≪結界≫で更に周囲に立ち入りできないようにした。
≪浄化≫で2人の体と服を綺麗にし、≪治癒≫≪回復≫で彼女の体力を復活させた。
薄汚れていた髪と尻尾が美しい銀色の姿を取り戻した。
「えーと、今の状況は理解できるか?あと名前を言えるか?」
ベッドに寝かせた後、尋ねた。
「はい、私はご主人様に奴隷として購入されました。名前はレティシアと申しますが、ご主人様のお好きな名前に変えて頂いて構いません。」
「そうか、名前は変えなくていいな。愛称でレティと呼んでも?」
「承知しました。」
「では、色々と説明していこう。俺は、ランクE冒険者でロバートという。自由な冒険者ライフを過ごして、将来的には悠々自適なスローライフを目指している。最終目的地は、エドワーズ辺境伯領の領都だ。ただ、いつまでにという期限は何もない。その時の気分次第でフラフラと寄り道しながら旅するつもりだ。そこで、旅の道連れとしてレティを購入した。そして、俺は鑑定系のスキルがあるから、レティが、17歳、白狐族の魔法剣士でレベル24ということも知っている。ここまではいいか?」
「・・・すみません。色々と驚きで理解が追いつきません。ご主人様は、ランクEの冒険者であるにも関わらず、賊を一掃し、簡単にこのような小屋を作製し、しかも鑑定系スキルもお持ちと・・・。私のような欠損持ちでは足手まとい以外の何物でもないと思いますが。」
「それなんだが、欠損を治していいか?というか治すつもりでお前を手に入れんだが。」
「えっ!?それはもちろん、治るものなら治したいです。でも・・・」
「じゃあ、治してしまおう」
≪再生≫を右目、右手、左足にそれぞれ掛ける。ファーと白い光と共に欠損が修復され元通りであろう姿を取り戻した。
驚いた。右目周辺の傷で分かりにくかったが、再生された顔は、ものすごく綺麗な顔立ちで、一言で言うと超絶美人だ。また、手と足が再生され、身体のバランスが整ったところで観察すると、素晴らしいプロポーションだ。そりゃ、本音では多少そっちも期待していたが、遥かに予想を上回っている。
「うぅぅ・・・」
と、下心満載な思考を途絶えさせるように静かな泣き声が聞こえた。
「体調はどうだ?何か悪いところはあるか?」
「いえ、ありません。この体が、元に戻るなんて・・・。うぅ、本当にありがとうございます。」
よかった、嬉し泣きか。危ない危ない。
「このご恩は生涯掛けて誠心誠意お仕えし、お返ししたいと思います。」
少し落ち着きを取り戻したようだ。
「まあ、もっと気安く接してくれた方がいいんだけど。でも、今後ともよろしく頼むよ、レティ。それじゃあ、今日はもう日も暮れるから食事をしてここで夜を越そう。レティも今までの疲れが蓄積してるだろうし。ああ、認識阻害と結界があるから、見張りは要らないよ。」
と言って、収納からパンと、焼いたばかりの肉、野菜を取り出し、テーブルに並べる。
うん、呆然としたレティの表情も可愛い。
食事をしながら明日の予定を確認する。
「明日は、今日捕縛した盗賊の住処を探索してみよう。金目のものがあれば、討伐者の権利だから遠慮なく頂こう。それから、南へ向かって近くの街に立ち寄り、レティの服や武器を調達して、冒険者登録もしよう。他に必要なものがあれば、盗賊のものを頂いてから考えよう。」
「承知しました。ご主人様。」
ベッドは2つ用意してあるので、別々のベッドで寝た。レティは相当疲れがあったのか、食事の後、すぐに深い眠りに落ちていた。
俺も出発初日だというのに色々ありすぎて流石に疲れたので、早々に寝ることにした。
「おはよう。レティ。ぐっすり眠れたようだね。」
「おはようございます。ご主人様。お陰様で体調がすっかり回復致しました。」
「うん、それは良かった。じゃあ、食事をして出発しようか。」
翌朝、二人はぼぼ同時に目が覚めた。昨夜と同様に食事を取り出し、朝食をとる。
「レティ、俺のことは名前で呼んでくれないか?なんかご主人様呼びはこそばゆいというか。」
「いえ、奴隷ですのでご主人様とお呼びすべきだと思います。」
「じゃあ、命令するね。俺のことは名前で呼んで。」
「・・・分かりました、ロバート様。」
「やっぱり、様はつくのか・・・。まあ、おいおいかな。じゃあ食べたことだし行こうか。」
「はい。ロバート様。」
外に出て、小屋を収納する。折角作ったんだから、また使おう。
「えっ!」
レティが驚いているので、
「ああ、折角作ったから、また野営するときに使おうと思って。」
「いえ、そうではなく、あの大きさのものが丸ごと収納できるなんて、すごいマジックアイテムなんですね。」
「そ、そうだね、俺の能力に関しても、旅しながら少しずつ教えていくね。じゃあ、行こう。」
≪探知≫と地図スキルで、盗賊の住処は簡単に見つかったが、昨日の襲撃に全員出てしまったのか人の気配が周囲を含めて全く無かった。
「さて、誰もいないようだし、罠も特になしと。一応注意しながら、中を確認しよう。」
「・・・はい。」
結果として、盗賊は意外に貯めこんでいた。現金が約1500万ゴルド。他にも宝飾品、武器、鎧・・・、等いちいち確認してても時間が無いので、全て≪浄化≫して収納した。あとで整理しよう。
「レティは、片手剣でいい?取り敢えず押収品だけど、手持ちがないから持っておく?」
「はい、ありがとうございます。使わせて頂きます。」
「あと、誰が着たかわからない服もあったけど、まだ新しそうなのがあるけど着る?その奴隷用の貫頭衣だと街に着いたときに目立つかもね。もちろん浄化してあるよ。」
「お気遣い頂きありがとうございます。では着替えますね。」
俺の目の前で、躊躇いなく服を脱ぎ捨てて渡した服に着替えている。綺麗だ。悪いと思いつつも目が離せないが、自分の奴隷だからいいだろっと心の中で言い訳をする。
レティは、俺の視線を気にする様子もなく着替え終えた。
「貰うものは貰ったし、近くの街まで行こうか。」
「はい、ロバート様。」