69.慶事
領都で王女と会うなど想定外の出来事もあったが、自宅に帰ってきてから約半年が過ぎている。
精神的にはのんびりとした生活を送りつつも、土塀を作り直し、家の敷地を拡げた。
というのも、ゴーレムの数を増やせる目途が付いたからだ。
ロバートが、自分の魔力回復力をイメージして、ゴーレムの魔法石に付与したらどうなるか試したところ、空気中に薄く分布している魔力を集めることが出来るようになった。つまり、ゴーレムがロバートからの魔力補充無しでも動き続けられるようになったのだ。
農作業用の土ゴーレムを3体追加すると、最初の1体が新たな3体を指導するかのように作業をするようになったので、家の敷地を一辺150mの正方形から一辺400mの正方形へと広げ、畑も以前の5倍ほどに拡張した。
新人?ゴーレムも機能し始め、収穫は良好である。
ロバート達は、たまに数日狩りに出かけては、肉を確保したり、要らない素材をギルドに売却したりしているうちにエルザがランクBに昇格した。勿論、試験を難なくクリアした後に。
エルザに関しては、流石に拳だけでは破壊力はともかく、効率が悪いと考えた結果、ロバートがオリハルコンの棍を“創造”して渡し、主要武器として使うようになった。まあ、本気で振るえば、打たれた方は爆散してしまうのだが。
また、新たな仲間が増えた。
大森林を散策中、地竜を十数頭見つけて狩ったところ、襲われていたと思われるスレイプニルが3頭無警戒で近づいてきて頭を垂れたのだ。どうやら地竜に囲まれ、数の暴力で餌とされるところを結果的に救ってもらった為、自分達の主になって欲しいようだった。
スレイプニルは馬型の魔物で、大きさこそ馬より少し大きい程度だが、馬力、速度、スタミナは桁違いであり、地竜相手でも、1対1なら蹴倒せる力はある。知性も高く、会話は出来ないものの、人間の言うことをある程度理解できているらしい。
その3頭は、どうやら両親と子供(雌)という関係のようで、子供が最初にけがをした為、両親が全力で戦えなかったのだろう。≪治癒≫と≪回復≫を掛けてやったら完全に懐いた。
今後、移動するときに騎乗させてくれそうなので、ギルドに行って従魔登録をしておいたが、お約束なのか、ギルドでは大いに驚かれた。
現在は厩舎を作ってやったのでそこで暮らし、畑には入らない様に敷地を自由に闊歩している。
ゴーレムが、収穫した野菜を厩舎へ届けているのが微笑ましい。
ちなみに最初に相性をみた結果、それぞれロバートが父のタイハクに、レティが娘のヨシノに、エルザが母のコウカに騎乗することにした。
そして最も大きな出来事は、レティ、エルザの2人とも妊娠したことが分かった事だった。
まずレティの妊娠が分かり、その後1月遅れてエルザの妊娠が判明した。
現在レティが4ヶ月、エルザが3ヶ月であり、もうすぐ安定期に入る。とは言ってもそれは人族の話であり、獣人であるレティは既に安定期に入っている。龍であるエルザに関しては人の知識の及ぶところではないが、妊娠しにくい代わりに、流産はほぼ起こらないようだ。
ロバートは、一度霊山の古龍に報告に行くべきだろうと考えている。何しろ、龍の出産に関しては何の知識もないのだから、霊山で出産する方がいいのか相談も必要だろう。
いずれにしろレティの出産のこともあり、赤ちゃんを取り上げられる人の紹介を≪式神≫でロイに尋ねたところ、エリックがロバートの家を見るついでに連れてくるとの返事が来て、その出発がもう間もなくとのことであった。
「ここに俺達の子供がいるのか~。」
3人で居間でくつろぎながら、ロバートが両隣に座るレティとエルザのお腹を交互に優しく撫でながら満面の笑みで口にする。
「はい、旦那様のお子です。ただ、人族寄りなのか、獣人寄りなのか、半々なのか、生まれてみないと分からないのです。」
「それはこだわらないな。無事に生まれてきてくれれば。レティの子ならどうなっても可愛いはずだし。」
「旦那様・・・。」
「はいはい、もうっ、甘ったるいわね。私の方は旦那様には申し訳ないけど、間違いなく龍の子になるわ。元々龍は個体数が少なくて近親だから、龍同士で子供を作ることは少ないの。人族と子を成すことが多いけど、人族の女性から生まれた場合は、大抵母親側の人族か、龍人になるわね。一方で、龍のお腹から生まれた子は、もれなく龍になるわ。だから出産と子育てに関してはお母様に聞かないとね。」
「何も申し訳なく思う必要は無いよ。俺達の子であることに変わりないからね。古龍様の元には、父上の訪問を受けた後、向かうことにしよう。」
その後数日、ロバートは、同じようにまったりとしながら2人の様子を見守っていた。
2人のお腹を愛でるだけではなく、足のむくみを取るマッサージをしたり、肩こりをほぐしたりと、なるべく体が楽になるよう甲斐甲斐しく付き添っていた。
ただ、じっと動かず安静にしているのも良くないので、敷地内を一緒に散歩してスレイプニルに餌をやったり、ブラシをかけてやったりして過ごしていた。
そうこうするうちに、10km程度に広げていた≪探知≫に、エリック一行が引っ掛かった。
「よし、≪認識阻害≫があって分かりづらいだろうから、迎えに行ってくるよ。2人は騎乗しちゃいけないから、留守番しててね。」
そう言い残すと、ロバートはタイハクに乗って、エリック達を迎えに行った。
短編を別途アップしております。
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