66.アークライ伯爵
タイトルの伯爵本人の出番はありません。
レティとエルザを迎えに行ったロバートは、帰ろうと言ったものの、まだ王女が城にいて、且つ今夜晩餐会を開くと聞いていたので、城には戻らず街で宿を取って泊った。
勿論夜に3人で仲良くなることは忘れない。
翌日も、王女が出発するまでは街を散策し、気になるものが見つかれば買って食べることを繰り返していた。
昼前には王女一行が出発し、領都の外に出たので、昼食後、城に戻った。
レティとエルザは、辺境伯夫妻と直に顔合わせをして挨拶を交わした後、クリスティーナに鼻息荒く女子会をしましょうと言われ、有無を言わせず連れていかれた。
それでは、男同士で話をするか、ということでエリック、ロバート、ロイの男3人で、軽くお酒を飲みながら話をしている。
この3人が一緒に酒を酌み交わすのは何だかんだ言って初めてだった。
ロバートは、前回領都に来た後の出来事を2人に話す。拠点の構築、オークション出品、ヒルデガルドとの再会等々。
「また、短い間に色々とあったね。でもエリクサーの噂は耳に届いていたけど、兄さんの出品だったのか。そんな物を持ってたんだ?」
ロイが、呆れた様に言う。
「あれっ!?言ってなかったか?幾らでもあるぞ。そうだっ、何本か置いていくから、城に保管していざという時に使えばいいよ。」
ロバートはそう言いながら、5本、6本と取り出して机の上に置く。
「おいおい・・・、分かった、もうその辺でいい。十分すぎる。はぁ、ただそれはありがたく貰っておくことにしよう。何が起こるか分からんからな。」
エリックがロバートを止める。止めなければ何本出てきたんだ?と疑問を抱えながら。
「あとは、その公爵令嬢は、暗部の者を付けたなら様子見だな。お前達の判断は間違ってない。向こうから通知も挨拶も無かったんだ。公的な訪問じゃないという態度なら、死なない様に見守るだけでいい。」
エリックは、彼女には特に大きな興味を示さなかった。
「それで、アークライ伯爵のバカ息子はどうなりました?」
「ああ、報告が来ていた。最初は無礼だとギャアギャア言ってたらしいが、威圧したらペラペラ素直に喋りだしたらしい。まあ、ほぼ奴の部下の証言と同じ内容だったがな。街で2人を見かけて、イイ女だと思って、部下に捕えて宿まで連れて来いと命じたそうだ。もうほぼ盗賊の振る舞いだな。」
エリックからするととても貴族とは思えない振る舞いに呆れ果てている。
「しかし、あの2人を攫おうとするとか、見た目じゃ分からないにしても正気じゃない。正直、レティとまともに戦える人類なんていないと思うよ。」
「ほぉ、なら手合わせをしてみるか。」
元冒険者の血が騒ぐのか、ロバートの言い様に興味を持ったエリックが楽しそうに笑う。
「じゃあ、全力でやるように伝えておくよ。・・・それで、バカ息子はどうするんだっけ?」
「ここに捕えて置いていても仕方ないから、明日にでもまとめて馬車に軟禁して、うちの騎士団を同伴させて送り返す。抗議文も持たすが、前回のバカ娘の時に送った抗議文も完全に無視されたから、今回は、辺境伯家の管理下で販売している物品の供給を全て止めることを通知する。うちの出荷全体の割合からすると微々たるものだからこっちへの影響はない。」
「ええっと、塩、砂糖、香辛料、海産物・・・、まあ止めても他の領経由か商人から買えるから向こうも致命的にはならないでしょう。割高になりますが。」
ロイが冷静に答える。
「だいたいアークライの奴は、何かと俺に突っかかってくる。北の隣接領だから別にこっちは喧嘩する気はないのに、昔っからそうだ。俺と既に婚約済みだったクリスティーナに求婚してあっさり拒絶されたから、更に俺を逆恨みしているしな。」
「「へ~。」」
意外な過去を知り、何とも言えない息子2人。
「まともだった先代と違い、領主としての責務も果たさず身の丈に合わない贅沢をする為に税を上げた。折角先々代と先代が奮闘してなんとか領民が暮らせるようになっていたのに、税が高いのに凶作が続いてもテコ入れもしないから農民はどんどん逃げている。そのくせ、逃げた農民がうちの領に流れてくると、領民を奪ったと難癖をつけてくる。本当に何なんだあいつは!」
段々とエリックの怒りが増幅されてくる。
「その農民達に対してはどうしてるの?」
ロバートが疑問に感じたことを尋ねる。
「一応、引き取りに来いと連絡するが、文句を言う割には迎えに来ない。だから賃金を払って農地を開墾させてはいる。気が変わって返せと言ってくるかもしれんしな。」
「でも帰ってもまともな生活は出来ないんじゃない?」
ロイが当然の疑問を呈する。
「ああ、だから前回の娘と今回の息子の行動に対する懲罰として、アークライ領からうちの領内への立ち入りを禁止し、入ってきたらこっちの裁量で処分すると通告する。一方的な通告ではあるが、これで逃げてきた農民の生活が立ち行く様にこっちで動くことができる。」
「それでも王都の方へ訴えられると面倒くさいから、宰相あたりには連絡しておいた方がいいんじゃない。まあ、餓死する状況から逃げてきた農民を保護したってことで言い張ればこっちが罰せられることは無いと思うけど。」
ロバートがつまみの干物を食べながら言う。
「そうだな。ついでに取り上げた魔導具のことも含め、ジョージの奴には伝えておこう。後で通信魔導具で王都の屋敷にいるポールに伝えて、連絡させれば早いな。お前の魔力を当てにしていいか?」
「ええ、通信に使うくらい幾らでも。」
「普通は通信に使うのも枯渇しちゃうんだけど・・・。」
ロバートの返事に、ロイが突っ込む。
その後も色々と領内外について情報交換や領の方針等の話を続けてから、夕食前に王都のポールへ連絡し、宰相への伝言を頼んだ。
翌日、大言壮語を吐いた息子に現実を見せてやろう、と軽い気持ちでレティに模擬戦の相手をさせたエリックだったが、真剣ではなく木剣を使った為、ロバートに魔法抜きで遠慮なくやれと言い含められたレティに手加減なくボコボコにされたのだった。
これにて第二章は終了です。




