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65.絡まれた2人は

 アークライ伯爵家といえば、以前領都に来た時に遭遇した馬車事故を引き起こしたのが、その伯爵家の令嬢だったはずだ。

 その後、領の騎士団に連れていかれたその令嬢がどうなったかは知らないが、この伯爵家はあまり子供の教育に熱心ではないようだ。


「いえ、お断りします。私達は既婚者ですので。」

 レティが、一応丁寧に、波風を立てない様に断る。

「なに!?生娘ではないのか?・・・だが私的には人妻を寝取るというのそそられるものが・・・。」

 その男の妄想が口からダダ洩れなのに、2人ともドン引きしている。


「まあ、そういうわけだから。」

 相手にしてはいけないという直感は大正解のようなので、そそくさとその場を離れようとする。

「ま、待て!」

 キィンッ と音がして、2人の側で何かを弾いた感覚があった。

 振り向くと、男が何らかの魔導具を手にしていた。

 おそらく魔導具が発した効果を2人のブレスレットが弾いたのだろう。


 スッとエルザが動いて、男を背負い投げした後、腕をねじり上げて魔導具を取り上げる。

「痛っ!痛っ!!くそっ!放せ。」

 押さえつけられた男が喚いているが、エルザが適当に魔導具を触って男に向けると、男はガクッと眠ってしまった。

「ふ~ん。どうやら相手を眠らせる魔導具みたいね。これで私達を眠らせて攫おうとしたのね。」

 まさか、こんな街中で堂々と女性を眠らせて攫おうとするとは・・・、エルザがあきれながらレティの元に戻り、魔導具を見せている。


「おい、それは伯爵家の物だ!返してもらおう!」

 騎士姿の男が2名近づいてくる。既に剣を抜いており、エルザに向けている。

「返せばそれを使って私達を攫うのでしょう?それに、街中でいきなり剣を抜くなど、ただでは済まないと思いますよ。」

 レティが場違いなほどゆったりと言う。エルザはそれを見て、これはかなり怒っているなと、騎士たちを気の毒に思う。

「剣を抜いたということは、自分が死ぬかもしれないという覚悟を決めたのですね?」


 そう言うと、サッとオリハルコンの斧を取り出し、石突を地面にズドンと突く。

 騎士達は、一瞬怯んだが、

「ゴチャゴチャ言ってないで、その道具を返して、大人しくついてくればいいんだよ。」

と、剣を振りかぶって同時に切りかかってくる。攫おうとしている女に切りかかってどうするのか。


 ブンッ、とレティが斧を一振りし、騎士2人の剣をまとめて切り捨てた。

 根元から切られた剣が明後日の方向に飛んでいく。

「な、な、なんだと!?」

「バ、バカな!?」

 騎士が驚愕で動きが止まっている隙に、エルザが腹部に軽く拳をぶち込む。本気でやれば文字通り風穴が開いてしまっただろう。

「「ぐぇぇぇぇーーーー!」」

 2人して地面に倒れこみ悶絶して、足をバタつかせている。


「軽く撫でただけで大げさね。」

「エルザも的確に手加減出来るようになりましたね。ちゃんと生きていますよ。」

 レティの不穏な発言に、いつの間にか集まっていた野次馬がサッと後退している。


「何の騒ぎだ?」

 気が付くと、辺境伯家の騎士が近寄ってきていた。

 冒険者ギルドへは領外からも冒険者がたくさん訪れ、尚且つそれなりに騒動を起こすので、騎士団の出張所が近くに設置してある。よって、騒動があれば直ぐにやってくるようだ。


「なんか伯爵家の愛妾にしてやるって、勝手なことを言うから断ったら、この魔導具で私達を眠らせて攫おうとしたみたい。組み伏せて魔導具を取り上げたら、そこの騎士が切りかかってきたから排除しただけよ。これが証拠の魔導具よ。」

 エルザが簡潔に説明して、魔導具を渡す。

「ふむ。もう一方からも事情を聞こうにも、3人とも答えられそうにないな。1人はこの魔導具で眠ったのか?まあいい、お前達はとりあえず見物人から裏を取れ。」

 1人は睡眠中、2人は悶絶中の為、今直ぐに事情聴取するのは諦め、部下に聞き込みを指示する。

 レティはその騎士を見て、ハッと気が付いた。前回事故を起こした令嬢の時にも対応した騎士だと。


「騎士様。そこの眠っている男が、アークライ伯爵家の令息の名前を出していました。ちなみに覚えておいでか分かりませんが、私達は、以前のアークライ伯爵家令嬢の馬車事故の時もその場にいました。」

「んっ?・・・・、あ~貴方はあの時の!でもまたアークライ伯爵家ですか・・・。えっ!?ということは、貴方達はライ・・・」

「あっ!それ以上は・・・」

「あっ、これは失礼しました。しかし、本当に伯爵家の者なら、しっかり事情を聞かないとダメですね。」



 騒動を見物していた人々からの聞き取りによって、エルザの言い分が正しいと判断され、3人は連行されて事情聴取されることになった。

「では、一緒においで頂けますか?城の方へ連絡を入れますので。」

 小声で騎士に伝えられ、レティとエルザは顔を見合わせて、もっと街を見たかったけど仕方ないかとついて行った。

 

 その後、近くにある出張所ではなく、城に隣接している騎士団の詰め所の方に連れていかれた。

 どうやら3人の取り調べはじっくりとやるらしい。

 レティとエルザは、お客様扱いで、上等な応接に通されて、女性騎士に担当が代わり、改めて調書を取られた。特にやましいところは無いので、2人は正直に答えていく。

 

 調書を取り終わり、女性騎士が礼を言って出ていくと、コンコンと扉をノックされ、現場に来ていた騎士がロバートを案内して入ってきた。

「お迎えがいらっしゃいましたよ。」

「「旦那様っ!」」

「うん、勿論大丈夫だとは思ってたけど・・・、問題なさそうだね。」

 ロバートが安堵した様に言う。

「ええ、私達は問題ないし、相手もちゃんと殺さずに穏便に済ませたわ。」

 全然穏便ではないのだが・・・。


「ははは、そうみたいだね。彼らのご主人様の伯爵令息も宿にいるところを確保されて、連行されたらしいよ。」

「でも何故私達だったんでしょう?」

「まだ事情聴取中らしいから・・・、後で父上に報告が上がるでしょ?」

「はい、勿論辺境伯様にご報告します。速報は既にお伝えしておりますが。」

 騎士が答える。

「じゃあ、彼女達はもう帰っていいよね?」

「はい、ご協力ありがとうございました。」

「よし、それじゃあ帰ろうか。」


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― 新着の感想 ―
[一言] お二人が無事に合流出来た事、官憲が正常に働いてくれた事でホッとしました。やっとモヤモヤが晴れました。 貴族=犯罪を許されるモノ、と考えているケダモノどもには徹底的な処分をお願いしたいです。…
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